街の中心部に野生環境を、各地で進む「都市の再野生化」

世界各地で都市の「再野生化」の取り組みが進んでいる/IVN Natuureducatie

2023.01.03 Tue posted at 20:01 JST

(CNN) 未来都市のイメージというと、天にも届く高層ビルや空飛ぶ車、持続可能性の問題を解決するハイテク技術を思い描きがちだ。

だが、これとは違うイメージがある。そこでは都市が建設される前の野生環境が復活し、長らく失われていた森や動物も勢ぞろいしている。こうした未来は「都市の再野生化運動」という形をとって、世界の大都市で実現に向けて動き始めている。

こうした最近の流れの先駆者に、植物学者の宮脇昭氏がいる。同氏は日本の植生を研究していた1970年代、重大な発見をした。ずいぶん前に耕作地から姿を消した古代原生林の生態系が、寺や墓地など放置された場所で存続し、繁栄していることに気づいたのだ。

宮脇氏は国内の小規模な場所で、その土地ゆかりの土壌や植物を使った日本の自然林再生事業を立ち上げた。多くの場合、結果は目を見張るものだった。あっという間に密集した多様な生態系が発達したのだ。

以来、この「ミヤワキメソッド」は世界的ムーブメントとなり、宮脇氏の理論を指針にした小さな森が米国、欧州、アジアで繁茂している。ベイルートからボルドーに至る都市環境でも定着し、都市の中心に手つかずの自然を呼び戻す運動を牽引(けんいん)している。

自己発達生態系

ミヤワキメソッドによる大型プロジェクトのひとつが、オランダのNPO団体「環境教育研究所(IVN)」の取り組みだ。この団体のタイニー・フォレスト計画は、道路脇やオフィス街、学校などの都市部で、テニスコートほどの広さの区画を250カ所以上展開している。

「まずは区画の選定から始まって、その場所の土壌の種類、水量レベル、潜在自然植生を調べる」と、IVNの植樹責任者ダーン・ブライフロト氏は言う。「そのために過去を振り返って、かつてどんな植物が生育していたか探っている」

いったん草木を植樹すると、人間の介入は最小限にとどめられる。時間が経つにつれ生態系は発展し、ひとりでに息を吹き返す。11カ所の森を対象にした調査では、600種以上の動物と300種近い植物が見つかった。ブライフロト氏の話では「勝手に森の中に姿を見せた」のだそうだ。

こうした森は二酸化炭素吸収源としても機能する。先の調査によると、年間の平均二酸化炭素吸収量は127.5キログラムで、1台の車が300マイル(約483キロメートル)走行した時の二酸化炭素排出量に相当する。森の成熟に伴って、吸収量も倍増する。

森には冷却効果もある。研究の結果、近隣の道路と比べると、土壌の温度は最大で20度低いことが判明した。

気候変動への耐性

再野生化という概念は、人里離れた地方で盛んだった。再野生化は広い意味では、その土地の自然生態系や自然作用を回復することを指す。イエローストーン国立公園ではオオカミが呼び戻され、カルパチア山脈では古代原生林が再生された。同じ理論が都市部にも応用できるというのが環境活動家の考えだ。

都市の再野生化は「森林整備の介入を極力ゼロにして、長期的に都市の生態系をより複雑化することを目指す手法だ」と語るのは、ロンドン動物学会(ZSL)の上級研究員ナタリー・ペトレリ氏だ。ペトレリ氏は、先ごろ発表された、都市の再野生化に関する報告書の筆頭著者でもある。

報告書に列挙されている一連の介入例には、野生動物にゴルフ場の土地改良や鉄道インフラ周辺の開発を任せることに始まって、私有地の植生の増加や、公園管理をやめて自然の経過に任せることなど多岐にわたる。「積極的な植え替えや、狙いを絞った種の再生も該当するかもしれない」(ペトレリ氏)

街中にある小さな森には動物や植物が引き寄せられる

ペトレリ氏によれば、都市の生態系回復により考えられるメリットには、気候変動に対する耐性強化や環境汚染の減少、失われた生物多様性の回復、住民の健康促進などがあるという。

ペトレリ氏の話では、都市の再野生化は「比較的新しい」運動で、思い切ってこうした方向に舵(かじ)を切った都市は一握りだという。シンガポールでは野生の生態系を育む「スーパーツリー」や緑の回廊が建設された。ドイツでは3つの街で、野生生物の生息地を自生させるための区画を設ける計画が進められている。

英国のノッティンガムでは、さらに大胆な再生事業案が出された。当初の案では、繁華街にある荒廃したショッピングモールが、林や天然牧草地に囲まれた都会のオアシスに生まれ変わる予定だった。地元議会は現在、著名な設計者トーマス・ヘザーウィック氏と協力して、街を広大な「緑の中心地」に再開発し、モールにも緑を生い茂らせる修正案を推し進めている。

「グリーン高級地区開発」は避ける

ロンドンでも野心的な試みがいくつも進められ、市長直属の「ロンドン再野生化タスクフォース」が仲介となって、互いに補完し合う数十の独立したプロジェクトを支援している。地元当局や活動家の尽力で数世紀ぶりにビーバーがロンドンに呼び戻された他、新たに林地が開発され、チョウの生息地が設けられた。

次の段階としては、管理された草地を野生の牧草地に転換してミツバチやチョウや野生の花々のために数キロにわたる緑の幹線道路を作り、放牧した家畜の群れを呼び戻してロンドン郊外の生態系を形成することなどが考えられる。だが、こうした未来はトップダウンとボトムアップ、両方向から行われる。

「広い空間を必要とする大がかりなプロジェクトと同時に、一般市民の玄関口でできるような小規模な取り組みをロンドン全域で推し進めたい」。こう語るのは、ロンドン市のシャーリー・ロドリゲス環境担当副市長だ。こうした取り組みには、地元近隣の野生環境レベルを記録して、最優先に保護すべき生物種を特定することも含まれる。

このような計画は道楽ではない。ロドリゲス氏は、国際都市が大なり小なりこうした計画を進めるのは当然の流れだと言う。「再野生化により生態系が回復し、地域内の多種多様な生物種の種類や数が増えることは分かっている。それだけでなく、よりグリーンで健全な街を作り、気候変動の影響に対する回復力を向上させるという広い役割も担っている。その上、ロンドン市民の心身の健康も改善される」

ZSLは都市の野生化計画がたびたび直面する問題を挙げている。大規模な計画には公的資金が必要だが、厳しい時代には予算も不足する。野生の土地を何もせず放っておけば、外来種が侵入して生態系に支障をきたす危険もある。

プロジェクトを継続させるには地元住民の同意も欠かせない。対象地域から住民を追い出す「グリーン高級地区開発」も避けなければならない。再野生化に挑戦するには、殺虫剤や人工芝といった有害な慣習にも対処しなくてはならない。「より厳格な法規制を敷いて、都市の自然回復の努力を妨げるような行動の拡散を防止する必要がある」とペトレリ氏も言う。

だが、こうした活動は勢いを増しつつある。ブライフロト氏はタイニー・フォレスト計画と並行して実施する補助計画として、学校での緑化活動や公共スペースでの食物栽培、持続可能な水管理の実験などを挙げている。すでにタイニー・フォレストはキュラソー島からパキスタンまで10カ国にネットワークを広げており、現在は地元の学校と密に協力しながら、次の世代の意識向上に力を入れている。

「生態系の回復に挑戦する、より大きな運動、再野生化による再生活動の一員になった気分だ」(ブライフロト氏)

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