ロンドン(CNN) 超リアルな鉛筆画で知られるケルビン・オカフォールさんが最近の展覧会で、目に見える肌の違いに関心を寄せるよう呼び掛けている。
英ロンドン市内の画廊「ホープ93ギャラリー」での展覧会「Drawing Awareness」には、一般市民や有名人の肖像画が出品されている。この中には、尋常性白斑という皮膚疾患を持つカナダ人モデルのウィニー・ハーロウさん、自己免疫疾患の全身性エリテマトーデス(SLE)で顔に傷跡が残る英国のグラミー賞歌手シールさんや、酸で襲撃された英国の元モデル、ケイティ・パイパーさんらの肖像画が含まれる。
オカフォールさんは「感情を激しく揺さぶられる作業だ。モデルになった人々は全員、遺伝要因や環境要因による肌の症状があり、それが外見だけでなく内面にも傷を残している」と語る。

過去に酸による襲撃を受けたテレビ司会者、活動家のケイティ・パイパーさん/Kelvin Okafor
オカフォールさんは10年以上前、英歌手エイミー・ワインハウスさんやインドで活動した修道女マザー・テレサといった著名人の写真を基に鉛筆で肖像画を描き、SNS上で一躍有名になった。その後、数々のグループ展や個展を開催している。「Drawing Awareness」でも人物の写真を見て作品を描いたが、多くの相手とは事前に話をして親しくなるよう努めた。
「筆を執る前に通るのは忍耐と静寂、共感のプロセスだ」と、オカフォールさんは説明する。
「モデルになる相手の話を聞くと、自分の中のとても深い感情を揺さぶられ、自身の人生について考えさせられることが多かった。マイナスの方向ではなく、世界のとらえ方が変わった。自分の肌をしっくり受け入れられるのはとてもありがたいことだと気付かされた」
それぞれの肖像画には人物の体験談が添えられている。その両方が見る者に対し、外見に表れない部分へ目を向けるべきだと訴えかけてくる。
オカフォールさんはひとつの作品に最大900時間を費やしたと話す。その人物の話にのめり込みながら、声や身ぶり、心理をじっと観察した。
こうした精神的なつながりは非常に重要だという。「そのおかげで作業を長時間続けることができる。相手の状況に敬服しているからだ。もしつながりを感じなかったら、そんなに多くの時間を費やすことはないだろう」

超リアルな鉛筆画を描くケルビン・オカフォールさんと自画像/Kelvin Okafor
1日に14時間、描き続けることも多い。朝5時半に起きて瞑想(めいそう)と運動に取り組み、11時ごろから作業を始める。
何時間か続けて集中し、途中でリフレッシュのために休憩する。毎晩の睡眠は4時間前後だ。「ハードに聞こえるが、つい没頭してしまう。自分の中で、なにかもっと大きいことに向けた構えができつつあると感じるからだ」

シンベ・アバルムン・クイーンさんは、アフリカを中心にアルビノの症状を持つ人々の受容に取り組んでいる/Kelvin Okafor
ナイジェリア人の両親を持ち、ロンドンで生まれ育ったオカフォールさんは、子どものころから肌の違いに関心を持っていた。
「幼いころ家族とナイジェリアに行くと、アルビノ(眼皮膚白皮症)の人たちをよく見かけたが、私にはそれが何なのか分からなかった」と、オカフォールさんは振り返る。「私は好奇心から、ひとりで『あの人たちは日焼けしないのだろうか。なぜあんなに色が白いのか』と考えたものだ」
ロンドンに戻ると、アルビノの人々をめったに見ないことに気付いた。
「今回のプロジェクトでついにアルビノのモデルを描くことになり、子ども時代からの疑問に答えられるような気がした」
美しさの基準を問い直す
オカフォールさんは2019年に初めてハーロウさんを描いて啓示を受けた。「私たちの世界にはとても厳密な美の理想像がある。だがモデル業界にいるこの人は、はっきりと目に見える違いがありながら、皮膚疾患や特徴的な外見を持つ多くの人々の居場所をつくってきた。そんなことに気付かされた」という。
この経験によって、オカフォールさんは美とはなにかを考えるようになった。「対称性や身長や体重が大事といわれるが、本当にそうだろうか」「美しさは表面よりずっと深く、ほとんど無形のもの。人の内面から発するものだ」と、オカフォールさんは語る。

ホープ93の創設者のアキ・アビオラさん(左)とオカフォールさん/Hope93
見られること、受け入れられること
ホープ93の公式サイトによると、同ギャラリーはインクルージョン(包括性)を「中心」にすえた空間として、「芸術を出発点に地域社会をつなげる」目的で開設された。
創設者のアキ・アビオラさんは「私をこの展覧会に引き寄せたのは、内面の美しさに目を向けることの重要性だ」と話す。ギャラリーの名前は、1993年のナイジェリア大統領選に立候補した亡き父、MKOアビオラさんにちなんで付けられた。
「今は人々が外見で他者を判断する時代だが、それは不当なことだと思う。相手の人生の裏にある物語を知れば、その人をもっとよく理解できるようになる。ケルビンが示そうとしているのはまさにこういうこと、つまり内面の美しさだと思う」
オカフォールさんは「似たような特徴を持つ人が、人々に見られ、受け入れられるという感覚を持ってくれたらとてもうれしい」と話している。
「そうでない人には、より多くのことを学び、啓発される機会としてこの展覧会を捉えてもらいたい」
展覧会は7月3日まで開催される。
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原文タイトル:These hyper-realistic pencil portraits are raising awareness of visible skin differences(抄訳)