Architecture

巨大ドーナツからゆがんだ家まで、カリフォルニアで奇妙な建物が再流行

奇抜なデザインが目を引く南カリフォルニア名物の「ロードサイド建築」

奇抜なデザインが目を引く南カリフォルニア名物の「ロードサイド建築」/Copyright Ryan Mungia/Courtesy TASCHEN

1930年代に南カリフォルニアで大流行したロードサイド建築は、一時、評論家たちから忘れ去られていたが、今、その人気を取り戻しつつある。巨大なドーナツ、靴の形をした靴の修理屋、巨大なフクロウに似たアイスクリーム店、消防車ほどの大きさのホットドッグなど、南カリフォルニアほど風変りな建物が多い場所は、世界でも非常にめずらしい。

車で通り過ぎるドライバーたちの注意を引く目的で建てられたこの風変りな建物は、プログラマチック建築(またはロードサイド建築、ポップ建築、ビザロ建築)と呼ばれ、1920年代のカリフォルニアで、自動車ブームとともに生まれた。

屋根に巨大なドーナツをのせたこの店は1955年に建てられた Credit: Taschen
屋根に巨大なドーナツをのせたこの店は1955年に建てられた Credit: Taschen

「自動車ブームで商店が歩行者用の通りから車道沿いに移動したのが(ロードサイド建築が流行った)主なきっかけ」と語るのは、1980年からロードサイド建築を年代順に掲載した書籍「カリフォルニア・クレイジー」の著者、ジム・ヘイマン氏だ。

ヘイマン氏は、「自動車が普及すると、人々は時速約60キロで走行しながら行く場所を探すようになった」と述べ、さらに「南カリフォルニアでロードサイド建築が流行したのは、カリフォルニアが発展過程において、完全に自動車によって勢いづいたからだ」と付け加えた。

見苦しく、取るに足らない?

商品を販売する目的で、限られた予算内で建てられたこれらのロードサイト建築は、長らく建築界のエリートたちから軽視されてきたが、ここにきてちょっとした再流行に沸いている。

「歴史学者や評論家たちは、ロードサイド建築を完全に軽視していた。また見苦しく、取るに足らない建物と思われていたため、世間の評判も非常に悪かった。よって、建築史においても目に見えないほど小さな出来事として扱われてきたが、今、歴史的視点で見ると、この種の建物のためのスペースがはっきりと存在することは明白だ」とヘイマン氏は言う。

巨大なホットドッグが目印のレストラン Credit: Taschen
巨大なホットドッグが目印のレストラン Credit: Taschen

ロードサイド建築をめぐる状況が変わりだしたのは1972年で、きっかけは「ラーニング・フロム・ラスベガス」というポストモダニズムとラスベガスに関する1冊の本だった。この本のおかげで、ロードサイト建築に対する世間の見方が変わった。

しかし、ロードサイド建築の人気はなかなか上がらず、さらにこれらの変わった建物と関係のあるビジネス(大半は個人経営の小さなファストフード店)は長続きしないため、多くの建物が姿を消した。

「今はほとんど残っていない。残っているのはLAX(ロサンゼルス国際空港)近くの巨大なドーナツのある店など、一部の有名な建物だけだ。この巨大ドーナツはどこにあるかわかっていれば着陸時に機内から見える」(ヘイマン氏)

靴の形の靴修理店は、ロサンゼルスから北へ140キロほどのところに今も健在 Credit: Taschen
靴の形の靴修理店は、ロサンゼルスから北へ140キロほどのところに今も健在 Credit: Taschen

ヘイマン氏は自著に掲載している数百軒の建物のうち、今も残っているのは15~20軒と見ている。

「建物を維持するのは大変だ。土地代(賃料)が非常に高いため、建物をその場に長く維持するのは容易ではない。しかし、(老朽化した)建物を買い取って再生する人もわずかながら存在する」とヘイマン氏は言う。

世界的な現象

ロードサイド建築の全盛期は過ぎ去ったかもしれないが、時折新規参入者が現れる。ヘイマン氏の著書に最近追加された、壁や柱がゆがんだようにデザインされた家は、ヘイマン氏が今年初めに、本を印刷する直前に発見した。

「これはロサンゼルスの北にある小児内科クリニックで、米絵本作家ドクター・スースの絵本に出てくるような、非常に変わった外見の奇妙で小さな家だ。つまり、伝統は続いているということだ」(ヘイマン氏)

子犬に見つめられ、思わず入店してしまう? 1934年に撮影されたカフェ Credit: Taschen
子犬に見つめられ、思わず入店してしまう? 1934年に撮影されたカフェ Credit: Taschen

ヘイマン氏によると、南カリフォルニアでロードサイド建築が流行したのは、型破りな住民が多く、建材(大半のロードサイド建築に使用される金網、ツーバイフォー材、タール紙)も安く、さらにヘイマン氏の言う「ハリウッドとのつながり」など、いくつかの要因の結果だという。

「映画スタジオや遊園地や博覧会が身近にあるのが要因だ。これらのフェンスに囲まれた環境の中では、巨大なダチョウやゾウや仏塔を1本の通りにすべて詰め込むといったクレイジーなこともできる」(ヘイマン氏)

ユニークな建物が続々登場する背景には、エンターテインメントが身近にあふれている土地柄があるという Credit: Taschen
ユニークな建物が続々登場する背景には、エンターテインメントが身近にあふれている土地柄があるという Credit: Taschen

しかし、もはやこれは地域的現象とは言い切れない。「これまで世界中で完全にいかれた建物を数多く見てきた」とヘイマン氏は言う。

「オーストラリアには大きなパイナップルや、巨大なコアラやひつじがいるし、日本にはいちごやキノコの形をしたバス停がある。また中国には3人の明王朝の皇帝の形をした40階建てのアパートがあるなど、例を挙げれば切りがない」(ヘイマン氏)

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