注意散漫? 創造的? さまよう思考が果たす役割

さまよう思考は無駄ではない?

2014.11.22 Sat posted at 09:30 JST

(CNN) 会議中、つい洗濯物のことを考えてしまって上司の言葉が耳に入らない。書類を読んでいる間、気がつけば何分も同じ文章を眺めていた――。近年の研究で、こうした思考のさまよい、認知科学で「マインドワンダリング」と呼ばれる現象の重要性が指摘されている。

まず、普段の私たちの意識が思いのほか長い間、マインドワンダリング状態にあることがわかってきた。米ニューヨーク大学の非常勤准教授で心理学が専門のスコット・バリー・カウフマン氏は、「日常的な認知の50%は、自然発生的な認知、つまり白昼夢やマインドワンダリングによって占められている」という。

マインドワンダリングは、意識が心ここにあらずの状態になり、目の前の作業とは無関係なことを考え始めてしまうことで生じる。このため従来、マインドワンダリングは、認知の上で無駄な時間であるとか、自分の心理をコントロールする力の欠如として、否定的に捉えられてきた。こうした否定的な評価が今、科学者の間で再考に付されている。

特に注目されているのが、マインドワンダリングと創造性の関係だ。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校のジョナサン・スクーラー氏は、意識をさまよわせておくことが創造的な思考にとって重要だとの説を展開している。創造の過程では、意識が自由にさまよう「ふ化期間」が不可欠だという見方だ。

マインドワンダリングによって心に余裕ができ、創造性や計画性が生まれる余地も

カウフマン氏もこの点に同意する。マインドワンダリングによって心に余裕ができ、創造性や計画性などが心の中に生まれる余地ができるという。

このため同氏は、企業においても、従業員が目の前の課題からいったん離れ、思考をさまよわせる時間が必要だと説いている。眼前の問題に過度に入れ込むとひらめきの瞬間を逃してしまう。同氏は、「ハッとするような名案が思い浮かぶのは、課題に向って一直線に集中している時ではない。意識を自由にさまよわせて、多様な可能性に対して心を開いている時だ」と話す。

もちろん、意識がさまようばかりで、肝心の課題がおざなりになってしまっては意味がない。スクーラー氏は「マインドワンダリングのせいで、優先すべき課題に著しく支障が出ることもある」と注意を促す。例えば、読書中につい気が散ってしまって、文章が頭に入ってこないような場合だ。

だが、気を散らして集中力をそぐ負の効果しかないのであれば、なぜこれほど頻繁にマインドワンダリング現象が生じるのか、理解しがたい。

米コロンビア大学教授で認知神経科学に詳しいマリア・メイソン氏によれば、マインドワンダリングの最中、さまよう意識は完全にランダムな動きを示すのではなく、実はある一定の目的地に向かう傾向がある。その場所は、やりかけの仕事、かけそびれている電話など、未解決の問題という心の「VIPルーム」だという。

マインドワンダリングは一人ひとりに個性を与える効果も

マインドワンダリングをうまく利用するには、そのVIPルームから重要性の低い課題を取り除き、「心のレーダーを可能な限り研ぎ澄ませる」ことが鍵となる。スクーラー氏によると、自分が取り組みたい課題や疑問が何であるかを日頃から認識することで、心がその課題に自然と向かうようになるという。

カウフマン氏も、マインドワンダリングに一定の方向性を与えるために、具体的な目標や課題について頭でシミュレーションすることが有効だと語る。同氏は、「意識を無目的にさまよわせるのではなく、前向きかつ建設的な空想へと持っていくことが重要だ」と語る。

とはいえ、マインドワンダリングを自分で制御するのは難しい。その場合、1日10分間の瞑想(めいそう)がお勧めだ。スクーラー氏によると、これにより読解力が向上するという。近年、瞑想がメンタル面の効率を最大化するうえで役に立つとの認識も定着してきている。

また、マインドワンダリングは一人ひとりに個性を与える効果もあるようだ。カウフマン氏は、「マインドワンダリングこそ、多くの意味で個人を個人たらしめているものであり、私たちに唯一無二の個性を与えてくれるものだ」と主張。注意を内面に向け、さまざまな空想にふけることがなければ、周囲の環境を自分なりに解釈して、自分の考えを育む能力を制限することになるという。それは結果的に、注意力そのものに限界を設けることにもなってしまうという。

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