スイスで全長約2キロの列車が走行 旅客列車の世界最長記録を更新

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全長約2キロ、旅客列車の世界最長記録を更新 スイス

(CNN) スイスアルプスの高地にあるサンモリッツは、ウィンタースポーツの限界を押し上げる場所として有名になった。1928年に第2回冬季五輪の開催地となったが、それ以前から裕福な冒険家向けの行楽地として広く知られていた。

10月29日、可能性の限界を押し広げるというサンモリッツの長年の伝統は、壮大な世界記録への挑戦という形で継続された。しかし、今回の挑戦の舞台は雪や氷ではなく、鉄道だ。

この日、スイス初の鉄道の運行開始から175周年を祝い、同国の鉄道業界が協力して、100両編成、総重量2990トン、全長約2キロという世界最長の旅客列車を走らせた。

通常4両編成の新型車両「カプリコーン」を25編成(計100両)で連結した、この全長1906メートルという記録破りの列車は、急降下するカーブや急な下り坂が永遠に続くことで知られ、ユネスコの世界遺産にも登録されているアルブラ線のプレダ駅からアルバノイ駅までの約25キロの区間を約1時間かけて走行した。

ループ線、そびえる高架橋、トンネル

列車は約800メートルの高低差がある25キロ弱の区間を走行した/MAYK WENDT
列車は約800メートルの高低差がある25キロ弱の区間を走行した/MAYK WENDT

世界的に有名なグレッシャー・エクスプレス(氷河特急)も1930年からこのアルブラ線を走っている。今回の世界記録への挑戦に使われた区間には、アルブラ線が世界遺産に認定される根拠にもなった壮大なランドヴァッサー高架橋や見事なループ線がある。

この25キロ弱の区間を走行する間、列車は一連のループ線、そびえる高架橋、複数のトンネルを通過し、海抜1788メートルに位置するプレダ駅から、同999.3メートルのアルバノイ駅まで急降下した。

この記録への挑戦は、レーティッシュ鉄道(RhB)が主催し、スイスの鉄道車両メーカー、シュタッドラー・レールが支援した。さらに驚くのは、この挑戦が狭軌(きょうき)鉄道で行われたことだろう。

スイスをはじめ欧州の大半の鉄道は、軌間(レールの間隔)が1.435メートルの標準軌を採用しているが、レーティッシュ鉄道の軌間はわずか1メートルしかない。

さらに、この区間には悪名高い急カーブや急こう配、22本のトンネルに深い谷に架かる48本の橋があることを考えると、この挑戦が幾多の困難を伴うのは明らかだ。

旅客列車の世界最長記録の保有国は、スイスの前がベルギーで、その前はオランダだった。ベルギーとオランダは平地に敷設された標準軌の鉄道を使用したことが有利に働いた。

しかし、レーティッシュ鉄道主催のイベントの数カ月前から、この記録的な長さの列車が安全に運行可能か否かを確認するための試運転などの準備が開始された。

最初の試運転は、緊急ブレーキシステムが作動しないことに加え、多くのトンネル内で7人の運転手が無線や携帯電話で連絡を取り合えないことが判明し、列車を走らせることなく失敗に終わった。

そこで運転手のリーダーを務めたアンドレアス・クレイマー氏(46)は、他の6人の運転手と21人の技術者の協力を得て、無線や携帯電話の代わりにスイス・シビル・プロテクションと呼ばれる組織が構築した仮設のフィールド・テレホン・システムを利用することにより、列車が無数のトンネルや深い谷を最高時速35キロで走行中、運転手間の通信を維持した。

特別に修正されたソフトウェアと7人の運転手間の連絡を可能にしたインターコムのおかげで、25編成の列車は足並みをそろえて走ることができた。

万が一、列車の運行中に車両間で加速や減速の不一致が生じていたら、線路や電源に許容できないほど強い力が加わり、大きな安全上の問題が生じていただろう。

鉄道国家

記録的な100両連結の車両を眺める人々/Fabrice Coffrini/AFP/Getty Images
記録的な100両連結の車両を眺める人々/Fabrice Coffrini/AFP/Getty Images

国土が狭い上に山が多いスイスは、一見鉄道には不向きにも見えるが、実は鉄道産業で小国らしからぬ躍進を遂げている。

必要に迫られる形でこれまで電気、機械、土木工学のパイオニアへと成長。今や同国の技術や専門知識は全世界に輸出されている。

またスイス人は世界で最も熱心な鉄道利用者でもあり、年間の列車での移動距離は平均で2450キロに達する。これは年間の総移動距離の4分の1に相当する。

欧州の他の国々と同様に、スイスでもここ数十年で移動のしやすさが劇的に改善し、車や公共交通機関による年間の平均移動距離は過去50年間で倍増した。

スイスでは、鉄道サービスと他の交通機関との連携を一層強化し、交通の利便性をさらに高める案が検討されている。

しかし、スイスは英国やドイツといった欧州の他の国々と比べ、人口が少なく、移動距離も比較的短いため、より国土の広い国々にあるような統合型の公共交通ネットワークを構築するのは不可能という意見もある。

たしかにスイスはこれまで、その地形、文化、人口密度に適したものを築いてきたのは事実だ。しかし他国から何を言われようとも、レーティッシュ鉄道が10月29日に成し遂げた驚くべき偉業は、スイスが鉄道技術の分野において世界クラスの実力があることを示した、非常に印象深いデモンストレーションとなった。

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