OPINION

ウクライナとイスラエル、バイデン米大統領は現実を見るべき

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米国が成立させた巨額の軍事支援はウクライナとイスラエルの戦争にどう影響を及ぼすか/Francisco Seco/AP

米国が成立させた巨額の軍事支援はウクライナとイスラエルの戦争にどう影響を及ぼすか/Francisco Seco/AP

(CNN) バイデン米大統領が署名した950億ドル(約15兆円)規模の軍事支援パッケージは、現実的な交渉が成し遂げた偉業に他ならない。それはウクライナとイスラエルへの資金拠出を念頭に置いた施策であり、数カ月に及ぶ連邦議会での抜け目ない駆け引きを経て実現した。しかし今回の支援で両国の戦争目的が増大する場合、それはこの種の現実的な交渉を阻害する恐れがある。そうした交渉こそが、両国の戦争に終止符を打つ唯一の方法であるにもかかわらず。

マーク・ハンナ氏/Courtesy of Mark Hannah
マーク・ハンナ氏/Courtesy of Mark Hannah

民主国家が反自由主義的な敵に立ち向かうのを支援するバイデン氏は正しい。イスラエルとウクライナは、侵攻という最悪の罪に苦しんでいる。しかし無条件の支持を声高に唱えることは、交渉による和平を妨げるという点でかえって助けようとする国々を傷つけかねない。民間人の命を守り、地域の安定を回復するのはその種の交渉だからだ。

資金の提供によって、ウクライナとイスラエルには勝ち得ない勝利を追求する動機が生まれるかもしれない。前者にとっては国境地域の完全な回復とクリミア半島の返還、後者にとってはイスラム組織ハマスの壊滅がそれに該当する。国際政治と武力紛争において、各国は相互不信の中で緊張を高め、それぞれの公正観も対立している。時には正義を達成できない国が出てくる。そうした国々に成し遂げられるのは和平だけだ。

新たな支援の注入により、米国はウクライナとイスラエルに対する多大な影響力を手にしている。米政府はこれまでのところ、この影響力の大々的な行使を拒んできたが、今こそそうした行動を取る必要がある。さもなければ近い将来の和平は望めない。

イスラエルのネタニヤフ首相は、依然としてハマスに対する「全面勝利」という結果以外受け入れないと主張している。しかし戦争が激化する中、イスラエルがここまで殺害を報告したハマス戦闘員は全体の半数に届かず、ハマスの使用するトンネル網も完全には破壊できていない。これはハマス側が当面イスラエルに対抗し続けられる状況にあることを示唆する。そして仮にイスラエルがハマスを壊滅できたとしても、結果は破局的な形での成功となる可能性がある。その場合は付随する民間人の惨状がパレスチナ人の間に一段の過激化をもたらし、アラブ諸国の一般国民の怒りを駆り立てる。彼らは自分たちの指導者に圧力をかけ、アラブとイスラエルの関係正常化の取り組みを断念させようとする。

同様に、ウクライナ政府も失った領土を全て取り戻すまで戦い続けると主張している。そこには2014年にロシアが違法に併合したクリミア半島も含まれるが、米政府が再考を迫っている兆候はない。ただ当時のミリー統合参謀本部議長が1年前に筆者に告げたように、「どちらの側も、それぞれの完全な政治上の目的を軍事的手段によって達成する公算は小さい」。従って「恐らくどこかの段階で終わりを迎えるだろう。何らかの形で交渉のテーブルに着くことになる」。この発言が出たのは、ウクライナが自軍で最高の部隊並びに装備を昨夏の反転攻勢で失う前だった。反攻への期待は高かったが、これによってロシアに決定的な打撃を与えることはできなかった。

米政権の名誉のために言っておくと、彼らの目はそこまで曇っているわけではなく、非公式の場ではウクライナが今後新たに領土を奪還する望みが薄いことを認めている。しかし依然として、米国が交渉を通じた解決に向けて下準備をしているとの表立った兆候はない。米国の決意を伝えることでウクライナの交渉上の立場は確保できるが、それによってウクライナ側が妥当な和平条件を拒絶してしまうリスクも生じる。その場合、仮にそうした条件が提示されてもウクライナは戦闘を継続し、道徳的には正しいが達成不可能な目標を追求することになる。

同じく、米政権はパレスチナ自治区ガザ地区への人道支援を強化し、交渉によってハマスにイスラエル人の人質を解放させようと努めている。パレスチナ自治政府にはガザを統治するよう呼び掛けてもいる。一方でイスラエルへの説得については、もっとできることがあるだろう。情勢を不安定化する自分たちの目標に関して根本的な再考を促す行動がとれるはずだ。バイデン政権は、公の場でも非公式でもイスラエルの指導者たちにこう伝えるべきだ。彼らの現行の戦略は成功する公算が小さく、地域の安全保障を阻害していると。

米国の政策をこれらの紛争において考え得る最上の結果へと向かわせることに対しては、今後少なくともいくつかの反論が寄せられるだろう。その結果の中身はあくまでも短期的な和平と安定の達成であって、我が国の提携国が掲げる非現実的な目標ではないからだ。

