「罪悪感のない」長距離フライト実現へ、脱炭素化に向けた航空業界の取り組みは

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水素を動力とする燃料電池エンジンを搭載した「エアバスZEROe」のコンセプト図/Courtesy Airbus

水素を動力とする燃料電池エンジンを搭載した「エアバスZEROe」のコンセプト図/Courtesy Airbus

水素への期待

SAFを航空機の動力源として使用した場合でも、通常のジェット燃料と同様にCO2は排出される。飛行中の排出量をゼロにする場合、現時点で最も有望な技術は水素のようだ。水素はクリーンな燃料で、ジェット機の排ガスによる汚染を減らすことができるが、まだ完全に気候に優しいわけではないという。

「現実的に、30年代半ばには小型の水素航空機が導入される可能性はある」と英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のアンドレアス・シェーファー教授(エネルギー・交通学)は話す。「だが、大型機の導入は40年以降まで待つ必要がある」

世界中のさまざまな企業が、現在の航空機に水素燃料電池技術を導入しようと取り組んでおり、予想よりも早く空に飛び立つ水素航空機が登場する可能性もある。例えば、英クランフィールド・エアロスペースは24年に水素航空機に改造した単葉機「ブリテンノーマン・アイランダー」のテスト飛行を行う計画だ。

「燃料電池に水素タンクが搭載され、水素を電気に変換して電気モーターを駆動する」とシェーファー氏は説明した。

だが、長距離路線の場合、航空機の設計を完全に見直す必要があるという。「タンク技術の大幅な進歩が必要」と同氏は指摘。「現在、ジェット燃料のほとんどは翼の中に格納されている。だが、液化水素はマイナス253度と非常に冷たいため、熱損失と蒸発を最小限に抑えるには、表面積が非常に小さな貯蔵タンクが必要になる。翼は表面積が膨大なため、圧力の上昇によって翼全体が爆発してしまう」

つまりタンクは胴体内に搭載する必要があるため、技術的な課題が生じる。だがこの問題が解決されれば、水素は利益をもたらすと専門家らは指摘する。

「水素は大型機で使用すれば際立つ」とチナー氏。「水素の質量はとても軽いが、多くのスペースがいる。だからこそ十分なスペースを確保した新たな航空機の設計を検討する必要がある。設計は非常にわくわくする時間となるだろう。大きな水素タンクが必要となるため、現在の航空機とは異なる外観になり得るからだ」

エアバスは、水素による推進力の開発とテストにとりわけ積極的に取り組んでいる。同社の広報担当者はCNNに対し、「当社の目標は35年までに水素を燃料とした航空機を商用化させることだ」と語った。「中期的には、水素には航空機が気候に与える影響を大幅に軽減できる可能性があると考えている」

エアバスは20年、最大200人の乗客を運べる従来型の航空機や、翼と胴体を一体化させた「ブレンデッドウィング」型など、水素を動力源とするコンセプト航空機をいくつか発表。この翼胴一体型は、カリフォルニア州拠点のスタートアップ(新興企業)、ジェットゼロをはじめとする他の企業でも開発中だ。ジェットゼロは、30年までに翼胴一体型の航空機を商用化させるという野心的な目標を掲げている。エンジニアらは、この革新的な形状によって燃料の消費量と排出量を50%削減できるとしている。

一方、ボーイングは水素航空機による長距離飛行の実用化が目前に迫っているとは考えていない。同社のフォーセット氏は「当社は米航空宇宙局(NASA)の宇宙発射システム(SLS)のメインタンクを製造しており、水素に関しては豊富な経験がある」とコメント。「だが、民間航空機用の水素タンクを製造して認証するのに課題がないわけではない。水素は多くのスペースが必要で、閉じ込めたり移動させたりすることは困難だ。中・長距離フライトでは、40年までは水素が直接の動力源になるとは思ない。現実的には恐らく50年以降になるだろう」

水素航空機の排出量は、飛行中はゼロだが、それは一面的なものにすぎない。「水素を使用している時は、炭素という観点から見た時に排出量は厳密に言えばゼロだ。だが地球全体から見た時に、その製造による環境への影響が重要であることを心に留めておくことは重要だ」とクリクロー氏は述べている。現在生産されている水素の大半は化石燃料から作られており、水素の貯蔵施設や航空機に水素を供給するためのインフラなどは、まだ建設も運用もされていない。

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