OPINION

ウクライナ戦争、終結への道筋は存在する

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首都近郊の町ボロディアンカの破壊された住宅街に立つウクライナ国旗/Sergei Chuzavkov/SOPA Images/Sipa USA/Reuters

首都近郊の町ボロディアンカの破壊された住宅街に立つウクライナ国旗/Sergei Chuzavkov/SOPA Images/Sipa USA/Reuters

(CNN) ロシアによるウクライナへの露骨な侵攻から1年が経過して明白になったのは、どちらの側も戦争に勝利するほど強くはなく、かといって和平を求めるほど弱くもないということだ。紛争は膠着(こうちゃく)状態に陥っている。目覚ましい戦果を記録した後、ウクライナ軍には数カ月間、大きな前進がない。一方のロシアは占領地域でこそ支配を強めているものの、さらなる攻撃についてはこれまでのところほとんど成功していない。

ファリード・ザカリア氏
ファリード・ザカリア氏

現状は数字に表れている。米紙ワシントン・ポストの分析によれば、ロシアは昨年の侵攻開始時にウクライナの領土の約7%を占領した。その後1カ月の間に東部で勝利を収めた時点では、同国の22%を掌握していた。ここからウクライナの反撃が始まり、11月の半ばまでにはこれらの領土の3分の1を奪還した。直近の3カ月間で大勢に変化はない。ウクライナとロシアは共に新たな動きを計画しているが、状況を根本的に変えるには極めて大きな勝利が必要になるだろう。別の言い方をすれば、ウクライナが奪い返さなくてはならない領土は昨年のざっと2倍に相当する。それでようやく2022年の侵攻以降制圧されていた領土を取り返す計算になる。

ロシアの戦いぶりは粗末なものであり続けていたが、ここへ来て改善している。領土を維持することにかけては特にそうだ。また自国の経済も安定化できている。国際通貨基金(IMF)の予測によれば、今年のロシア経済のパフォーマンスは英国やドイツを上回るという。ロシアは中国やインドのような経済大国とも、トルコやイランといった周辺国とも自由に貿易できている。これらをはじめとする多くの国々のおかげで、先進的なハイテク部門を別にすれば、ロシアは西側のボイコットを通じて失ったあらゆる品目や資本へのアクセスを確保する。今では西側を含まない巨大な世界経済というものが存在しており、ロシアはそうした海域を自由に泳ぐことができる。長期的な戦争のコストや経済制裁の影響は現実的なものではあるが、効果が出てくるのには時間がかかる。この種の孤立や痛みで独裁体制の政策が変わることはまずない。北朝鮮やイラン、キューバ、ベネズエラを見れば分かる話だ。

では、この先の道筋はどうなるのか。短期的に見れば、西側とその同盟国にとっての答えはたった一つ。ウクライナへさらに多くの兵器と資金を与えることしかない。ロシアのプーチン大統領について、侵略戦争による見返りを与えてはならないとの決断を下したのであれば、あらゆる措置を講じてそれを実現すればいい。ウクライナが要請するほぼ全ての兵器を巡っては一定のパターンが存在する。まずは躊躇(ちゅうちょ)があり、次に先延ばし、最後にようやく合意が成立する。なぜもっと多くの兵器を、より迅速に送らないのか。ここからの3カ月間は極めて重要だ。雪解けとともに軍隊の移動がしやすくなるからだ。

そうは言っても、第2次世界大戦のような完全勝利を想定するのは難しい。ほとんどの戦争は交渉により終結する。今回がそうならないとは考えにくい。西側が果たすべき役割は、ウクライナが確実に十分な成功と勢いを戦場で獲得できるようにすることだ。そうすれば、そのような交渉にも極めて強い立場で臨める。ウクライナ側がクリミア半島奪還のような劇的勝利を収めない限り、プーチン氏が交渉のテーブルに着く公算は小さい。

戦争行為を終わらせる方法はあるのだろうか。理論上はイエスだ。昨年2月以降奪取した全ての領土をウクライナに返還する条件での停戦は想定し得る。14年に併合されたクリミア半島など、それ以前に獲得した領土については国際的な仲裁の対象になるだろう。具体的には現地の住民投票をロシア政府ではなく、国際的な組織によって実施するといったことが考えられる。加えてウクライナは、自国の安全保障の確証を北大西洋条約機構(NATO)から得るだろう。ただ領有権が争われている地域は、その適用から外れると思われる。そうした交換条件、簡単に言えばクリミア半島並びに東部ドンバス地方の一部と引き換えにNATO及び欧州連合(EU)の事実上の加盟国になるという取り引きを、ウクライナ国民は受け入れる可能性がある。それによって西側の一部になるという彼らの長年の目標が達成されるからだ。ロシア側も、この条件なら容認が可能になるかもしれない。ウクライナ国内のロシア語圏の一部を守ったとの主張が成立するというのがその理由だ。

この戦争をウクライナの全面勝利で終わらせることができると信じている人は多い。筆者もそう望んでいるが、実際には疑わしいと思っている。21年時点で、ロシアの人口はウクライナの3倍を超えていた。国内総生産(GDP)はおよそ15倍。防衛予算は10倍の規模だった。ロシア人は戦時の痛みに耐える能力が高いことで知られる(ソ連が第2次大戦時に2400万人の人口を失ったのに対し、米国は42万人だった)。またロシア経済は現状緩やかに失速しているが、ウクライナのそれは崖下に転げ落ちてしまった。昨年のGDPは30%前後の縮小を記録。政府支出は(西側の支援による)収入の倍以上に膨れ上がっている。

1300万人以上が難民となり、そのうち約800万人は国外に逃れた。戦争はウクライナの国土で起きている。国内の各都市が爆撃でがれきと化し、工場は完全に破壊され、国民は困窮に陥った。仮に戦争がこのまま何年も人々を苦しめるとするなら、次のように問う価値はあるだろう。――我々がウクライナを破壊させているのではないか。国を救うためという名目で。

本稿はCNNの番組司会者、ファリード・ザカリア氏による論説です。記事の内容は同氏個人の見解です。

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