(CNN) 今月2日夜、アカデミー賞授賞式が終わるとセレブたちは急いで着替えを済ませ、米誌バニティ・フェアが主催する公式アフターパーティーに向かった。ここでは、より奇抜なファッションが目を引く。シドニー・スウィーニーはこぼれんばかりのクリスタルを身にまとい、エマ・チェンバレンは編み上げたレザーのドレスに身を包んだ。30年物のビンテージレースやミラノのランウェーで話題になった水玉柄のフリルや羽をふんだんに使用した装いも見られた。だが、ある驚くべきテキスタイルが他を圧倒していた。
レッドカーペット・ファッション界の異端児ことジュリア・フォックスは、ディラーラ・フィンディコグルーがデザインしたダークカラーのウェーブヘアのみで覆われたネイキッドドレスを着用し、注目を集めた。カメラを構えたパパラッチの大群を見つめ、黒褐色のロングヘアを体に巻きつけてつつましさを守ろうとするフォックスの姿は、まるで生まれたばかりの人魚のように神秘的だった。
このドレスは、わずか2週間前に開催されたロンドン・ファッション・ウィークにて、タトゥーのようなモチーフをあしらったレザードレスや貝殻を散りばめたコルセット、腰回りを露出したパンツとともに披露された。コレクション名は「混沌(こんとん)からのビーナス」。黙示録後に解放された女性社会というフィンディコグルーのビジョンにインスピレーションを得たもので、ショーノートには「家父長制的抑圧の重苦しさを、信念の力と想像力の明るさで打ち消す」と記されている。

局部は自身の髪で覆われていた/Phillip Faraone/VF25/Getty Images
フィンディコグルーが「ビーナスの再生」と名付けたフォックス着用のドレスは、イタリアの画家サンドロ・ボッティチェリの代表作「ビーナスの誕生」(1480年ごろ)にちなんだものだが、この絵画作品からヒントを得たデザイナーはフィンディコグルーが初めてではない。
ドルチェ&ガッバーナは1993年、同作品をパズルのピースのようにつなぎ合わせた抽象的なデザインをブレザーやミディ丈ドレス、ビスチェトップにプリントした。アレキサンダー・マックイーンも2010年の最後のコレクションで、グレーのシルクオーガンジーのドレスを「ビーナスの誕生」と名付けたものの、ドレスにはボッティチェリの絵画に描かれた女神ではなく、2人の聖人がデジタルプリントされていた。22年にはジャンポール・ゴルチエが、同作品を一部の服にプリントしたが、原画が所蔵されているフィレンツェのウフィツィ美術館は、商業契約なしに服を制作したことがイタリアの文化遺産規約に違反したとして、ジャンポール・ゴルチエを提訴した。
乳首を自由に?
透け感のある裸同然のシアードレスというコンセプトは少なくとも20世紀半ばにまでさかのぼるが、現在主流となっているスタイルは現代の嗜好(しこう)だけでなく、ヌードや女性の身体に対する考え方も反映している。

ディラーラ・フィンディコグルーの2025年秋冬コレクションで披露された装い。ボッティチェリの代表作「ビーナスの誕生」に着想を得ている/Giovanni Giannoni/WWD/Getty Images
英国最大の音楽賞授賞式「ブリット・アワード2025」では、チャーリー・XCXもフィンディコグルーのシアードレスを着用した。最優秀アーティスト賞の受賞スピーチで、チャーリー・XCXは乳首が見えたために番組の放送局であるITVから苦情を受けたことを認めた。「でも今はフリー・ザ・ニップル(乳首を自由に)の時代よね?」と歓声を上げる観衆に問いかけ、公共の場で女性のトップレス姿を標準とし容認するよう提唱することで男女平等を訴えるフェミニズム運動に言及した。
とはいえ、すべてのセレブがこうした大胆な行動に出る準備ができているわけではない。ネイキッドドレスがレッドカーペットに次々と登場する一方、肌色の下着の着用も増えている。先週、ミリー・ボビー・ブラウンは、新作映画「エレクトリック・ステイト」のマドリード・プレミアで、ジョルジオ・アルマーニのシースルー・ビンテージドレス(1998年製)を着用した。これは、かつてグウィネス・パルトロウが映画「恋におちたシェイクスピア」のオープニングで身につけたものと同じだが、パルトロウとは異なり、ブラウンはニップルカバーをつけた。バニティ・フェアのアフターパーティーでは、シアラとテヤナ・テイラーもシースルーのボディスを着用し、乳首を見せることなく滑らかな胸元をあらわにした。
裸になることは賛否両論を巻き起こし得る。フローレンス・ピューは22年にヴァレンティノのオートクチュールコレクションでピンクのシースルードレスを着用した際に胸元を露出したことで、オンライン上で反発を受けた。ピューは、乳首が布を通して見えていたことで、人々を大いにいら立たせたとエル誌に語った。「これは皆が恐れている自由であり、私が快適で幸せであるという事実」と述べている。
先月のグラミー賞授賞式でビアンカ・センソリが披露した衝撃的な装いが、ネイキッドドレスの芸術的価値について疑問を投げかけたのだとすれば、フォックスのドレスはそれに対する反論だ。フォックスが着用したドレスも同様に物議を醸すと考える人もいるだろうが、このドレスが他と異なるのは、単に衝撃的であるだけでなく、美術史の要素が織り込まれた様式美も備えているということだ。
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原文タイトル:Look of the Week: Julia Fox recreates ‘the Birth of Venus’ at Oscars after-party(抄訳)