子どもが兵士になる世界があります。

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誘拐され、銃を取らされる子ども兵たち。手前の右から2人目は、少女兵。(コンゴ民)
誘拐され、銃を取らされる子ども兵たち。手前の右から2人目は、少女兵。(コンゴ民)

 想像してみてください。もし、あなたや、あなたの大切な人の子どもが、孫が、ある日、兵士として戦わされるとしたら、どうでしょうか。そんな世界が、現実に存在します。認定NPO法人テラ・ルネッサンスは、2005年からウガンダで「元子ども兵社会復帰支援事業」を実施しています。これまで251名の元子ども兵が支援を受け、社会復帰を果たしてきました。

子ども兵と社会復帰について

 アフリカ東部に位置するウガンダでは、1980年代後半から内戦が始まり、反政府組織「神の抵抗軍(LRA:Lord’s Resistance Army)」と政府軍が20年以上にわたって戦闘を繰り広げました。2006年の停戦合意まで、ウガンダ北部で推定3万8千人以上が子ども兵としてLRAに誘拐され、男の子であれば銃を持って戦闘の最前線に駆り出され、また女の子は重い荷物を運ばされたり、大人の兵士と強制結婚をさせられるなど、壮絶な体験をさせられてきました。停戦合意後、LRAは活動拠点を隣国のコンゴ民主共和国(コンゴ民)東部や中央アフリカ共和国に移し、現在に至るまで虐殺行為や村の襲撃、子どもの誘拐などを繰り返してきました。これらは「LRA紛争」と呼ばれ、今も続いています。誘拐され兵士にされた子どもたちは、逃げ出したり、政府軍に保護されるなどして地元の村々に帰還することができても、その多くは精神的・肉体的なトラウマを抱えて苦しみます。軍隊の中で戦うことしか教えられてこなかった元子ども兵たちは、読み書き・計算など、基本的な教育を受ける機会を失いました。当然、まともな仕事に就くこともできません。同時に、兵士時代に自分の村を襲撃させられた元子ども兵も少なくありません。そんな元子ども兵たちは、帰還後、地域住民から加害者とみなされ、憎しみや差別の対象になることもあります。そのためテラ・ルネッサンスでは、「元子ども兵が社会復帰するために必要な能力を身につけ経済的に自立すると共に、地域住民との関係を改善しながらコミュニティで安心して暮らせるようになる」という目標を掲げ、「元子ども兵社会復帰支援事業」に取り組んでいます。本事業では、手に職をつけるための職業訓練や識字教育、また心のケア(心理社会支援)などを行っています。

職業訓練(洋裁の技術訓練)の様子
職業訓練(洋裁の技術訓練)の様子

笑顔を取り戻した元少女兵、モニカ(ウガンダ共和国)

 モニカは15歳の時、反政府軍に誘拐され、2年間子ども兵として戦わされました。兵士の間、重い荷物を長時間運ばされたり、戦闘に参加させられたり、上官の兵士に性暴力をふるわれたり、過酷な経験をしました。無事に家に帰ることができたとき、彼女は兵士の子どもを身ごもっていました。その子を産むことはできませんでしたが、帰還後の不安定な彼女の心に残された傷の大きさは、はかり知れません。その後、彼女はテラ・ルネッサンスの施設で職業訓練を受け始めました。そこで洋裁の技術を身につけた彼女は、村に戻ったあと、洋裁店を開業します。今では家族を養い、4人の子どもたちを学校に通わせることができるようになりました。また、地元の女性たちの要望を受け、洋裁教室も開講するなど、コミュニティに貢献する存在にまでなっています。

家族と開業した洋裁店の前で笑う元少女兵モニカ
家族と開業した洋裁店の前で笑う元少女兵モニカ

テラ・ルネッサンスの帰還支援:かつての仲間の声が、帰還を後押し。

 ウガンダに帰還し、支援を受けて社会復帰を果たすことができた元子ども兵がいる一方、LRAに拘束されたまま、いまだ祖国に帰ることが出来ない元子ども兵もいます。そこでテラ・ルネッサンスは、コンゴ民の現地NGOと協力し、コンゴ民や中央アフリカ共和国に残っているLRA兵士の動員解除と帰還を促してきました。ウガンダに残る家族を探し、彼ら・彼女らが帰還した際の受け入れ体制を整えると同時に、「帰還後、ウガンダ政府軍に拘束されることなく、社会復帰する道筋が用意されていること」等のメッセージ動画を送るなどして、安心して帰還が出来ることを伝えました。その結果、ウガンダで誘拐された元子ども兵とその家族141名がLRAから解放され、ウガンダに帰還することができました。この一大プロジェクトで大きな役割を担うのが、かつてテラ・ルネッサンスの社会復帰支援を受けた元子ども兵たちです。LRAに残る元子ども兵たちにとって、ウガンダに戻っても仕事がなく、家族を養えないのではないか?地域のコミュニティに受け入れてもらえないのではないか?という不安が、帰還を渋る大きな理由のひとつです。また、敵対してきたウガンダの政府軍や政府関係者の言葉は信用できないという思いもあります。しかし、実際にテラ・ルネッサンスの社会復帰支援を受けたかつての仲間から、職業訓練や識字教育が受けられること、受け入れ家族の様子などを聞いたことが、彼ら・彼女らの帰還への決意を後押ししました。2024年3月18日、ウガンダ北部グル市内にある、テラ・ルネッサンスの社会復帰支援施設に、LRAから解放され帰還した58名の元子ども兵とその家族が集まり、社会復帰訓練のためのオリエンテーションが行われました。彼ら・彼女らは、これから洋裁や木工大工などの職業訓練や識字教育、心理社会支援などを通して、社会復帰に向けた一歩を踏み出します。

オリエンテーションを受ける元子ども兵とその家族
オリエンテーションを受ける元子ども兵とその家族

目指すのは、紛争の平和的解決。

 ウガンダで誘拐されるなどしてLRAに拘束されている子ども兵*は、1,500人以上いると言われています。今回と同規模以上の帰還を複数回繰り返せば、すべての子ども兵を祖国に帰すことができます。そうすれば、戦闘力を失ったLRAの解体も夢ではありません。実際に、今回の帰還支援により、LRAの2つの部隊が解体されました。アフリカで最も長く続いている紛争の一つであるLRA紛争が、今、終わりに近づきつつあります。テラ・ルネッサンスは、武力ではなく対話によって、平和的に紛争を終結させるために、引き続き、様々な関係機関と連携・協働しながら、LRAに拘束されている元子ども兵の動員解除と、社会復帰への取り組みを進めていきます。

テラ・ルネッサンスの活動をもっと知りたい方は、こちらをご覧ください。

*子どもの頃に誘拐され、現在は成人している兵士も含む。

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