戦争はある面で、単純な二元論にまとめられた世界観を生じさせる。01年9月11日の米同時多発テロの後、当時のブッシュ大統領(子)はあらゆる国が決断を下さなくてはならないと宣言した。「我々と共にあるのか、テロリストと共にあるのかだ」。バイデン氏がウクライナでの戦争について語った時も、米国人は一つの選択に直面していると告げられた。ウクライナ政府に無条件の支援を申し出るのか、紛争から「撤退」してロシアのプーチン大統領がウクライナを「消し去る」のを許すのか、どちらかを選べというわけだ。だが世界を邪悪な侵略者と正当な被害者に分断するこの種の二元論的見解を持ち出したところで、元来不可能な軍事的勝利が成し遂げられるわけでは全くない。

共に主権国家であるウクライナとイスラエルに対し、米国が何かを命じることなどそもそもできないと言う人もいるだろう。実際バイデン氏は、公の場の大半でそうした姿勢を示してきた。「ウクライナを抜きにしてウクライナのことは語れない」。何度も繰り返すこの言葉がそれを表している。国務省も「米国はイスラエルの行動に対して指図しない」と断言する。

両国は当然主体的に行動しているが、それは米国も同様だ。米国が両国の戦争努力の支援に関与すれば、そこから得る権利と責任により、それぞれの紛争の経過を共有することになる。それは自国の利益を守るやり方で行われる。米国がウクライナとイスラエルの行為主体性を尊重することは可能だが、だからといって米国自体の主体性がそれに振り回されるわけではない。

ウクライナの場合、これは支援を引き上げると脅すことを意味しない。そうなればウクライナは戦場で弱体化し、交渉時も不利な状況に立たされるだろう。代わりに米国ができたのは、既に行っていた(エイブラムス戦車、F16戦闘機、クラスター爆弾、長距離ミサイルに対する)制限の強化だった。もしくはここへ来て、実質的な外交努力への援助を軍事努力並みの熱心さで実施してもよかった。ところが直近の支援パッケージには、長距離ミサイル「ATACMS(エイタクムス)」が含まれている。これはウクライナがクリミア半島に対する攻撃準備を進めていることを示唆する。1年半にわたり、バイデン氏は賢明にもこれらのミサイルをウクライナに供与するのを拒否。プーチン氏にとっての「越えてはならない一線」だと警告してきた。クリミア半島が攻撃された場合、プーチン氏は核兵器を使用する可能性がある。

イスラエルでは、軍事援助に条件を付けるのがより適切な考え方だ。イスラエル軍の攻撃で食料支援団体「ワールド・セントラル・キッチン(WCK)」の職員が死亡した後、米国は確かに影響力を行使した。複数の情報筋がCNNに明らかにしたところによると、バイデン氏はネタニヤフ首相に対して警鐘を鳴らし、イスラエルがガザでの人道支援拡大を認めない限り米国はイスラエルの戦争に向けた協力方法を再考すると告げた。この後イスラエルは最後通達を受け入れ、バイデン氏によるものと報じられた要望に従い、方針を変更することを同日のうちに公表した。残念ながら、これ以降も米大統領が圧力をかけ続けているという証拠はほとんどない。支援パッケージが連邦議会を通過した際、親イスラエルのロビー団体は歓声を上げた。安全保障上の援助に「追加の条件が何もなかった」からだ。

一つの歴史的事例から、米国がどのようにして自前の影響力を現在のネタニヤフ氏に行使できるのかが見て取れる。1973年の第4次中東戦争でイスラエルがエジプト軍を包囲した時、当時のキッシンジャー米国務長官はテルアビブへ飛び、ゴルダ・メイア首相に圧力をかけて停戦を成立させた。当時のエジプトによる攻撃は、ハマスと同様一方的に奇襲を仕掛けたものだった。キッシンジャーはソ連が背後にいるアラブ諸国の勝利を恐れていたが、最近機密解除された文書から、イスラエルの全面勝利にも懸念を抱いていたことが分かっている。

キッシンジャーは次のように記した。「イスラエルの観点からは、全アラブ世界が過激化、反米化するのは災難でも何でもない。それによって米国からの継続的な支援が保証されるからだ。米国から見れば、それは災難以外の何物でもない」。その上で、米国はイスラエルからもっと真剣に考えられる国になる必要があると助言。「より政治的志向の強い方針に関して、我が国の主張が見過ごされることがあってはならない」と指摘した。この助言は、現在において一段の真実味を帯びている。

そもそも交渉による解決では、道徳的に満足できる結果が得られないことが往々にしてある。ロシアの主権国家への侵攻は許されるものではなく、ただで済ませていいはずがない。イスラエルは自国を防衛する権利を有する。とはいえ、道徳的な問題へ過度に焦点を狭めるやり方は、戦略的な可能性を見極める目を曇らせることにしかならない。現状で実現が可能なのは、ウクライナでもガザでも、和平をおいて他にない。

マーク・ハンナ氏はコンサルティング企業「ユーラシア・グループ」傘下の「インスティテュート・フォー・グローバル・アフェアーズ」のシニアフェロー。ポッドキャスト番組の司会も務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

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