OPINION

バイデン氏の不完全ながらも力強いメッセージ

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就任以来最も力強い演説で、アフガン撤退を擁護するメッセージを送ったバイデン氏/Brendan Smialowski/AFP/Getty Images

就任以来最も力強い演説で、アフガン撤退を擁護するメッセージを送ったバイデン氏/Brendan Smialowski/AFP/Getty Images

(CNN) 人気テレビシリーズ「ザ・ホワイトハウス」の生みの親として知られるアーロン・ソーキン氏はかつて、ホワイトハウスを世界で最も地の利の大きい場所と表現した。バイデン大統領は8月31日午後にこれを活用し、アフガニスタンからの米軍撤退という自らの決断の是非を明確に示さないよう努めた。オバマ元大統領ならそうした可能性があるが、代わりにバイデン氏は、レーガン元大統領を思わせる熱烈な確信と信念をもってこう宣言した。撤退は最良の選択肢であるのみならず、米国民の利益と合致する唯一の選択肢だったと。

アーロン・デービッド・ミラー氏
アーロン・デービッド・ミラー氏

実際のところ、バイデン氏の言葉が向けられる相手は同盟国でもなければ敵対国でもなく、アフガン人でさえなかった。それは米国人の一般層に向けられたものだった。ただ最新の世論調査によると、米国人はアフガニスタンを含む数多くの問題に関して、大統領への信頼を失っているようだが。

成功を疑わない大統領

就任から8カ月、バイデン氏はこれまで見せたことのない力強さと感情のこもった話しぶりで、アフガニスタンでの戦争に終止符を打つとの自身の決断を擁護した。前日には最後の米軍機が同国を飛び立っていた。演説の初めから終わりまで、声の調子を変えることはほとんどなく、声量を落とそうともしなかった。まるで自らの支配力と自信、信頼性を印象付けたがっているかのようだった。撤退のプロセスが大混乱の様相を呈する中、同氏を批判する人の多くがそうした特質の欠如を指摘していた。バイデン氏はこの問題で一歩も譲らず、もっと早くから退避を開始できたと主張する人々に反論を試みた。より長期間部隊を駐留させ、撤退期限を柔軟に設定することが可能だったとの意見も受け入れようとはしなかった。それどころか、退避活動を奇跡に近い作戦と形容し、歴史上いかなる国においてもこれほど大規模な空輸が行われたことはないとの認識を示した。

撤退のやり方に改善の余地があったと認めたがらない大統領

撤退の日程を定めたバイデン氏の決断は、ここまでの任期で最も大胆かつ危険なものだった。そしてある種の一般的な責任をすべてにおいて受け入れた一方、具体的な事象に関してはそれらの責任を一切認めなかった。

時折守勢に回ったり、いら立ったりした様子で撤退を擁護しながら、バイデン氏は責任を他のほぼ全員に転嫁しようとしていた。昨年カタールの首都ドーハで前任のトランプ政権とイスラム主義勢力タリバンが調印した和平合意に言及した際には、それを順守する以外選択肢がなかったと言わんばかりだった。またアフガン国防軍の対応も非難。バイデン氏は同軍の兵士の規模を誤って30万人と推計していたが、これは米国の監視機関さえ疑問視してきた数字だ。さらにアフガニスタンのガニ前大統領が国外へ脱出したことを批判し、信頼に値しないと断じるタリバンにも責任を負わせる意向を示した。矛先は批評家たちにも向いた。彼らは「質の低い」駐留を継続する真のコストを把握していないと、当然のように思い込んでいるからだ。

バイデン氏はアフガンと手を切る、アフガンはバイデン氏と手を切るのか?

バイデン氏が明確に望んでいたのは、大統領演説を通じて米国史上最長の戦争に区切りをつけることだった。やるべき仕事のリストに厄介な追跡調査が加えられるのも避けたかった。そういうものは国務省に任せる方が妥当だろう。

おそらく当然のことながら、バイデン氏はアフガニスタンにおいていまだ完了していない数多くの実務に言及した。残された米国人をどうするのか。危険な状態にあるアフガン人をどうするのか。タリバンにどう対処するのか。それから人道支援の問題もある。

逆説的ではあるが、バイデン氏からのより詳細なコメントを必要とし、かつまた批評家たちから最も手厳しく扱われることになるとみられる問題は、同氏自身が米国のアフガニスタンにおける唯一にして極めて重要な国益と位置付けるものだった。つまり、いかにして国土をテロ攻撃から守るのかという問題だ。

バイデン氏は改めて、視界の外にいる相手に向けた対テロ攻撃能力に言及。それを活用した先週末の空爆を称賛した。この作戦では、過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)の分派組織「ISIS―K」の攻撃立案者を標的としていた。また一般的な主張として、世界は変化しており、アフガニスタンだけがイスラム聖戦士の活動拠点ではないとも指摘した。こうした説明は満足のいくものではなかった。今後の米国によるアフガニスタンでの対テロ任務を考えればなおさらだ。現地に軍隊がいない状態での任務は、必ずしも不可能とは言えないにせよ、より困難なものになるのは避けられないだろう。

米国のための演説

もし米国の同盟国が謝罪や安心感を与える言葉を求めていたとしても、31日の演説の中にそれらを見出すことはなかったに違いない。バイデン氏は2~3度、親身になってアフガニスタンの国民に呼びかけ、引き続き危険な状況にあるアフガン人たちを支援すると約束した。人権について短く触れ、中国やロシアとの競争にも言及。テロリストに対しては容赦のない警告を発し、米国は忘れることも許すこともないと強調した。しかし、これは外交演説とは言えなかった。

実際のところは、米国人が自国の聴衆、とりわけ退役軍人に向けて行う演説の典型だった。ここでバイデン氏は最も雄弁に、感銘を与える言葉で情緒を込めながら、亡くなった息子のボー氏の兵役について語った。さらに退役軍人の自殺率の高さ、家族が抱える重圧や心労、そしてアフガニスタンで死傷した兵士らの数を取り上げた。こうした内容は、聴衆の共感を呼ぶだろう。批評家に対する痛烈な非難も同様だ。彼らは低質、低コスト、低リスクの派兵を求め、上記の犠牲や苦痛を考慮に入れることなどないのだから。

内容の不完全さにもかかわらず、バイデン氏の演説は力強く、感情に訴えるものだった。同氏は心の底から信じているのだ。米国の国益のため、米国民と軍務に服する人々のため、同国最長の戦争を終わらせる判断は「正当にして最も賢明、かつ最良の決断」だったと。

アーロン・デービッド・ミラー氏はカーネギー国際平和財団の上級フェローで、米国の大統領に関する著作がある。民主党と共和党の両政権で中東問題の協議に携わった。記事の内容はミラー氏個人の見解です。

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