Architecture

劇場デザインのあり方を根底から再考、台湾の新アートセンター

立方体と球を組み合わせてデザインされた台北パフォーミングアーツセンター(TPAC)

立方体と球を組み合わせてデザインされた台北パフォーミングアーツセンター(TPAC)/Christ Stowers Photography

着工から10年以上の年月を経て、待望の台北パフォーミングアーツセンター(TPAC)が8月に開館した。長年にわたる工事の遅れや、67億台湾ドル(約300億円)に膨らんだ予算を巡る論争を経て、ようやく人々の関心が今秋上演される数多くの作品、そしてシアターのあり方を根本的に見つめ直す会場に集まることになる。

TPACは、キューブ型の建物から3つのシアターがドラマチックに突き出たデザインが印象的だ。アシンメトリックな「グランド・シアター」は1500席と、シアターの中でも群を抜いて最大規模を誇る。ところが、この象徴的なTPACで最も際立った特徴を持つのは、比較的小規模な800席の「グローブ・プレーハウス」。波板ガラスで覆われた銀色の球形のシアターで、TPACの設計に携わったオランダの建築設計事務所OMAは「キューブにドッキングする惑星」と表現している。

だが、OMAの創設者で建築家のレム・コールハース氏(77)によると、TPACの形は神秘的で象徴的であると同時に、その設計は驚くほど単純な幾何学に基づいているという。

「21世紀初頭、建物をどんどん奇抜なものにしていくことが、明らかに義務化された」と、コールハース氏はCNNの動画インタビューの中で語っている。「今回の場合、我々は単純に、ほとんど数学的に、唯一のスペクタクルとなるよう組み合わせることを義務付けられたそれぞれの構成要素の絶対的な外形を取った」

「これらは立方体と球という非常によく知られた2つの形だ。だが、それらを組み合わせることで、これまでに存在しなかったものが生まれる」と、OMAのマネジングパートナーであり建築家のデビッド・ジャーノッテン氏は言い添えた。同氏は2008年にコールハース氏と共にTPACの建築図面を描き始めた。

しかし、TPACが真に実験的であるのは、その内部にある。

グローブ・プレーハウスの様子/Boo-Him Lo/Shephotoerd Co. Photography
グローブ・プレーハウスの様子/Boo-Him Lo/Shephotoerd Co. Photography

各シアターがそれぞれ独自の舞台、楽屋、サポート機能を持つという「保守的」な舞台芸術施設の正統性を覆すべく、建築家は中央のハブに別々の3つのシアターを「接続」することを構想した。また、すべてのシアターに対応できるよう、バックステージが共有できるように設計された。グランド・シアターと800席のシアター「ブルー・ボックス」は、2つを合わせたパフォーマンス空間「スーパー・シアター」として利用することもできる。

これらの決め手となった理由の一つには効率面における問題もあった。会場の内部構造を統合することで、台北北部のにぎやかな夜市で知られるこの地区で、空間を節約することができた。ジャーノッテン氏にとっては別のメリットもあった。それは、プロデューサー、俳優、スタッフ、観客など、通常のシアターでは交わることのない人たちの交流を促進することだった。

従来の舞台芸術施設では、異なるパフォーマンス空間の間に「何のつながりもない」とジャーノッテン氏は指摘する。「私たちにとって本当に興味深いのは、期待に胸を膨らませる来場者、創作する人、演じる人、これらすべてのエネルギーが一堂に会することだ」

「普段そこにはない好機が生まれ始まる」とジャーノッテン氏は語る。

TPACの最高経営責任者(CEO)を務める王孟超氏もまた、シアターに柔軟性があることは、演出家やパフォーマーに新たな創造の可能性をもたらすと考えている。「このような空間は、台湾のどこにも、そして海外でも見たことがない。よって、すべては将来(ここで演じる)アーティストたちの想像力にかかっている」と王氏は電話インタビューの中で述べている。

劇場のスペースが建物の中心部から突き出ている/Boo-Him Lo/Shephotoerd Co. Photography
劇場のスペースが建物の中心部から突き出ている/Boo-Him Lo/Shephotoerd Co. Photography

