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細断されたバンクシーの絵画、再び競売へ 価値は6倍に?

Courtesy of Sotheby's

神出鬼没の覆面アーティスト、バンクシーの絵画がロンドンで開かれたオークションにて約100万ポンド(約1億5000万円)で落札された直後、作品の一部がシュレッダーで細断され、会場が騒然となった日から約3年の月日が経った。

今回、この作品「Love is in the Bin(愛はごみ箱の中に)」(「Girl with the Balloon(風船と少女)」から改題)が再びオークションにかけられることになった。競売大手サザビーズは、来月のオークションで、同作品に最大600万ポンド(約9億円)の値がつくと推定する。前回の落札額の6倍にもなる。

作品は額縁の中で半分ほど細断された状態で残っている。この額縁には仕掛けが埋め込まれていたが、後にバンクシーはうまく動作しなかったとほのめかしている。これにより作品が切れ端のように床に落ちる状況は避けられた。

美術史家で作家、アートフルの共同創設者であるマシュー・イスラエル氏は、Eメールによるインタビューの中で、「このようなことが起きたのは初めてだったので、重大な出来事であった」と述べている。作品が自壊するというアイデアについては、「作品の状態が最も重要であり、作品に関する知識や専門性がその権威や価値の中核をなすというサザビーズの本旨とは全く相反するものだった」と付け加えた。

サザビーズのオークション会場でバンクシーの作品「Love is in the Bin(愛はごみ箱の中に)」が隠されれたシュレッダーで細断された後/Tristan Fewings/Getty Images for Sotheby's
サザビーズの会場でバンクシーの作品「Love is in the Bin」が隠れたシュレッダーで細断された/Tristan Fewings/Getty Images for Sotheby's

ではこの自壊した作品は、アーティストよりも組織に価値を置くアート市場の目を見張るような価格の高さを鋭く批判したものなのか、もしくは、意図的に行われたPR活動なのか。

この議論は、2018年10月に行われたオークション直後から沸き起こった。バンクシーがソーシャルメディア上に種明かしとなるような動画を公開するなど、彼の動機に対してさらなる臆測を呼び起こすような出来事にあおられ、この作品は何カ月もニュースに取り上げられた。サザビーズのプレスリリースによると、同作品を対象とした記事は3万件に上るという(本記事によってさらに1件増えた)。

イスラエル氏によれば、この議論に対する答えはその両方だという。

「これはバンクシーが話題の一部であり続けることを可能にした独創的なPRであると同時に、バンクシーが何年もしてきたように、アーティストやアート市場についての重要な疑問を投げかけた」(イスラエル氏)

匿名のストリートアーティストであるバンクシーは、自身の作品の価値を問うようなスタントを何度も行ってきた。13年には、ニューヨークのセントラルパークで、他の露天商と並んでオリジナル作品を販売した。後に彼が公開した動画によると、60ドルで販売された作品は通行人の興味をほとんど引くことができず、売り上げはわずか420ドルだったという。

  
      
バンクシー絵画、落札直後に「自滅」

アート界を批判するために破壊的な手法を用いたアーティストは彼が初めてではない。歴史学者のプレミンダ・ジェイコブ氏は、バンクシーの作品をマルセル・デュシャンのような過去の芸術家の作品と比較している。デュシャンは「アート市場の知的な見せかけ」に挑戦するため、逆さにした小便器を展示したことで有名だ。

だが「愛はごみ箱の中に」の場合、バンクシーの反逆的な名声は疑問視されている。販売を巡る混乱から最終的に恩恵を受けたのはサザビーズだったからだ。サザビーズは、同社のスタッフはバンクシーの計画を知らなかったと主張しており、広報担当者はCNNに対しEメールで、「我々はこの出来事を事前に知らなかったし、一切関与もしていない」と述べている。だがイスラエル氏は他の多くの人々と同様、この件に関し疑念を抱いている。

「私はまだ何か裏があると思っている」「サザビーズが、額縁にシュレッダーが埋め込まれていることにどうやって気づかずにいられたのかは不明だ。額縁の異様な重さから誰かが懸念を抱いたことは間違いないはずだとのコメントもあった。また、サザビーズが公言しているように知らなかったのだとしたら、オークションに出品される他の作品の状態の検査方法についてそれが示唆することは何だろうか」とイスラエル氏は語る。

落札者の身元も謎のままだが、サザビーズは購入者が欧州の女性コレクターであり、長年の顧客であると説明している。

18年のオークションから数カ月後、ドイツのバーデンバーデンにあるフリーダー・ブルダ美術館が同作品を展示した初の公共スペースとなった。現在、来月のオークションに向けて、ロンドンを皮切りに、香港、台北、ニューヨークを巡回する予定だ。

細断された作品を見て反応する人々/Banksy
細断された作品を見て反応する人々/Banksy

一方、バンクシーは、ロンドンの地下鉄にマスク姿のネズミの絵をスプレーで描いたり、最近では英国の海沿いの町で「スプレーケーション」(近場で休暇を過ごすステイケーションとスプレーを掛け合わせた造語)を行ったりするなど、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中も精力的に活動している。

今年の春には、医療従事者に敬意を表して英サウサンプトンの病院に寄贈した絵画「Game Changer(ゲームチェンジャー)」が、ロンドンでクリスティーズのオークションにかけられ、彼の作品としては過去最高額となる1670万ポンド(約25億円)で落札された。

「バンクシーの作品で素晴らしく永続的な点は、個性や経歴の重要性から、芸術のあるべき場所、芸術の価値、貧困層への盲目的な崇拝、ストリートアートまで、アート界の多くの前提に疑問を投げかけているところだ」とイスラエル氏は語っている。

「愛はごみ箱の中に」の場合は、バンクシーは「階級と価値、富裕層の雲の上の世界、見せびらかすための消費」に疑問を投げかけていると、同氏は指摘した。

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