ジム、スパ、エステマシン:漏洩文書が明かす、プーチン氏専用「幽霊」列車の知られざる全容

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プーチン氏専用列車の知られざる全容、漏洩文書から明らかに

(CNN) 2022年8月5日。ウクライナはいつもと変わらない1日だった。前夜のロシアからの爆撃の被害が、暁光の中に浮かび上がる。

その朝ミコライウ近郊の住宅地を狙ったロシアの攻撃は、州知事の当時の言葉を借りれば「甚大な被害」をもたらし、少なくとも10人が負傷した。

同じ日モスクワではウラジーミル・プーチン大統領の側近らが、ウクライナの凄惨な戦争とは無縁の問題に奔走していた。

ロシア政府関係者の記述によると、「運輸局はスポーツヘルス車両021-78630号のフィットネス機器を、Abductor-StandardとAbductor-TechnogymからHoist社製HD3800とHD3200に交換する必要があるとの要請を受理した」。

最近漏洩(ろうえい)した文書によると、こうした「スポーツヘルス車両」を使用していたのは何を隠そうプーチン氏本人であるという。

プーチン氏のプライベートについては驚くほど知られていない。同氏の表向きのイメージが入念に手を加えられたものであることは、短命に終わったエフゲニー・プリゴジン氏の反乱後にも明らかになった。だがロンドンを拠点にロシア関係の捜査を行う団体「ドシエセンター」が独占入手し、CNN、南ドイツ新聞、ドイツの公共放送局NDRとWDRに公開された貴重な書類と画像からは、ロシア政府が一般大衆からひた隠しにしている詳細や、パラノイアが嵩(こう)じて隔離状態となったプーチン氏の様子が窺(うかが)える。

ちなみにドシエセンターは、ロシアの元石油王で、後にロシア政府を批判して亡命したミハイル・ホドルコフスキー氏が支援している団体だ。

プーチン氏が列車を利用している話は有名だ。ロシア政府も華美に飾られた列車内の会議室で会議が行われた時の画像を公開している。だが、それ以外の20両余りの車両については、秘密のベールに固く閉ざされている。

ドシエセンターいわく、漏洩文書は国営ロシア鉄道から、大統領執務車両の内装を請け負った下請け会社「ツィルコンサービス」の内部関係者が提供したものだという。

詳細に記載された内容のひとつに、021-78630号という車両がある。ドシエセンターによると、ツィルコン社が作成した立派なパンフレットには、豪華ジムとスパを備えたプーチン氏専用車両とある。

列車内に設置されたトレーニング器具/obtained by CNN
列車内に設置されたトレーニング器具/obtained by CNN

車両が完成したのは18年。画像が撮影された当時はイタリアのテクノジム社のウェートマシンと筋力トレーニングマシンが備え付けられていたが、後に米ホイスト社製の機器に交換されたようだ。

ドアを抜けた先には、マッサージ施術台やあらゆる最新美容機器など――漏洩文書によれば肌にハリを与える高周波マシンもある――完全装備のエステセンターがある。ドシエセンターが入手した書類によると、部屋全体に盗聴機器が使用できないような装備が施されているという。

マッサージ施術台や最新の美容機器も導入されている/The Dossier Center/obtained by CNN
マッサージ施術台や最新の美容機器も導入されている/The Dossier Center/obtained by CNN

車両の一番奥は、トルコ式蒸し風呂とシャワーを完備したタイル張りのバスルームだ。

トルコ式蒸し風呂とシャワー完備のタイル張りバスルーム/obtained by CNN
トルコ式蒸し風呂とシャワー完備のタイル張りバスルーム/obtained by CNN

ドシエセンターが入手した文書には、ジム車両も含む車両の設備に関して大統領府高官に直接宛てた書簡もあった。

ロシア政府はドシエセンターが入手した書類について完全否認し、「プーチン大統領はこのような車両を使用していないし、所有もしていない」とCNNに語った。

CNNはツィルコンサービス社とロシア鉄道にもコメントを求めたが、返答はなかった。

18年11月2日、ジム車両021―78630号の残りの作業を評価する会議が行われた。やはりドシエセンターが入手した議事録によると、ツィルコンサービス社とロシア鉄道の重役に加え、ロシア大統領の警護を担当するロシア連邦警護庁(FSO)の職員10人も出席していた。

ドシエセンターの手に渡った数十におよぶメンテナンス契約書の中には、ジム車両021-78630号車が記載されているものもあり、車両に関する作業はすべてFSOと連携して進めなければならないと記載されている。

20年、ロシア鉄道の幹部ドミトリ・ペゴフ氏はFSOのオレグ・クリメンティエフ副長官宛に書簡を送り、事前に送った2つの居住用車両の建設提案書を精査するよう求めている。

「現在に至るまで、提案内容についてはFSOから一切承諾を得られていない。そのため契約締結の手続きを進められず、車両建設に取りかかることができない」とペゴフ氏。「オレグ・アテストヴィッチ殿(訳注:ミドルネーム)、どうか提案書の概要を精査していただき、最終決定をご連絡いただきたい」

