ハイチ首都、路上の殺戮 期待された国際社会の介入進まず

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CNN記者の取材に応じるハイチの現地住民/CNN

CNN記者の取材に応じるハイチの現地住民/CNN

ポルトープランス(CNN) 1人の女性が、幼い我が子を待機中の車へと急がせる。子どもの目を手でふさぎながら。他の家族が重い荷物を持って後に続く。彼らもやはり目を背けている。家族は街を出ようとしているが、ギャングが支配する道路を使うのは危険が伴う。

理由は家の前の路上を見れば分かる。1体の燃やされた遺体がそこにある。近隣の住民に殺害されたギャングのメンバーのものとみられる。膝(ひざ)を曲げ、胴を前に傾けた姿勢は、まるで懇願しているようだ。黒く焦げたその肉体は、金属のワイヤーでぐるぐる巻きにされている。CNNがこのような遺体を目にするのは、この2日間で4体目だ。

丘を上がると、別の母親が幼児を抱いて離陸を待つヘリコプターへと急いでいる。目撃者の話によると、武装した警護の人々から急かされ、チャイルドシートは置いてきたらしい。正式な許可のないヘリコプターの着陸は注意を引いている。離陸の様子を捉えた映像には、機体が飛び立つ際に地上で争いが起きているのが映っている。

彼らは無秩序から逃げ出している。昨日まで、こうした人々は歯を食いしばり、ハイチの首都ポルトープランスが耐えがたい状況になるまで動かずにいた。今はそんな彼らでさえ、脱出を余儀なくされる。かつてない狂気をはらんだ恐怖が、カリブ海の島国を襲っている。

この3週間でハイチの首都がはまった血みどろの周期は、既に知られた誘拐やギャングの暴力を格段に上回る。反体制を掲げる重武装のギャング集団は街そのものに戦争を仕掛けている。新たな縄張りを求め、警察や国家機関を標的にする。恐怖と怒りに駆られた自警団のグループが、倒木と鎖で居住する地域を封鎖する。ギャングのメンバーと疑われる部外者は殺害し、遺体を燃やしている。他に自分たちを守る方法がないと、彼らは言う。

複数の遺体が路上に横たわっている。ギャングの問題を一変させると、かねて隣国が喧伝(けんでん)する多国籍の治安部隊はどこにも見当たらない。

ポルトープランスに散乱する焼け焦げた車両/Evelio Contreras/CNN
ポルトープランスに散乱する焼け焦げた車両/Evelio Contreras/CNN

警告に次ぐ警告

ハイチのアンリ首相は辞任を表明。カリブ共同体(CARICOM)が選挙実施に向けた移行評議会の設置を発表して10日が過ぎたが、まだ1人のメンバーも決まっていない。殺戮(さつりく)は連日続いている。

評議会のメンバー候補として名前が挙がるレスリー・ボルテール氏は21日、CNNの取材に答え、現状へのいら立ちを吐露。政治的手続きが長引く間もギャングが縄張りを広げているとした。

同氏は移行評議会が向こう24時間以内に立ち上がると自信を見せた。一方で次の段階はさらに時間がかかるとも明言。1週間以内に次期首相を指名し、その後国家安全保障会議が設置されるとの見通しを示した。

国内の港湾、空港の再開は最初の100日以内に実現する可能性があるとした。

ただ世界食糧計画によれば、現在ハイチの人口の半数近くは十分な食べ物を得られていない状況にある。

警察は予備の人員を要求

ハイチの国家のほとんどは崩壊している。裁判所はギャングが占拠し、刑務所は開放された。首相は事実上亡命中で、財務省が代理を務める。通信省の建物にはギャングの襲撃を逃れた避難民が殺到。フロントオフィスでは空腹の子どもたちが床に座ったり、キャスター付きの椅子を動かしたりしている。

ハイチで機能している国の機関は国家警察だけかもしれないが、彼らも装備が足りず、各地に人員を割かれ過ぎている。毎日ギャングの襲撃に対応しては、これを撃退する。街の全域で銃声が鳴り響く。翌日にはまた新たな地区へ駆けつけ、縄張りの獲得を主張するギャングたちと対峙(たいじ)する。

多くの警察官はCNNの取材に対し、必要な物がないために戦闘を続けられないと訴える。ハイチ国家警察労働組合の顧問を務めるギャリー・ジャンバティスト氏は「戦いは望むところだ。国を救うための覚悟はできている」「しかし我々には指揮系統が全くない。装備が集まらない。空と海上からの支援も必要だ」と述べた。

同氏の推計によれば、防弾ベストを着用している警察官は全体のわずか30~40%。警察官の平均月収は200ドル(約3万円)に満たないという。

政権が安定せず、上層部の士気も低い中では、多国籍の部隊の投入も失敗するのではないかと同氏は懸念する。

当該の部隊はケニヤが主導。同国の他にジャマイカ、ベナン、バハマ、バルバドス、チャドからの人員を含むと見込まれている。

国家警察としてこれらの支援部隊と協力する用意はあるが、現時点で具体的に彼らを受け入れる計画は明らかになっておらず、協力の枠組みも存在していないと、ジャンバティスト氏は打ち明ける。

ハイチによるギャングの撃退能力に不透明感が漂う中、前出のボルテール氏は、次期政権が民間警備会社の雇用を検討する可能性があると指摘した。

賞金稼ぎはギャングのリーダーを狙うことを検討するはずだと、同氏は付け加えた。

ハイチの首都ポルトープランスに転がる銃弾/Evelio Contreras/CNN
ハイチの首都ポルトープランスに転がる銃弾/Evelio Contreras/CNN

物議を醸す解決策

外国の軍隊の加入はハイチにとってギャングの支配を打破する最良の機会かもしれないが、これらの軍隊を国内に入れることには政治的緊張が伴う。

「我々をこんな状況にしたのは国際社会だ。200年以上、彼らは我々に自力で生きる機会を与えなかった」。ある男性はCNNの取材に答えてそう語った。男性はバイクに座り、路上の焼け焦げた遺体のそばを車が通り過ぎていくのを眺めていた。

その上で、今もハイチ人のことを決めているのはCARICOMだとの見方を示した。

ポルトープランスの裕福な地区の通りで果物を売る69歳の女性はCNNの取材に対し、米国がもっと支援するべきだとの考えを述べた。多くの人が殺害され、路上で遺体を回収しなくてはならなくなっている現状に触れ、「私たちは神が米国人に語りかけ、助けを求めてくれるのを祈るべき」と話した。

これまでのところ、米国のハイチでの活動は、自国の民間人を空路で避難させることに集中している。避難の取り組みは20日に始まったばかりだ。

一方ポルトープランス上空は、民間の運営するヘリコプターが頻繁に飛行し、外交官や有力な人脈を持つ人々を脱出させている。

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