米大統領選の「選挙人団」とは? 国民が直接大統領を選ばず

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米大統領選の「選挙人団」、歌で解説

(CNN) 11月3日の「選挙の日」に投票所に行く米国人は、実際には大統領を直接選んでいるわけではない。

彼らは厳密にいえば538人の選挙人を選ぶための投票をしている。憲法が示す制度に従うと、これらの選挙人が各州で集まり、大統領と副大統領を選ぶ投票を行うことになる。選挙人は選挙人団を構成し、彼らの票が連邦議会の両院合同会議で上院議長により集計される。

どうして起草者はこんな制度を選んだのか。いくつか理由はある。まず、彼らは派閥を恐れ、また投票者が十分に情報を与えられずに決定することを危惧した。彼らは各州に選挙の実施方法を指示したくなかった。有権者人口が最大の州が事実上大統領を選ぶことになる状況を恐れる者も多かった。連邦議会が大統領を選ぶ方法を望む人もいれば、国民の一般投票を希望する人もいた。そう、選挙人団は妥協の産物なのだ。

全ての米国の歴史に残っているように、選挙人団にも奴隷制の汚点が存在する。選挙人の数は連邦議会下院の議席数と直接結びついているが、その議席数を割り当てる公式は当時、「5分の3妥協案」に依拠していた。同案は各州の奴隷は議席数の割り当てで1人の人間以下の5分の3人としてカウントする方法だった。これにより奴隷人口の多い南部州は、人口の多くが投票権を持たず自由民ではなかったが、より多くの権力を握ることができた。

選挙人団の仕組みは?

選挙人の数は連邦下院議員435人と上院議員100人の合計にコロンビア特別区の3人を加えた数となる。

各州は最低3人の選挙人を有する。最も人口の多いカリフォルニア州は53人の下院議員と2人の上院議員がいるので、合計55人の選挙人の票を持つ。

安定して共和党寄りのテキサス州は36人の下院議員と2人の上院議員がいるので、合計38票の選挙人の票を持つ。

6つの州――アラスカ、デラウエア、モンタナ、ノースダコタ、バーモント、ワイオミングの各州――は小さく過疎なため下院議員選挙区が1つしかなく、選挙人の数は最少の3人となる。コロンビア特別区も3人の選挙人を有する。プエルトリコや他の州以外の領域の有権者は選挙人の票を持たない。ただ、これらの領域は各党の大統領候補を選ぶ予備選には参加できる。

各州はその州の選挙人を選ぶ責任がある。多くの州は選挙人に選挙結果に従うことを求めていない。これによって時折「不誠実な選挙人」として知られる現象が起こりうる。

選挙人団の過半数を獲得するには選挙人の票が270票必要となる。選挙人の総数538人は、連邦議会の議員数が増えるか憲法が修正されない限り変化しない。ただ、各州に割り当てられる選挙人の数は10年に一度、憲法で義務付けられている国勢調査の結果で変わる。

下院の議員数は人口の変化に応じて再割り当てが行われる。いくつかの州は1~2議席ほど増え、他の州は議席を失う。どれだけ人口が少なくても議席数はゼロにはならない。国勢調査で誰を市民としてカウントするかを問題とするかが熱い政治的議論の的となるのはこのためだ。それを問題にすると正確な人口の集計がより困難になるとの懸念のほか、多数の移民がいる州では議員数が2022年以降の選挙で減ってしまうと心配する声がある。直近の国勢調査は2020年に行われた。

もし選挙人の数が同数となったり、過半数を得る大統領候補者がいなかった場合は、選挙の場が下院に移る。各州の議員代表団は1票を持ち、選挙人からの得票数で上位3人の候補者の間で選挙を行う。憲法修正12条によると、一定の期限までに過半数の支持を得る者がいない場合は、副大統領が大統領になる。もし過半数を得て副大統領となる者がいない場合は、下院の代表団は解除され、上院のみで副大統領を選ぶ。憲法修正20条はその期限を3月4日から1月20日へと前倒しした。

ほとんどの州で選挙人の票は全て、州での一般投票で勝利した候補者に与えられる(例外はメーン州とネブラスカ州で、両州は選挙人の票を分割する)。たとえば、テキサス州の中に民主党が強い地域があったり、カリフォルニア州の中に共和党が強い地域があったとしても、そうした州が選挙人の票を現行とは異なる方法で割り当てない限り、州全体での一般投票の結果だけが意味をなす。

この制度を好む人は誰?

一般投票の制度の方がより理解しやすいのは確かだ。

だが、選挙人団制度の支持者は、2000年の大統領選で行われたフロリダ州での票の再集計がひどいと思うなら、それが1億3000万票以上の国全体で起きたらどうなるか想像してほしいと訴える。それは大混乱となるだろう。そしてそれは起きうる。いくつかの州では得票差が0.1%未満の場合には自動的に再集計を行う。2016年の前回大統領選では1億3600万人の有権者がいたので、その差は約13万6000人となるだろう。1960年の大統領選では票差は0.2%未満だったが、ジョン・F・ケネディーは選挙人団の票で確実な勝利を収めた。

選挙人団を支持する重要人物の一人が共和党のマコネル上院院内総務だ。同氏は上院の議場で国全体での一般投票には反対する姿勢を示したことがある。

選挙人団を擁護する声の中には人種差別的な色合いを含むものもある。ルページ前メーン州知事は、選挙人団がなくなると白人の人々は発言権が小さくなると主張した。これは5分の3妥協案が選挙人団を生み出すのを助長した歴史を踏まえると非常に残念な発言だ。

報道によれば、ルページ氏は「実際に何が起きるかと言えばこうだ。もし彼らが主張する通りのことを実行したなら、白人は何も言えなくなる」「少数派だけが大統領を選べるようになってしまう。州で言えばカリフォルニアであり、テキサスであり、フロリダだ。メーンやニューハンプシャー、バーモント、ワイオミング、モンタナ、ロードアイランドなどの小さな州で、大統領候補を再び見ることはなくなるだろう。全国的なステージに立つ人が我々の州に来るはずがない」「我々は忘れ去られた人々となる。これは狂気のプロセスだ」と語った。

だが、2018年6月のPRRIとアトランティックの世論調査によると、米国民の65%は一般投票による大統領の選出を支持している。選挙人団を望む人は32%だった。ただ、質問文に憲法修正の文言が加わると支持率はこれより落ちる。2018年3月のピューの世論調査によると、一般投票で大統領を選ぶための憲法修正を支持するかとの問いに賛成と答えたのは、過半数は上回ったものの55%にとどまった。

選挙人団は憲法に規定され、その修正は困難だ。実現までには何年もかかり、連邦議会や州議会で大多数の賛成が必要となる。現行の選挙人団から利益を享受する州はその力を手放すことにもなる。そのほかの可能性としては、各州が国全体の一般投票の勝者に票を与えるとの合意を形成する形も考えられるが、そのような案が仮に実現したとしても訴訟が起こされることになるだろう。

ただ、選挙人団の制度は過去に3回変更されたことがある。そして毎回憲法の修正を伴った。1800年の選挙後の憲法修正12条では、選挙人が大統領候補に2票投じるのではなく、大統領と副大統領をそれぞれ選ぶ方式に変わった。憲法修正20条はそのプロセスに時間的な制限を置いた。憲法修正23条はコロンビア特別区に選挙人を付与した。

さらに数十年前にも選挙人団を全面的に廃止しようとする重要な動きがあった。1968年、選挙人団を一般投票に置き換える提案は下院を容易に通過したが、上院でフィリバスター(議事妨害)に遭い頓挫した。

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