CNNはペゴフ氏とクリメンティエフ氏にコメントを求めたが、返答はなかった。

かつて技術者としてFSOに従事し、昨年ロシアから亡命したグレブ・カラクロフ元大尉は極秘でドシエセンターとのインタビューに応じた。同氏いわく、プーチン氏の列車移動が次第に増えていったのは、追跡防止のためだという。

「飛行機は離陸した瞬間にフライトレーダーで捉えられてしまう」。昨年12月に収録されたインタビューで、カラクロフ氏はこう語った。「そうした移動を何とか隠すために使われるのが列車だ」

カラクロフ氏は14年ごろから列車の作業に関わり、通信機器を設置したという。同氏の話では、ちょうどロシアがウクライナへの全面侵攻を準備していた21年後半から、列車利用が頻繁になったそうだ。

戦争が勃発してからというもの、プーチン氏専用列車はモスクワとサンクトペテルブルクの間にある田舎町、バルダイ近辺に停車していることが多いとカラクロフ氏は言う。牧歌的な湖と森で有名なこの地域に、プーチン氏も大邸宅を所有している。

「FSOのスタッフは特別車両のためにわざわざ隔離された」とカラクロフ氏はドシエセンターに語った。「戦争が勃発して以来、彼らはバルダイ方面の某所に40日間、ときには45日間も送られたらしい」

「監視の下で出発する予定がなくても、常時出動できるよう待機していたのだろう」(カラクロフ氏)

だが、列車のプライバシーは完璧ではなかった。落とし穴は鉄道マニアという形で現れた。

「我が国の鉄道に、見知らぬ幽霊列車が走っている」とは、rutrain.comに投稿された鉄道マニアのコメントだ。プーチン専用列車と思われる画像が添えてある。「時刻表にも、ロシア鉄道のシステムにも載っていない」

鉄道愛好家のウェブサイトに掲載されたプーチン氏の専用車両/obtained by CNN
鉄道愛好家のウェブサイトに掲載されたプーチン氏の専用車両/obtained by CNN

鉄道マニアが特別列車を見分けられたのは、2両の機関車を使用していることと、ツィルコンサービス社が作成したパンフレットに記載されていた特徴のおかげだ。ドシエセンターいわく最新通信アンテナを内蔵した特徴的な白いドームが、車両のひとつに搭載されているのがはっきり見える。

最新通信アンテナを内蔵しているとみられる白いドームが、車両の屋根に設置されている/obtained by CNN
最新通信アンテナを内蔵しているとみられる白いドームが、車両の屋根に設置されている/obtained by CNN

通常のロシア鉄道車両にはドームはない。だが19年にロシア政府が公開した公式動画には、ロシア本土と占領地クリミアを結ぶクリミア橋が新設された際にプーチン氏が乗車したロシア鉄道の特別チャーター車両に、しっかりとドームが映っている。

ドームの画像からは、プーチン氏専用列車が一般的なロシア鉄道車両と同じ外観をしていることが分かる。数年にわたって繰り返し鉄道マニアに目撃され、撮影もされている。

プーチン氏の胸の内を理解するには、根本的に臆測に頼るしかない。最良の方法は、プーチン氏とともに過ごした人物に意見を求めることだ。

そうした人物の一人が、長年プーチン氏のスピーチライターを務めたアッバス・ガリヤモフ氏だ。

現在はイスラエルに居を構えるガリヤモフ氏は、「プーチン氏は政治的不安を抱え、次第に身体的な不安も抱くようになったのだろう」と語った。「側近の中には、プーチン氏のこうした不安を利用しようとする者も大勢いる。ほら、ここにも危険が、あちらにも危険がありますよ、というように」

ガリヤモフ氏が言うところの「パラノイア」が原因で、このロシアの指導者は次第に周囲との間に壁を作っていった。

「戦争は劣勢で、政治的勢いも失いつつあり、支持率も落ちている」とガリヤモフ氏。「次第に敵も増え、どんどん犯罪を重ねている。本人は現状を四面楚歌(そか)だと感じ、こうしたことすべてから身を守りたいという心理状況に陥っている」

おそらくこうした防護で距離が生まれたことが、プーチン氏の当面の問題だとガリヤモフ氏は臆測する。皮肉な話だが、自分専用の車両に極度の安心感を求めた理由もそこにあるのかもしれない。

「同氏が移動することはほとんどない」とガリヤモフ氏。「国民との接点を失いつつある。大統領府の人間もこの点を懸念している」

「(ロシア政府関係者は)これがプーチン氏の支持率低下をもたらす問題のひとつだと理解している。だからこそ同氏が外出して可能な限り快適に移動できるよう、手を尽くそうとしているのではないか」(ガリヤモフ氏)。

そうした隔離に近い対策は、短命に終わったワグネルの乱で揺さぶられた。反乱後の数日間、プーチン氏は異例の数の会議をこなし、一般市民に挨拶(あいさつ)する姿さえも見せた。

その際、プーチン氏が特別列車で移動したかどうかは分からない――だが今回の反乱で、同氏が抱えているとみられる「パラノイア」が収まることはなかったようだ。

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