ミャンマー、山中の訓練キャンプに集う志願兵 軍事政権からの解放目指し結束 CNN EXCLUSIVE

ミャンマーの山中にある拠点で軍事訓練を積む志願兵の様子をCNNが取材した/Sam Kiley/CNN

2021.07.14 Wed posted at 14:00 JST

ミャンマー・キャンプ・ビクトリア(CNN) 大声で勝利の歌を歌いながら靴音を響かせ、新兵の一団がランニングをしている。隊列を組んで走っている訓練キャンプは、ジャングルの中にある。

疑うべくもなく、瞳を輝かせているこの若者たちは1つの理想の下に結束している。それは、ミャンマーの民主主義を抑えつける軍事政権からの解放だ。

そしておそらく、自分たちを待ち受けているであろう陰鬱(いんうつ)な悲劇から身を隠すこともまたできない。

彼らが大挙して押し寄せているキャンプ・ビクトリアは、長年にわたり存続する民族主義武装勢力、チン民族戦線(CNF)の本拠地だ。ミャンマー西部のインド国境付近に位置する。キャンプの指導部は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を理由に訓練の中止を呼び掛けているが、彼らは意に介さない。

彼らの多くは周辺の山岳地帯の出身だが、危険な長旅をへて国内を移動してきた者も少なくない。ミャンマーという国がすでに抗議デモや軍の暴力と圧制で引き裂かれた状態にあるなか、彼らは軍事的な技量を身に着けるべくここへやってきた。

成人に達するかどうかという年齢のこれらの志願兵は、軍事クーデターに反対するデモに参加したことがあると語る。今年2月に起きたこのクーデターにより、彼らの文民政権は崩壊した。その後、軍事政権のデモへの対応で一段と多くの血が流れるようになると、彼らもまた武器を取るに至った。

とはいえ、実際に勝利の歌を歌える望みがあるかと言えば、当面はほぼない。指導部は長期戦になると警告している。

CNFの幹部はCNNに対し、「現状は都市ゲリラ型(の紛争)だが、数カ月のうちに従来型の内戦へと変化するだろう」と述べた。


CNFの軍事部門、チン国民軍(CNA)の基地にいる兵士ら/Sam Kiley/CNN

こうした暗い事実から浮かび上がる見通しは、いかにも起こりそうなことだが、ミャンマーが長期的な紛争状態に陥るというものだ。そこでは勝者が現れず、国は崩壊する。

6月末に公表されたミャンマーにおける新たな内戦についての報告書の中で、多国籍のシンクタンク「国際危機グループ(ICG)」はミャンマー軍を非難。民兵組織への支援を無力化しようと、市民を標的にする戦略を用いているとの見解を示した。

しかし、専門家の一般市民に関する予測もまた厳しいものだった。「今後国家経済が破綻(はたん)し、広範囲の貧困と欠乏とが起これば、民兵組織は地元住民から直接、または彼らの負担によって収入源を確保しようと一段と強い動機を抱くだろう。こうした要因から新興の武装勢力が出現し、これらの地域に根付く公算が大きい。過去数十年にわたる反政府活動の間に何度も見られた動きであり、国内の様々な地域で起きた現象だ」と、上記の報告書は指摘する。

最近自分たちの村から逃れてきた難民に聞き取りを行うCNFの当局者(右)

前出のCNFの幹部は、自らの活動並びに同じくキャンプ・ビクトリアで訓練している民兵組織の一つ、チンランド防衛隊(CDF)について、ミャンマーの国民統一政府(NUG)に率いられていると主張する。


キャンプ・ビクトリアはミャンマー西部のインド国境付近に位置する

亡命政権であるNUGは軍事政権に反対する勢力の緩やかな連合体だが、現状ではほぼ名ばかりの存在で、国内の武装勢力に対する指揮権や監督権は持っていない。

ジャングルの訓練キャンプの卒業生たちにとっても、解放のために戦うという情熱的な理想は苦い結末で終わる可能性がある。

外部の人間の目に紛争の実態がどう映っているのかを気にかけながら、1人の若い兵士がインタビューに答えた。元ジャーナリストでヤンゴン大学卒だというこの兵士は部隊の指揮官を務め、当初は10人の兵士を率いていたと説明する。都市でのゲリラ戦に特化した訓練を積んだ部隊だという。

「少なくとも、当初は10人を指揮していた。今は7人しかいない。先週3人を失った。彼らは軍事政権に対して使用する自家製の爆弾を運んでいたが、それが手の中で爆発した。全員即死だった」(同兵士)

部下を失った後、CDFの上官から命令を受けてキャンプ・ビクトリアに戻った。休養のためとされたが2~3日後には新しい黒の軍服を身に着け、より専門的な訓練を受けていた。今その目を輝かせているのは冷徹な覚悟であって、希望ではない。

膠着状態は勝利にあらず

だが、軍事政権は情け容赦なく反撃するだろうと専門家は語る。

「ミャンマー国軍はこうした地域で『4つの切断』という長年確立してきた対反乱戦略を用いている。意図的に市民を標的とする冷酷な方法で、反乱分子から食糧、資金、徴兵、軍の動きに関する情報を奪うのが狙いだ(従って4つの切断となる)。人口密集地域での攻撃は食料品店の略奪、救援物資の拒否と並んでこの戦略の不可欠な部分となり、国際人道法に明確に違反する」とICGは解説する。

