Arts

太古の洞窟壁画、描き手は酸欠状態にあったとの新研究

フランス南部にあるショーべ洞窟の壁画。紀元前3万年ごろに描かれたとされる

フランス南部にあるショーべ洞窟の壁画。紀元前3万年ごろに描かれたとされる/Heritage Images/Hulton Fine Art Collection/Getty Images

太古の洞窟に描かれた装飾画を目の当たりにするのは息をのむ体験と言えるが、新たな研究によると、当時の芸術家たちは酸欠状態に陥りながら作品を仕上げていた可能性があるという。

イスラエルのテルアビブ大学がおよそ4万~1万4000年前の後期旧石器時代に描かれた洞窟壁画を分析したところ、それらの多くは洞窟の奥深くの開けた空間や狭い通路に位置しており、明かりを持ち込まなければたどり着くことができない。

今回の研究で焦点を当てたのは欧州の洞窟壁画で、大半はスペインとフランスのもの。なぜこれらの壁画が洞窟の奥深くに描かれているのかを解明するのが目的だ。

研究論文には「後期旧石器時代の人々は、深い洞窟の内部を日常的、家族的な活動には使わなかったようだ。そうした活動はもっぱら野外や、浅い洞窟の岩窟住居、洞窟の入り口部分で行われていた」とある。

そのうえで「壁画は洞窟の深く暗い部分だけで描かれていたわけではないが、そうした場所でみられる図像は洞窟壁画の極めて印象的なイメージとなっており、したがって本研究の中心を占める」と記述する。

論文の共著者で先史考古学者のラン・バルカイ教授はCNNの取材に答え、洞窟を照らすために火を使えば酸素レベルが低下し、低酸素症の症状を引き起こしただろうと指摘する。低酸素症になると神経伝達物質の一種のドーパミンが放出され、幻覚を見たり幽体離脱を体験したりする可能性があるという。

スペイン北部のコバシエジャ洞窟に描かれた野牛の絵/Image Professionals GmbH/Alamy Stock Photo
スペイン北部のコバシエジャ洞窟に描かれた野牛の絵/Image Professionals GmbH/Alamy Stock Photo

そうした状態で壁画を描くのは自覚的な選択によるものであり、描き手が宇宙と心を交わす助けになったと、バルカイ氏は付け加える。

「(壁画は)世界の事物とつながるためのものだった」「我々は洞窟美術という呼称は使わない。美術館にあるものとは違う」(バルカイ氏)

壁画の描き手は、岩の表面を自分たちの世界と下界をつなぐ膜だと考えていた。下界はあらゆるものが豊かに存在する場所と信じられていた。そうバルカイ氏は説明する。

壁画にはマンモスや野牛、野ヤギといった動物が描かれた。専門家は長年、そこにどのような意図があるのかを議論してきた。

研究者らは、洞窟が後期旧石器時代の信仰体系において重要な役割を果たしていたと指摘。壁画はそうした関係性の一部だったとの見方を示す。

「壁画で飾ることで洞窟が重要なものになったのではない。実態はその逆で、彼らが選んだその洞窟が重要だからこそ、装飾が施されたのだ」と、論文は分析する。

バルカイ氏はまた、洞窟壁画がある種の通過儀礼の一部に使用されていた可能性に言及した。その場に子どもがいた証拠が見つかっているという。

今後の一段の研究で、なぜ洞窟のこれほど深い場所まで子どもが連れて来られたのかが検証されると、バルカイ氏は指摘する。同時に、現場の人々が低炭素状態に対する抵抗力をつけることができていたのかどうかについても考察が進むと述べた。

論文は先週、学術誌「タイム・アンド・マインド」に掲載された。

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]