型破りなトランプ外交、日中の接近招く結果に

ともにトランプ氏の圧力にさらされている日中政府。ここへ来て急接近の兆しか/Photo Illustration/getty images

2018.10.25 Thu posted at 20:53 JST

(CNN) そのとき、なんとも決まりの悪い瞬間が世界中のメディアに発信された。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席と日本の安倍晋三首相が、両国の指導者として2014年に初めて会談。握手はしたが目はうつむき加減で、表情は厳しかった。

両者ともまるで、北京でのこの会談を楽しんでいると受け取られるのだけは何としても避けようと、固く心に決めているかのようだった。

それから4年が経過し、安倍首相は25日、中国を初めて公式訪問する。あのときよりはるかに暖かい歓迎を受ける予定だ。

その大きな要因は米国のドナルド・トランプ大統領にある。

トランプ政権の貿易や軍事同盟に関する型破りな外交方針の結果、日本政府は米国からの支援に不安を抱くようになっている。第2次世界大戦終結以来、米国からの支援は日本にとって国際関係を築く上での礎であり続けた。

トランプ大統領は東アジアの同盟国に対して、自国の防衛予算増加を何度も要求し、同地域での米軍のプレゼンスに終止符を打つ意向を示してきた。一方で日本には、米国製の武器をさらに多く購入するよう促した。

東シナ海の向こう側にいる中国は、トランプ政権からの圧力が日増しに高まるなか、この地域での外交的、経済的な味方を切実に必要としている。

上智大学で政治学を専門とする中野晃一教授は、日中両国が米国のターゲットになっていると指摘。習主席は安倍首相に「我々はこの点で一緒だ」と呼び掛けたいとの見方を示す。

中国のみならず東アジアの同盟国に対しても通商・安全保障面で圧力をかけるトランプ氏

トランプのカード

日中それぞれの政府と米政権の関係は、一方は境界線を争う敵対国、もう一方は緊密な同盟国と歴史的に非常に異なるものだった。だが、トランプ政権では日中が似たような要求にさらされている。

米国と中国との摩擦は周知のものとなり、世界経済や外交関係に影響が広がっている。

米当局は中国が知的財産を盗んだと非難し中国製品に対する関税を引き上げ、数十億ドル規模の中国製品が締め出された。

この数カ月では、摩擦は経済問題を越えて軍事や政治の分野に及び、トランプ氏は中国が米国の選挙に干渉しているとの主張も展開している。

日本にとっては、米国との衝突はより複雑で予測不可能なものとなっている。米国は70年以上にわたり日本政府の緊密な軍事的、外交的な同盟国だったからだ。

安倍首相は2016年の米大統領選挙後初めてトランプ氏と会談した一国の指導者だった。

その後も会談を重ね、トランプ氏との関係を築こうと努力してきたが、日本政府はほとんど成果がない状態で置いてきぼりにされている。

中野教授は、首脳間の親密な関係などが日本への特別な待遇には結び付かず、むしろ貿易問題では非常に乱暴で敵対的な態度を示される状況になっていると指摘する。

長く複雑な歴史を共有することで、日中両国の溝はなかなか埋まらないのが実情だ

外交面では、北朝鮮との高官級の交渉で、北朝鮮や韓国、米国の間でかやの外に置かれていた。日本側はそれを重く受け止めている。

オーストラリアなどの同盟国と異なり、日本は鉄鋼やアルミニウムの輸入品にかかる関税からの免除の措置を受けられなかった。むしろ、トランプ氏は日本との貿易について厳しい言葉を浴びせた。

今年4月には、トランプ氏がツイッターで、日本は「何年にもわたり貿易で我々に打撃を与えている」と発言。日本の対米貿易黒字は700億ドルに近い数値となっている。

オーストラリアのシンクタンク、ローイー・インスティチュートの上級フェロー、リチャード・マクグレガー氏は「トランプ氏の貿易に関する政治意識は1980年代からそのまま出てきたようなものだ」「トランプ氏は日本や韓国が公正にプレーしていないと信じていて、その見方に固執している」と語る。

長年のライバル関係

米国の敵対的な姿勢により日中が接近するとしても、両国の共有する長く複雑な歴史は、永続的な友好関係の樹立を難しいものにしている。

両国の関係は第2次世界大戦以降、不安定な状態のままだ。背景には戦時中の日本の中国占領に対する中国側からの強い反発がある。

日本の河野外相(右)と中国の王毅(ワンイー)外相

関係性の「正常化」に向けた進展は12年、両国が領有権を主張する尖閣諸島(中国名・釣魚島)を巡る民衆の抗議や報復への威嚇が高まる中で挫折した。14年の日中首脳会談での冷え込んだ空気はその最たるものだった。

同時に、戦時中の日本の中国占領に関する文化的な戦争が再燃。中国政府は戦時の残虐行為を政治問題化する一方、日本政府の国家主義者は国家の威信を取り戻すべきだと主張した。

ありそうもなかった両国関係の改善は、昨年9月、安倍首相が過去15年間で初めて中国大使館での国慶節の祝賀イベントに出席したときから始まった。

その後安倍首相と習主席は国際会議で会合を重ね、互いに関係改善への努力をたたえてきた。今年5月には中国の李克強(リーコーチアン)首相が天皇陛下に面会した。

専門家からは、トランプ氏が貿易と安全保障の問題で圧力をかける中、日中両国は米国からの「嵐」を避けようと地域内の関係円滑化を望んでいるとの見方が出ている。

前述のマクグレガー氏は「中国は友人を求めていて、日本を厚遇し両国間の厳しい戦略的な違いは大目に見ようとの姿勢につながる。同じことは、いくつかの点で日本にも当てはまる」と語る。

米中の対立の激化は世界経済や外交関係に大きな影響を及ぼしている

「補完性が高い」

日本国際問題研究所の客員フェロー、スティーブン・ナギー氏は、中国がトランプ政権の貿易対応を押し返すために日本の支援をほしがる一方、日本は現在の自由貿易秩序を死守したいと考えていると指摘する。

「関係性の悪化が続けば、米国市場と、(それとは別個の、閉ざされた)中国市場が存在することになる。それは日本企業のビジネスにとってコストの増加となる。彼らはこれを望んでいない」

今、両国は、少なくとも外見では、自由貿易を推進しようと躍起だ。安倍首相の訪中直前に香港の英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストに掲載された程永華・駐日中国大使のインタビューで、同氏は両国の経済は「補完性が高い」と主張する。

「我々は世界の貿易や供給網へのダメージを傍観したり、無関心でいるべきではない」「自由貿易への毅然(きぜん)とした支持と保護主義への反対を唱えるために我々は団結すべきだ」

だが、両国間の関係改善は日中に横たわる諸課題が解決されたことを意味するわけではない。関係改善も続くかどうかはわからない。

先週、中国外務省は安倍首相が第2次世界大戦の戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社に真榊(まさかき)を奉納した件で、安倍首相を強く非難した。

陸慷報道官は「日本が侵略の歴史に正面から向き合い、反省するように求める」と述べた。

米国の歴代大統領の方針は行ったり来たりする中、日中間の歴史と領土に関する根深い認識の違いは、まだ解決されていない。

中野教授は、トランプ氏という一時的な要因よりも、両国間の根底にある基礎的な問題がより大きな影響を及ぼすだろうとの見方を示す。

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