米ジェットゼロ、翼胴一体型デザインで排出量削減を目指す

ジェットゼロによるブレンデッドウィングボディー機のデザイン/JetZero

2023.10.21 Sat posted at 17:30 JST

(CNN) 民間航空機の基本設計は、過去60年間ほとんど変わっていない。ボーイング787やエアバスA350といった現代の旅客機は、1950年代後半に製造され、円筒形の機体と翼で構成される「チューブ・アンド・ウィング」の形状を確立したボーイング707やダグラスDC―8と同じ一般的な形状をしている。

しかし、航空業界は、二酸化炭素(CO2)排出量を削減する方法を懸命に模索する中、他の業種よりも難しい課題に直面している。それは航空機の中核技術を変えるのが極めて困難であることが証明されているためだ。しかし、今こそ新しい技術を試す時かもしれない。

そこで提案されているのが翼胴一体型の「ブレンデッドウィングボディー(BWB)」だ。この全く新しい航空機の形状は、ステルス爆撃機B―2などの軍用機に採用された「フライングウィング」のデザインに似ているが、ブレンデッドウィングの方が中央部の容積が大きい。現在ボーイングとエアバスの大手2社に加え、カリフォルニアに拠点を置くスタートアップ、ジェットゼロもBWBの研究開発を進めており、2030年までにBWB航空機の運航を開始するという野心的な目標を掲げている。

ジェットゼロの共同創業者兼最高経営責任者(CEO)、トム・オリアリー氏は、BWBの機体は燃料消費量やCO2排出量を(従来機と比較し)50%削減できる可能性があるとしている。


ジェットゼロのブレンデッドウィングボディー機の完成予想図/JetZero

実現を阻む技術的課題

フライングウィングと従来のチューブ・アンド・ウィングの一種のハイブリッドであるブレンデッドウィングは、航空機の機体全体で揚力を発生させる一方、抗力を最小限に抑えることができる。

NASAのブレンデッドウィングボディー機「X-48」

米航空宇宙局(NASA)は、この形状は「航空機の燃費の向上に役立つのと同時に、機体の中央部により大きな積載(貨物または乗客)スペースを生み出す」としている。NASAは、同局の実験機の一つ「X―48」を使ってBWBの試験を行ってきた。07年から12年にかけて、無人かつ遠隔操作可能な2機のX―48を使って、120回を超える試験飛行を行い、BWBの実現可能性を実証した。

NASAは、このBWB旅客機は、ボーイング747よりも翼幅(よくふく)がわずかに長いだけなので、既存の空港ターミナルでも運用可能とし、さらに同程度の高度な機能を有する既存の輸送機よりも重量が軽く、騒音やCO2排出量が少なく、運用コストも安いと付け加えた。

エアバスも20年に全長約6フィート(約1.8メートル)の小型のBWB試作機を作っており、将来フルサイズのBWB航空機を作ることにも関心があると見られる。

では、このブレンデッドウィングという形状が非常に効果的であるにもかかわらず、なぜまだこの形状の飛行機が製造されていないのか。

この疑問についてオリアリー氏は、この形状には飛行機メーカーに二の足を踏ませる、ある大きな技術的課題があると指摘する。その課題とは非円筒型の胴体の与圧だという。

オリアリー氏によると、円筒形の飛行機の方が、飛行中に繰り返し発生する胴体の膨張と収縮への対応に優れているという。

「チューブ・アンド・ウィング型の場合、荷重が分離され、胴体には与圧荷重、翼には曲げ荷重がそれぞれかかるが、ブレンデッドウィングの場合は、基本的にこの二つの荷重が一体化する。現時点では、軽くて強い複合材料によってのみ実現可能だ」とオリアリー氏は言う。

またオリアリー氏は、BWB旅客機は現在の広胴型機と比べても胴体の幅が圧倒的に広いとし、さらに次のように続けた。

「一般的な単通路型航空機の座席は、左右に3席ずつの配置になっているが、BWBの胴体は短く、幅が広い。乗客数は同じだが、各航空会社の配置の仕方によって、座席の横の列が15列か20列になる可能性もある」

ジェットゼロは2030年までに自社の航空機を就航させたい考えだ

革命的な可能性

ジェットゼロは、旅客機だけではなく、貨物機と空中給油機も同時に開発したいと考えているが、BWBの形状は特に空中給油機に適しているため、米空軍は同社に対し、実物大の試作機を開発し、「ブレンデッドウィング」コンセプトの性能を検証するための費用として、2億3500万ドル(約350億円)の資金を提供した。ジェットゼロは27年までに初飛行を行う予定だ。

しかし、全く新しい飛行機をゼロから作るというのは非常に大変な作業であり、既存の飛行機の派生型でさえ認証プロセスを完了するのに何年も要することがあるのを考えると、ジェットゼロの(30年までにBWB航空機の運航を開始するという)目標は野心的と思える。

ジェットゼロがBWBの分野で持つ強みとしては、同社のBWB機は、当初、ボーイング737のような現在運用されているナローボディー機(狭胴機)のエンジンを借用する点だ。ただ、同社は最終的に水素で駆動する完全にエミッションフリーの推力に移行する計画だが、その実現には、まだ開発されていない新しいエンジンが必要だ。

ジェットゼロのBWB航空機はまだ1件も受注はないが、オリアリー氏によると、複数の航空会社が興味を示しており、現在世界中の大手航空会社と交渉中だという。

しかし、燃料消費量の50%削減が実際に可能か否かはまだ定かではない。NASAとエアバスはともに独自の設計で削減できるのは20%としているが、米空軍は、BWB機は現在の空中給油機や輸送機に比べ、空力効率を少なくとも3割以上改善できるとしている。

コンサルティング会社アビエーション・バリューズの航空アナリスト、ベイリー・マイルズ氏は、BWBが実際にどれだけ抗力を抑え、燃費を向上させるかは、その飛行機の設計、構成、運用条件によるとし、抗力低減効果や燃費向上効果を見極めるにはさらなるテストが必要だと指摘する。

マイルズ氏は、BWBは将来性のある「画期的な」アイデアとしながらも、いくつかのハードルが存在するとし、その具体例として、空力的複雑性が増すことにより設計やテストが困難になる可能性があること、規制や認証に関する一連の課題、さらにBWBの形状が既存の空港インフラに適さない恐れ、の3点を挙げる。

マイルズ氏は、BWBの課題は他にもあるが、中でも特にこれら三つの課題を考えると、30年までにBWB航空機の運航を開始するというジェットゼロの目標は「非現実的だ」と指摘した。

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