中国が世界で100カ所以上の警察署を開設、一部の国は支援も 報告書

オランダ・ハーグの中国大使館入り口。オランダはアイルランドと同様、国内で見つかった中国の警察署を閉鎖した/Bart Maat/ANP/AFP/Getty Images

2022.12.10 Sat posted at 23:00 JST

ロンドン(CNN) 中国政府が世界各地にいわゆる「海外警察署」を100カ所以上開設していることが、CNNが入手した最新の報告書から明らかとなった。この報告書によると、中国は亡命した中国人に対する監視やいやがらせ、場合によっては送還を行う目的でこうした警察署を設置し、国境を超えたプレゼンスを確保しようと欧州やアフリカ諸国と締結した二国間の安全保障協定を利用しているという。

今年9月、マドリードを拠点とする人権活動団体「セーフガード・ディフェンダーズ」はこうした海外警察署が全世界54カ所に存在することを明らかにした。同団体はその後、新たに48の海外警察署が中国により運営されている証拠をつかんだという。

「巡回と説得(Patrol and Persuade)」と題した最新の報告書は中国の海外警察ネットワークの規模に着目し、中国がイタリア、クロアチア、ルーマニアなど複数の欧州諸国と実施する合同取り締まり活動の役割について検証している。こうした活動は、中国が以前認識されていたよりも広範囲に海外警察署を拡大する上で、先導的な役割を果たしてきたという。

同団体が新たに展開する主張には、パリ郊外にある中国の海外警察署で秘密裏に働く工作員が、中国人1人を強制的に帰国させたという内容もある。この工作員は明らかにこの目的のために雇われた人物だという。以前の報告では、亡命中だった2人の中国人――1人はセルビア、1人はスペインに滞在――が欧州から無理やり帰国させられたことが示されていた。

警察署を運営しているのは誰か?

セーフガード・ディフェンダーズは人権侵害があったとされる事案の証拠を求め、オープンソースの中国公文書をくまなく調べる中で、世界各地の少なくとも53カ国で活動する中国公安部の4つの警察管轄区を突き止めたという。こうした組織は海外に渡った中国人のニーズをサポートするというのが表向きの任務だ。

中国は、自国領土外での隠れた警察部隊の運営を否定している。中国外交部は11月、CNNに「関係当事者には、事実を誇張して緊張状態を招くことは差し控えてもらいたい。これを口実にして中国を中傷することは容認できない」と語った。中国はこうした施設が行政拠点であり、海外在住の中国人を運転免許証の更新といった作業でサポートするために設立されたと主張している。さらに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で大勢の市民が海外で足止めされて中国に戻れず、書類の更新ができない状況に対応するものだとも説明する。

CNNが先月、セーフガード・ディフェンダーズの最初の報告について中国外交部に尋ねたところ、海外の部局はボランティア職員で運営されているとの説明があった。だが最新の報告書によれば、同団体が検証した警察ネットワークの一つは、最初に設立された21カ所の警察署で135人を賃金を払って雇用していたという。

同団体は、ストックホルムにある海外警察署の職員が結んだ3年間の雇用契約書も入手した。

公式な在外公館以外で隠れた領事活動を行うことは極めて異例であり、違法だ。これには受け入れ国からの明確な同意が必要だ。セーフガード・ディフェンダーズの報告書によれば、中国の海外警察署はパンデミック発生の数年前から存在していた。

同団体の報告書をきっかけに、これまでに少なくとも13カ国で捜査が始まり、中国系移民が多く暮らすカナダなどの国々では、中国との間で外交上の軋轢(あつれき)が深まっている。

海外での法執行や政治的迫害を目的に、法的に認められない手段を利用していると非難される超大国は中国だけではない。

例えばロシアは過去に2度、英国国内で致死性の化学物質や放射性物質を使用して元スパイを暗殺しようとした疑いがもたれている。ロシアはこうした容疑を一貫して否定している。

米国では2001年同時多発テロ事件の後、中央情報局(CIA)がテロ容疑者をイタリアの街中からグアンタナモ湾に連行するスキャンダルの渦中にあった。

とはいえ、海外在住の中国人に対する大規模な抑圧が行われていると示唆する今回の報告書は、本国が国内の混乱に手を焼く重大な時期に公表されることになった。こうした混乱は、3期目に入った習近平(シーチンピン)政権の厳格なゼロコロナ政策に対する疲弊感が背景にある。新型コロナウイルスの発生から3年、政府は先週になってコロナ規制を一部緩和する方針を示した。

世界第2の経済国である中国は、新たな警察署が発見されたと主張されている国々の多くと深い関係を育んできた。これらの政府にとっては、商業利益と国家安全保障のバランスをとるという厄介な問題が生じている。

中国が各国と警察のパトロールで協定結ぶ

イタリアは15年以降の歴代政権下で中国と二国間安全保障協定を結んできたが、自国内で行われているとされる活動が明るみに出てもほとんど口を閉ざしたままだ。

イタリア警察は16~18年に中国警察と合同パトロールを複数回実施した。初めはローマとミラノで、その後ナポリを含む他の都市でも行ったが、セーフガード・ディフェンダーズはこうした街で、合同パトロールと同じタイミングで中国人居住エリアに映像監視システムが導入された証拠をつかんだと語る。「現地の犯罪を効果的に抑制するため」に導入されたというのが表向きの理由だ。

