(CNN) 人類は長きにわたり、帝国や支配者、宗教、企業の力を誇示するために高層建築物を建ててきた。今日では、いまだかつてないほどに多くの高層ビルが建っている。しかし超高層ビルは間もなく新たな目的を持つようになる可能性がある。それは、再生可能エネルギーの貯蔵だ。
クリーンエネルギーを主な電源とする送電網にとって最大の障害の一つは、一部の再生可能エネルギー源の断続性だ。太陽エネルギーが必要なときに雲が立ち込めたり、風がやんでタービンが発電できなくなったりする。反対に、太陽と風が必要量を上回る電力を生成することもある。
そのため貯蔵は生成と消費のバランスをとるために不可欠だ。容量を増やすにはさまざまな形態のバッテリーから他のエネルギー貯蔵方法まで、複数の技術を組み合わせることが必要になる。
そこで「超高層蓄電ビル」の登場だ。世界で有数の超高層ビルを複数手掛けた建築・工学企業、スキッドモア・オーウィングズ・アンド・メリル(SOM)は5月末、エネルギー貯蔵企業エナジー・ボールトと提携して、新しい重力蓄電ソリューションを開発すると発表した。
これには、電力需要が低いときに送電網からの電力で動くモーターを使って巨大なブロックを持ち上げる超高層ビルの設計も含まれる。これらのブロックは「位置」エネルギーとして電気を蓄える。需要があるときにはブロックが下がってエネルギーを放出し、それが電力に変換される。
高層ビルはSOMの得意分野だ。同社は米ニューヨークのワン・ワールド・トレード・センター、シカゴのウィリス・タワー(旧シアーズ・タワー)、さらにはドバイの高さ828メートルを超える世界一高いビル、ブルジュ・ハリファを設計した。
SOMのコンサルティング・パートナーでブルジュ・ハリファの構造エンジニアでもあるビル・ベイカー氏はCNNに「この専門知識をエネルギー貯蔵に活用することで我々が化石燃料から脱却できるチャンスがある」と語った。
ネットゼロには送電網規模の貯蔵が必要
国際エネルギー機関(IEA)によると、世界が2050年までにネットゼロ(温室効果ガスの実質排出ゼロ)を達成しようとする場合、送電網規模の貯蔵、つまり送電網に接続され、貯蔵したエネルギーを必要に応じて利用できる技術の増強が必要になる。
電気自動車(EV)で人気のリチウムイオン電池だけではこの問題を解決できない。まず、長期間エネルギーを貯蔵できないからだ。
午後の最も日当たりのよい時間帯から需要が急増する夕方にエネルギーを移すには問題ないかもしれないが、エネルギーをそれよりも長く貯蔵する必要がある場合がある。
再生可能エネルギーの貯蔵にすでに広く使用されている揚水発電はこれを可能にする。この方式ではオフピーク時にタービンで低地の貯水池から高地の貯水池に水をくみ上げる。需要が急増すると水が放出され、発電タービンを流れる。これを実現するには丘陵地帯と広大なスペースが必要になる。
SOMとエナジー・ボールトの高層タワーは高さが300~1000メートルになる可能性がある。ブロックを移動させるため、エレベーターシャフトのように内部をくり抜いた構造にする予定だ。住宅や商業テナントのスペースも確保するという(両社はブロックの代わりに水を使って、揚水発電を組み込むことも検討している)。
エナジー・ボールトのロバート・ピコーニ最高経営責任者(CEO)はCNNに対し、最終的に数ギガワット時のエネルギーを貯蔵できると語った。これは複数の建物に電力を供給するのに十分な量だという。
CNNが話を聞いた2人のエネルギー貯蔵専門家は、エネルギー貯蔵に必要なスペースと、余分な重量を支えるために必要な構造変更を考えると、超高層蓄電ビルの経済性が機能するかどうかは疑問だとした。
しかし両社はこのソリューションが商業的に実現可能だと自信を見せる。
エナジー・ボールトはすでに中国で建物を完成させている。同社によれば、これは世界初となる商業規模の非揚水エネルギー貯蔵システムだという。高さ150メートルのこの建物は蓄電容量100メガワット時で、エネルギー貯蔵専用に建てられており、入居者用のスペースはないという。
両社は現在、設計を実現するための開発パートナーを探している。ピコーニ氏は高層ビル分野でのSOMの信頼性は「最初の建物を建設するという難題に対処するのに役立つだろう」と語る。
◇
原文タイトル: The next world’s tallest building could be a 3,000-feet-high battery(抄訳)