OPINION

ウクライナ情勢、今後の戦闘で戦車が決め手となる理由

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開戦当初、衛星画像が捉えたウクライナ首都近郊で停止するロシア軍の車列/Satellite image ©2022 Maxar Technologies

開戦当初、衛星画像が捉えたウクライナ首都近郊で停止するロシア軍の車列/Satellite image ©2022 Maxar Technologies

数十年が経ち、こうした問題の一部は解決したものの、ウクライナでのロシア軍の戦車が脆弱(ぜいじゃく)な存在であることに変わりはなかった。中でも「ビックリ箱」に例えられる設計上の欠陥は深刻だ。

ロシア軍の戦車のほとんどは、大砲の弾薬を操縦手や砲手のすぐ隣に搭載している。その数最大40発。戦車は前部こそ頑丈な装甲で覆われているが、側面や砲塔はそれほどでもない。

従って米国製の「ジャベリン」や、英国とスウェーデンが合同開発した「NLAW」といった対戦車ミサイルが標的とするエンジンを直撃すると、最も装甲の薄い部分に影響が及ぶ可能性がある。その場合、搭載する弾薬全てが爆発し、搭乗員は焼け死ぬことになる。

これに対し、米国のM1エイブラムスやドイツのレオパルト2など西側の戦車は、搭乗員を弾薬から厳重に隔離。双方の間には爆発にも耐えられる壁が設置されている。

ロシア軍の保有する新型戦車「T14アルマータ」は、あらゆる点でM1エイブラムスとレオパルト2に匹敵するが、わずかな数しか製造していないという問題がある。昨年のメーデーに赤の広場で行われたパレードには、3両しか登場しなかった。それより前には、2015年のパレードに向けたリハーサルで走行した数両が、途中でエンストを起こしている。

最近の情報報告によると、同戦車の開発と配備は、コストの上昇など複雑な問題が絡んで停止しているとみられる。

ソ連時代の戦車

従って、仮にウクライナでの戦争が戦車戦に変わるとしても、またそれがエイブラムス、レオパルト対最新のロシア戦車の戦いだとしても、実際には全く勝負にならない可能性がある。西側の戦車の到着が間に合えばなおさらだ。

しかしこうした強みがない状況であれば、問題はウクライナ軍が現在保有するソ連時代の戦車の改良型ということになるだろう。これらの戦車が同種の、おそらく数で圧倒的に上回るロシアの戦車とどう戦うのかが重要だ。

「それらをいかに活用するか、どういった種類の作戦を構想するか、どれだけ効果的に戦えるかといったことにかかってくる」「昨年明らかになったように、ウクライナの方が効果的に戦える。つまり装備で劣っても、より大きな成果が出せる」(ザゴロドニュク氏)

とはいえ、少ない装備でやりくりするという点では、ロシアも同じかもしれない。 兵器の配備と損失を追跡するオランダの軍事情報サイト「Oryx」のブログによると、ロシアはここまで、戦前に3000両だった戦車の在庫の少なくとも4分の1を失っている。第4親衛戦車師団のように精鋭の機甲部隊でありながら、損失の割合がより大きいケースもみられる。

ウクライナの当局者は、最新の戦車300両があれば自軍の装備を補完しつつ、ロシアに対しても数の上で全く同等の立場に持ち込めるとみている。ザゴロドニュク氏が国防省の推計を引用して筆者に説明した。

ただ今のところ、その数字に遠く及ばない数ですら、西側各国が供与を約束する公算は小さいようだ。これまで米国がM1エイブラムスを31両、ドイツがレオパルト2を14両、英国が「チャレンジャー2」を14両供与すると約束。このほかポーランド、ポルトガル、ノルウェー、スペイン、フィンランド、オランダも供与を約束している。

フランスが引き渡しを予定しているのは軽戦車「AMX―10RC」のみで主力戦車「ルクレール」は対象ではないが、マクロン大統領はルクレール供与の選択肢を排除していない。

しかし車長や砲手、操縦手、技術兵、整備士を訓練するには最低でも3カ月を要する。それだけ複雑な戦車を相手にするのであり、時間が極めて重要になる。

今後4カ月もしないうちに春の雪解けは終わり、地面は乾き始める。間違いを犯す、もしくは躊躇(ちゅうちょ)するような余裕はほぼないと言っていい。

デービッド・A・アンデルマン氏はCNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞した。外交戦略を扱った書籍「A Red Line in the Sand」の著者で、ニューヨーク・タイムズとCBSニュースの特派員として欧州とアジアで活動した経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。

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