誰にも開かれたシンボル

コールハース氏は1975年にOMAを設立以来、カタール国立図書館からテキサス州ダラスのディーアンドチャールズワイリーシアターまで、世界中で数多くの文化施設の設計を手掛けてきた。

台湾におけるコールハース氏のデビュー作であるTPACは、同氏のこれまでの作品の中でも最も目を引くものの一つかもしれないが、コールハース氏はこのプロジェクトの「際立った特徴」は、型破りなレイアウトでも、ファサード(正面)に衝突する巨大な球体でもなく、会場の周りに作られたパブリックスペースであると主張する。

TPACの観客席を高床式にすることで、その下の空間を解放し、歩行者を敷地内に招き入れた。そこから「パブリックループ」と名付けられた通路を通ると、公演のチケットを持っている人のみならず、誰でも建物内が見学できるようになっている。入口の窓からは公演や舞台裏が垣間見えるという。

「この建物は、選ばれた人だけでなく、誰もがアクセスできる」とコールハース氏。TPACのオープニングに合わせ最近台湾を訪れた際、来場者がどのように施設を利用しているかを見て勇気づけられたという。

工事中の様子/Christ Stowers Photography
工事中の様子/Christ Stowers Photography

コールハース氏はまた、OMAが設計を手掛けてからおよそ14年後に完成したTPACの建物を目の当たりにし、「信じられないほどの安堵(あんど)と幸福を感じた」と述べた。

TPACは当初、7年前にオープンを予定していた。だがプロジェクトは数々の遅延に直面し、前の建設業者が破産を申請して2016年に全面中止となった。王氏によると、これにより生じた「政治的な問題」をすべて解決するのに1年半以上かかったという。倒産だけでプロジェクトの計画が約3年遅れたと同氏は見積もっている。また、プロジェクトは新型コロナウイルスが発生するだいぶ前から遅れていたが、パンデミック(世界的大流行)によりさらに遅延した。

人々の焦燥感にもかかわらず、建築家らにとって、これらの度重なる延期はさらなる調整ができる機会になったという。屋根へのアクセスを改善したり、建物のファサードを改良したりすることで、「我々の影響力が及ばない不運な出来事によって、このプロジェクトが重荷となるのではなく、むしろOMAがプロジェクトの強化に貢献できた」と、ジャーノッテン氏は説明した。

新たな文化の発信地

台北市政府の委託を受けたTPACは、主に公的資金で運営されるという。王氏によると、初年度はチケット販売や寄付、その他の収入を通じ、年間予算の約8%の収入を確保すれば良いが、今後20年以内にその額は年間予算の約半分程度に増加することが見込まれている。

台北パフォーミングアーツセンター(TPAC)が開館した/Shephotoerd Co. Photography
台北パフォーミングアーツセンター(TPAC)が開館した/Shephotoerd Co. Photography

TPACは、近年台湾で開館した複数の大型文化施設の一つだ。TPACの南東約8キロの場所に20年に開館した台北ミュージックセンターは、5000人が収容できるコンサートホールを備えている。台北の約297キロ南に位置する高雄市には、世界最大級のパフォーマンスアートセンターである衛武営国家芸術文化センターが18年に開館。ここはオペラハウスを含む5つの主要な公演会場を備えた広さ約14万平方メートルの複合施設だ。

こうした開発は、政府からの潤沢な資金提供のおかげでもある。文化部(文化省)の予算は、16年から19年の間に50%以上増加した。

自由な芸術表現で知られる台湾は、現代アートフェア「台北当代」といった国際的なイベントの成功と相まって、新たな文化の発信地として、その地位をさらに高めている。

王氏は、芸術分野への公共投資は、台湾を自国の領土と見なす中国との長年にわたる地政学的緊張の直接的な結果であると述べている。

「私たちは常に、ますます強大になっている中国本土と(自分たちを)比較している。故に、そういった意味で、文化的な面への投資を増やしたい。文化的な側面こそ、我々が最も得意とする競争分野だから」(王氏)

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