キャンプ・ビクトリアの周囲では、この戦略は十分知れ渡っている。辺境の村を離れた住民は小さな難民キャンプに身を寄せ、川向こうにあるインド側の避難所に逃れた人々もいる。こうした難民のほとんどは女性、子ども、高齢者で、誰もが同じ理由から村を去っている。

新たに立てられた避難所の中に座った高齢の女性、ティアル・ソングさんはミャンマー軍の卑劣さや凶暴さに恐怖を感じると訴える。20年前には自宅で息子が拷問を受け、頭部が血まみれになったという。

別の難民はCNNの取材に対し、軍の支配が続く限り自分は難民のままだろうと話した。

キャンプ・ビクトリアの防御線を越えると、その先はチン州の山々がほぼ垂直にそそり立ち、幾重にも連なる波となって分厚いジャングルが広がる。キャンプにたどり着くには、急勾配(こうばい)の峠を狭い泥道に沿って進まなくてはならない。

地元住民の多くは経験豊富な猟師で、外部から侵入する軍隊に対してその強みを発揮する。また巨大な情報ネットワークを地域内に有するため、兵士らは敵軍の動きに関する最新の情報を州内各地の村の工作員から受け取れる。

しかし、こうした利点のみでは反軍事政権を掲げる部隊が生き残る助けにならないだろう。膠着(こうちゃく)状態は勝利ではない。

ジャングルのゲリラらしからぬ若者

チン族の支配地域へ入る、あるいはそこから出る際には、過酷な忍耐を強いられる。たいていは数日がかりで、きつい振動を体に受けつつ、泥で滑る道を中国製の小型バイクの後ろに乗って進まなくてはならない。この小さな125ccの乗り物こそ、現代が生んだ頼れる運び屋だ。兵士、弾薬、それから食糧を、遠く離れたCDFの運営する各訓練キャンプまで届けてくれる。

CNNが訪れた訓練キャンプの一つはジャングルの小道の近くに位置し、わずかばかりの掩蔽壕(えんぺいごう)と志願兵が寝泊まりするテントを備えていた。彼らはここを住居兼戦闘基地として、今後数カ月もの間過ごすことになるのだろう。

ジャングルが生い茂る山々に囲まれたキャンプ・ビクトリア

ジョン・リンさんはヤンゴン大学での歴史の研究を断念し、反政府活動に加わった。教室から丘の上の訓練キャンプに居場所を移した現在は、150人の志願兵の物資補給を担当する将校だ。華奢(きゃしゃ)な体格で年齢は22。ジャングルに潜むゲリラのイメージからはほど遠い。

殺されるのが怖くないかというCNNの問いに対し、リンさんは「怖くない。自分の国のために立ち上がっているから」と答えた。両親も彼のことを心配してはおらず、自分がこうした考えに立っていることを誇りに思っているという。

その志は立派かもしれないが、いつ終わりが来るとも知れぬ状況にある。

部隊の本部は、樹脂製のシートと丸太でこしらえたテントだ。中に入ると数十丁のショットガンがずらりと壁に掛けられて大事に保管されているが、本来は鳥を撃つために作られた銃だ。床では暖炉に火が入っている。これで湿気を取り除き、銃がさび付くのを防ぐ。

CNFの幹部は、これらの兵士に対してすぐにライフル銃「AK―47」のような自動火器が供給されると強調する。

「国際的な密輸業者がいて、武器はどこでも手に入る」と同幹部は話すが、どうやってそうした武器のコストを賄うのかについては口を濁す。

「人々が寄付したり、資金を集めたりする。金が問題になるとは思わない」(同幹部)

ミャンマーの武装勢力の多くはこの数十年、密輸に頼っている。とりわけヘロインやメタンフェタミンといった薬物の密輸が反政府活動の資金となる。また彼らが地元住民に依存する期間が長くなるほど、市民は反政府軍による不正利得やみかじめ料の取り立て、課税といった負担を余儀なくされる可能性が高まる。


手製のチェッカーで遊ぶ難民の子どもたち/Sam Kiley/CNN

CNFによれば、同勢力はミャンマー国内にある少数民族の16の武装勢力の一つだ。彼らが期待するのは、こうした武装勢力が手を組んで共通の敵に立ち向かうことだ。すべての勢力を結び付けるのが、「民主主義と連邦主義」という大義となる。

若い市民はこの理想の下に集まっている。民主的な未来が阻害されているとの思いに駆られて、これほどまでに多くの若者が森へ入り、銃を手に取る。しかし今後彼らの戦争がいつまで続くのか、さらにその勝敗についても、反体制派の若者によって左右される部分は少ないかもしれない。むしろかぎを握るのは、彼らと戦うため国軍から派遣される若い兵士や将校の方である可能性がある。

戦闘が早急に終結するかどうかは、「若い将校の反乱」が成功するかどうかにかかっている。その矛先は、2月に政権に返り咲いた将軍たちによる残虐行為と汚職だ。CNFの指導部はこの点を理解している。

「現在そうした働きかけを行っているところだ」と、上記の幹部は明かす。

若い志願兵が集うミャンマーの訓練キャンプ、CNNが独占取材

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