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2022年のピレリカレンダー、B・アダムスが大物ミュージシャンを撮る

22年版ピレリカレンダー。有名ミュージシャンをモデルに「ツアー途中」の姿を撮る

22年版ピレリカレンダー。有名ミュージシャンをモデルに「ツアー途中」の姿を撮る/Alessandro Scotti

スタジアムコンサートで盛り上がったあの日々は、遠い思い出のように感じられるかもしれない。それでもカナダ出身のロック歌手で写真家としても活動するブライアン・アダムスは、ツアーで各地を飛び回るライフスタイルを再現している。イギー・ポップやジェニファー・ハドソン、グライムスといった面々と、イタリアのタイヤメーカー、ピレリのカレンダーを撮影しながら。

豪華スターが被写体となることで知られるピレリカレンダーの2022年版のテーマは「On the Road(ツアーの途中)」。カメラマンを務めるアダムスがコンサートの舞台裏の情景をよみがえらせ、著名なミュージシャンらを主役に据える。

最終的な作品は11月まで非公開だが、今回発表された撮影現場の裏側の写真では、リタ・オラがバスタブから脚を突き出したり、シェールが赤い口紅で眩(まばゆ)い光を映し出す楽屋の鏡に線を描いたりしている。

バスタブに体を沈めるリタ・オラをカメラマンのブライアン・アダムスが撮影する/Alessandro Scotti
バスタブに体を沈めるリタ・オラをカメラマンのブライアン・アダムスが撮影する/Alessandro Scotti

10年以上にわたりプロのカメラマンとして活動するアダムスは今回、アニー・リーボヴィッツやピーター・リンドバーグといった注目の写真家も手掛けてきたピレリカレンダーの撮影を依頼された。ラッパーのスウィーティーを撮影した直後、アダムスは自らもミュージシャンであることから被写体のスターたちと「同じ地平」に立てると語った。

「顔を合わせればだいたいすぐにお互いを理解できる。それまで全く会ったことがなくても。相手も自分もミュージシャンだという事実に気づく」と、アダムスはCNNの取材に答えて言った。人物の撮影は「考えられる最高の光の中で」行うとも付け加えた。

撮影現場でポーズをとるアダムス(右)/Alessandro Scotti
撮影現場でポーズをとるアダムス(右)/Alessandro Scotti

40年に及ぶ自身のツアー経験を踏まえながら、アダムスは今回の旅を詳しく記録するつもりだ。インスピレーションに火が付く最初の瞬間から、最後のステージにたどり着くまで。撮影に当たり、全体的な創作の方向性は自分で定めるものの、レンズの向こうのスターたちが持つ才能とエネルギーも利用しているという。

「当然、できるのはカメラマンとしての仕事に限られる」と、アダムスは説明する。「ただ状況を設定するだけ。その先は、うまくいくかどうか被写体にかかっている。言っておきたいのは、人が気持ちを込めてくれれば、その分いい写真になるということだ」

「想い出のサマー」や「アイ・ドゥ・イット・フォー・ユー」といったヒット曲で最もよく知られるアダムスだが、その写真作品はロンドンにある現代美術専門の美術館、サーチ・ギャラリーなどに展示されたほか、ブリティッシュ・ボーグやハーパーズ・バザーといった雑誌に掲載されたこともある。自身の写真に関する書籍では、アフガニスタン戦争の元兵士やホームレスの露店商人などを写した作品を取り上げている。

身を横たえてポーズをとるカリ・ウチス/Alessandro Scotti
身を横たえてポーズをとるカリ・ウチス/Alessandro Scotti

「露骨なセクシーさはなし」

アダムスがピレリカレンダーの撮影を手掛けると発表したのは6月。ソーシャルメディアへの投稿で、プロジェクトに関われるのを「誇りに思う」と語っていた。昨年のカレンダー制作は新型コロナのパンデミック(世界的大流行)で中止となったが、22年版はロサンゼルスとイタリアのカプリ島で撮影された。期間は6月と7月のわずか3日間だった。

ロサンゼルスのパレスシアターと、著名人のたまり場であるシャトー・マーモントが、グライムスやノーマニの撮影場所となった。スウィーティーはカプリ島のホテル、ラ・スカリナテッラの広々としたテラスで、降り注ぐ太陽の光を浴びながら撮影に臨んだ。

1964年に初めて刊行されたピレリカレンダーは、女性の官能的な描写で有名だが、#MeToo(ミートゥー)運動の時代を経てからは変革の試みが続く。最近の作品では女性の地位向上に焦点を当てるほか、モデルの顔ぶれも一段と多様化している。

しかしアダムスは今回、また別の方向性を提示した。複数の男性を被写体に加えたのだ。

イギー・ポップは銀色の塗料を体に塗って撮影/Alessandro Scotti
イギー・ポップは銀色の塗料を体に塗って撮影/Alessandro Scotti

最も衝撃的な作品の一つは、イギー・ポップ(74)が全身に銀色の塗料を塗った姿でコンサート後のパーティーの様子を再現した写真だ。アダムスによるとイギー・ポップは「構想にばっちりはまり」、撮影クルーからスタンディングオベーションを受けた。撮影全体の雰囲気を決定づける現場になったという。一方、アジア系米国人のラッパー、ボーハン・フェニックスは感情を押し殺し、上半身裸でスポットライトの中に佇(たたず)んでいる。

ピレリカレンダーで男性を撮影したカメラマンはアダムスが初めてではないが(例えば故カール・ラガーフェルドは、ギリシャをテーマにした11年版カレンダーでモデルのバプティスト・ジャコミーニをほぼ裸のアポロに見立てて撮影した)、本人は「何人か男性を入れないのは怠慢というものだろう。平等に機会を与えるというやり方にそぐわない」と語っている。

椅子に腰かけるセイント・ヴィンセントの撮影風景/Alessandro Scotti
椅子に腰かけるセイント・ヴィンセントの撮影風景/Alessandro Scotti

「現実と向き合おう。我々男性も、女性と同程度に物として見られなくてはならなかった」。そう指摘しつつ、アダムスは「古い習慣に従い」、写真を通じて女性をセクシーに見せることはしないと言い切る。

むしろアダムスの写真は、「非常にセクシーでありながら、露骨なセクシーさを伴わない」表現を意図している。

「これこそが新しい世界だ」(アダムス)

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