16年、イタリア警察関係者は米国の公共ラジオNPRに、合同パトロールが「両国を悩ませる犯罪集団やテロリスト集団の撲滅に向けたより広範な国際協力、情報交換、リソースの共有につながるだろう」と語った。

セーフガード・ディフェンダーズは、ベネチアやフィレンツェ近郊のプラトなど、イタリア国内11カ所に中国の警察署があると断定した。

中国の複数のウェブサイトに投稿されていた動画によると、18年にローマで行われた警察署の開所式にはイタリア警察関係者も出席しており、両国の警察当局の密接な関係を物語っている。

在イタリア中国大使館が江沢民・元国家主席の死去を受けて半旗を掲げる=11月30日

イタリアの地元紙ラ・ナツィオーネの報道によれば、今年こうした警察署のひとつに対して地元の調査が行われたが、違法行為は一切発見されなかったという。地元紙イル・フォッリョは警察幹部の最近の発言として、こうした警察署は単なる行政機関のように見え、とくに気がかりな点はなかったと報じている。

CNNはイタリアの外務省と内務省にコメントを求めたが、返答はなかった。

中国は18~19年に、同様の合同パトロール協定をクロアチア、セルビア両国と結んでいる。習氏の肝いり外交政策「一帯一路」構想のコースに沿って、戦略的拠点を増やす取り組みの一環となっている。

ごく最近では今年7月、クロアチアの首都ザグレブの街中で、中国人警察官が現地警察と合同パトロールを行う姿が見られたと中国メディアが報じた。

中国メディアの新華社通信からインタビューを受けたザグレブ警察関係者は、「外国人観光客を保護し引きつける」ために合同パトロールは必要不可欠だと語った。

19年のロイター通信の報道によれば、中国人警察官は殺到する中国人観光客への対応支援として、首都ベオグラードでセルビアの警察官と合同パトロールを実施した。あるセルビアの警官は、中国側には逮捕する権限は与えられていないと語った。

セーフガード・ディフェンダーズによれば、中国は南アフリカにも足がかりを得てきた。さらに、近隣諸国とも南アフリカと同様の協定を結んで足を伸ばしている。

中国は20年ほど前から南アフリカの警察当局との取り締まり連携強化で基盤を固めてきた。両国間で継続している安全保障協定に基づき、南アフリカ政府の協力のもと「海外中国サービスセンター」の正式名称を持つネットワークを設立した。

在ケープタウン中国領事館は、この計画で「南アフリカ人も、南アフリカ在住の外国人も、あらゆるコミュニティーがひとつになれる」と述べた。

さらに、設立以降、ネットワークは「コミュニティーに対する犯罪防止に積極的に取り組み、犯罪件数を大幅に減少させている」とも言及。センターは「取り締まり権限」を持たないNPO団体だと説明した。

米ワシントンのシンクタンク、ジェームズタウン財団が19年にまとめた中国情勢に関する報告書によると、中国メディアはセンターへの支援を表明する南アフリカ政府関係者の発言を頻繁に報道してきた。そうした関係者は、センターの活動のおかげで警察と現地で暮らす中国人の関係が深まっていると語っているという。

CNNは南アフリカ警察に連絡を取ったが、コメントを得られていない。

本人の意思に反して帰国を強制する中国

セーフガード・ディフェンダーズが警察ネットワークの存在に気づいたのは、中国が自国民の一部に本人の意思に反して帰国を促している取り組みの規模を調査していた時だった。中国の公式データに基づけば、そうした人々の数は習政権の間に全世界でおよそ25万人にのぼる。

「中国からの動きとしては、世界のあらゆる場所で反対分子への弾圧、人々への恐喝、嫌がらせをする試みがますます進むだろう。十分怖がらせて黙らせるか、自らの意思に反して中国に強制送還させるための取り組みだ」と、セーフガード・ディフェンダーズのキャンペーン・ディレクターを務めるローレン・ハース氏は言う。

「最初は電話から始まる。中国本土にいる親族への恐喝だったり、あるいは本人への脅しだったり、あらゆる手を使って海外の標的をなだめすかし、帰国させようとする。それが上手くいかなければ外国で秘密工作員を使う。北京から工作員を派遣して、誘惑やおとりといった手段に出るだろう」(ハース氏)

フランス内務省は、中国人がパリ郊外にある中国の警察署により帰国を強制されたとの主張に対するコメントを控えた。

報告書で火が付いた怒りと調査

報告書による暴露を契機に、一部の国々では怒りの声が高まる一方、あからさまに口を閉ざしている国もある。

米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官は先月、上院の国土安全保障委員会で、報告書の内容に深い懸念を示した。「中国警察が、適切な調整もなくニューヨークで店を開こうとしているなど、言語道断な考えだ。主権の侵害であり、標準的な司法上、法執行上の協力プロセスを回避している」

アイルランドは国内で確認された中国警察署を閉鎖した。オランダも同様の措置を講じ、現在調査を進めている。スペインもオランダと同様の対応している。

セーフガード・ディフェンダーズのハース氏はCNNに、今後もさらに多くの警察署を見つけることになるだろうと語った。「これは氷山の一角に過ぎない」

「中国は自分たちの行いを隠そうとしていない。こうした活動を拡大していくと明言していて、事態を重く受け止める必要がある」

「今は各国が熟考を迫られるタイミングとなっている。これは自国における法の支配と人権の問題であり、それは中国から来た人々のためであり、また世界中の他の全員のためであるという点の考慮だ」

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