東京(CNN) 米国のエマニュエル駐日大使は8日、CNNの単独インタビューで、多くの近隣諸国に対する中国の攻撃的な行動を考えれば、中国は米国やアジアの同盟国が軍事関係を深化させていることに驚くべきではないとの認識を示した。
エマニュエル氏は東京の大使公邸でインタビューに応じ、「インドやフィリピン、オーストラリアを見てほしい。米国やカナダ、日本を見てほしい。中国はこの3カ月だけで、あらゆる国と軍事的もしくは何らかの衝突を起こしている。それでいて、各国が自衛のための抑止措置を講じていることにショックを受けている。中国は彼らがどう対応すると考えていたのか?」と述べた。
エマニュエル氏は中国による攻撃的な軍事行動だとする事案を列挙。その中にはヒマラヤ国境地帯でのインドに対する「攻撃」や、南シナ海で起きた中国海警局船によるフィリピン船へのレーザー照射、日本の排他的経済水域(EEZ)へのミサイル発射、人民解放軍の艦艇や航空機による米国、カナダ、オーストラリアの航空機への嫌がらせが含まれる。
いずれの事案に関しても中国は攻撃を仕掛ける側であることを否定し、米国こそが地域の緊張を高める扇動者の筆頭だと批判している。
中国の秦剛(チンカン)新外相は7日、米国が方針転換しなければ「対立と衝突」は不可避だと警告した。
外相就任後初の記者会見に臨んだ秦氏は、「米国は中国と競争はするが、対立は求めないと主張する。しかし実際には、米国のいわゆる『競争』は全面的な抑え込みと抑圧であり、生きるか死ぬかのゼロサムゲームだ」と主張。
「抑え込みと抑圧で米国が偉大になることはない。米国は中国の復興を阻止できない」とした。
日本と韓国
これに対しエマニュエル氏は、米国やインド太平洋地域のパートナーによる軍備増強や演習は中国の主張するような抑え込みではなく、中国のさらなる攻撃的な行動(その危険性は一段と高まる可能性がある)への抑止だと反論した。
「彼らは(中国の攻撃的な行動を)このまま続けさせるわけにはいかないとの認識で一致した。これを踏まえ、すべての国が同盟の枠内で、また自国の国益の範囲内で、抑止のための包括的な連合を形成する措置を講じている。それがいま起きていることだ」
エマニュエル氏は日本が防衛予算の倍増を表明し、地域でリーダーシップを発揮していることを称賛。南シナ海でフィリピンと合同パトロールを行う計画や、第2次世界大戦前にさかのぼる日本の植民地支配関連の問題の解決について韓国と今週合意したことに言及した。
また、日本の岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が歴史よりも未来を優先し、国内で反発を招く立場を取ったことを評価した。
「両首脳は20世紀に縛られることなく、21世紀に目を向け、それを最大限に生かす勇気と大胆さを見せたと思う」(エマニュエル氏)
「私にとって指導力を測る試金石とは、なぜ自分がそのような行動を取るのかを認識できるだけの理想主義、そして実際に行動できるだけのタフさだ」とも述べ、岸田、尹両氏がその基準を満たしたと言い添えた。
「自由の引力」
エマニュエル氏はまた、日本と連携する韓国やフィリピン、オーストラリア、インド、英国などの国と、中国と協力するロシアや北朝鮮、イランなどを対比させ、「付き合う仲間を見れば人柄が分かる」という米国のことわざを紹介した。
この1年半、バイデン政権は良い仲間と付き合ってきたとの認識を示し、同盟国やパートナー国をまとめる米国の実績に言及した。
エマニュエル氏は米日豪印の非公式同盟「QUAD(クアッド)」や、米豪英でつくる「AUKUS(オーカス)」の原子力潜水艦導入計画、その他の経済・外交・軍事イニシアチブにも言及した。
「私はこれが日本のような同盟国に防衛費を増額し、外交の舞台で積極性を高める自信を与えたと思う」と述べ、3月3日の国連総会で東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国のうち8カ国がロシアのウクライナ侵攻を非難する票を投じた背景には、日本の尽力があったと評価した。
世界各国が日本や韓国、米国の働きかけに応じるのは、中国が理解しない単純な理由、「自由の引力」からだとも指摘した。
「個人を尊重し、自由を守ろうとするルールに基づくシステムには、他に何と言っていいか分からないが、固有の魅力的な引力が存在する」