映画衣裳デザイナーのジュディアンナ・マコフスキー氏は、スーパーヒーローたちの衣装の専門家だ。
2014年公開の映画「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」以来、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)一筋で、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(16年)、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」(17年)、「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」(18年)と、MCUシリーズを相次いで手掛けた。
「アベンジャーズ/エンドゲーム」ではタイムトラベルの設定によって、以前のコスチュームが復活した/Marvel Studios
そして、マコフスキー氏は2019年公開の「アベンジャーズ」シリーズの完結編「アベンジャーズ/エンドゲーム」の仕事を引き受けた。一部のキャラクターにとっては、この映画が最後の出演となり、衣装を身に着ける最後の機会となる。功績が認められ、マコフスキー氏はこれまで、衣装デザイナー組合(CDG)賞に8度もノミネートされている。
2006年に公開された20世紀フォックスの映画「X―MEN:ファイナルディシジョン」でマコフスキー氏が衣装を担当して以来、スーパーヒーローの衣装は大きく進化した。
マコフスキー氏は「技術が進歩した」とし、「生地のプリント、生地の種類、レーザー切断、レーザーエッチング、3Dプリントなど、今や多くの新しい技術があり、利用可能な新技術が常に存在する」と付け加えた。
マコフスキー氏によると、動きやすさや使いやすさのために、衣装の生地が本物ではないことも多々あるという。
「世間の人たちは、われわれが革やスパンデックスを使用していると考えているが、大半の衣装はたいてい伸縮性のある綿で作られている。綿は染色やプリントが可能で、さらに質感も出せるため、ケブラーのように見せることもできるし、他の物のように見せることもできる」(マコフスキー氏)
衣装で最も苦労したキャラクターを尋ねると、マコフスキー氏は意外にも、「スパイダーマン」と即答した。
ジュディアンナ・マコフスキー氏によれば、スパイダーマンのコスチュームが一番難しかったという/Marvel Studios
「(スパイダーマンの衣装は)レオタードのように非常にシンプルに見えるが、実はそうではない。しわが寄ってはいけないし、縫い目が見えてもいけない。また頭部もフィットする必要があるが、俳優(トム・ホランド)は衣装を着たまま動けなくてはならない」
扱いに細心の注意を要する情報を感受性の強い面々に知られないようにするのもマコフスキー氏の仕事のひとつだった。その最たる例が、映画のプロット(筋書き)だ。マコフスキー氏は、台本全体を入手できる数少ない関係者の1人だった。しかし、台本そのものを所持していたわけではなく、本物の台本は事務所に保管され、それを読むには予約を取る必要があったという。
特にマコフスキー氏の印象に残っているのは、(映画「アイアンマン」の主人公の)トニー・スタークの葬儀だ。当初、俳優たちは結婚式に参列すると言われていたという。衣装合わせの時、マコフスキー氏は俳優たちに、「心配しないで。黒い服を着ているけど、そういうコンセプトだから」と説明したという。
トニー・スタークの葬儀に参加する出演者は結婚式の撮影を行うと聞かされていた/Chuck Zlotnick/Marvel Studios
「彼らは、私が秘密を漏らすことはないと分かっていたが、彼らが聞いてくることはほとんどなかった」とマコフスキー氏は付け加えた(「アベンジャーズ」シリーズの俳優陣は、過去に自分の出演作の情報をうっかり漏らしてしまったことがあるため、あえて聞かないのはそれを防ぐためだろう)
マコフスキー氏は厳重に管理されている筋書きを早い段階で知りうる立場にいたにもかかわらず、制作スケジュール内に用意できなかった物もあった。
実は、「アベンジャーズ/エンドゲーム」に登場したタイムトラベル用の量子スーツは、撮影後に追加された。クリエーティブチームがスーツのデザインを完成させる前に、実際に俳優が撮影セットで撮影を行う段階がすでに行われていた。
マコフスキー氏は、「撮影の途中で量子スーツのコンセプトが出てきた」と述べ、「どのようなスーツにするかについて多くの議論がなされ(中略)さまざまな色を検討した結果、白に落ち着いた」と付け加えた。
タイムトラベル用のスーツは撮影が始まった後で追加され、撮影開始時にはデザインは確定していなかった/Marvel Studios
「アベンジャーズ/エンドゲーム」の撮影に使われた衣装や小道具は、カリフォルニア州バーバンク市にあるウォルト・ディズニー・スタジオに保管されている。「マーベルはすべて自社の倉庫に保管しているが、主要な衣装は彼らのアーカイブに入り、展示品として利用される」(マコフスキー氏)
デザイナーは自らデザインした衣装を記念にもらえるのかと尋ねると、マコフスキー氏は笑いながら、「残念ながら何も持っていない」と否定した。
仮にもらえたとしたら、との質問に対し、マコフスキー氏は「動物が好きなので、恐らく、(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に登場する、アライグマの姿をした)『ロケット』を選んだだろう。ただ衣装はとても大きくて、自宅で置き場所に困るだろうけど」と語った。