従業員のコミュニケーション、AIで監視? 米企業

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AIツールに利用により、職場での従業員の監視は高度化している/Klaus Vedfelt/Digital Vision/Getty Images

AIツールに利用により、職場での従業員の監視は高度化している/Klaus Vedfelt/Digital Vision/Getty Images

(CNN) 先ごろ、ウォルマート、スターバックス、デルタ航空、シェブロンなどの大手企業が、人工知能(AI)を利用して従業員のコミュニケーションを監視しているとニュースで報道された。これに対するネット上の反応は素早く、従業員や職場の擁護者からはプライバシーの喪失を懸念する声が上がった。

だが専門家によると、AIツールは新しいかもしれないが、従業員の会話を監視したり、読み取ったり、追跡したりすることは目新しいものではないという。こうした監視行為において、AIはより効率的である可能性がある。AIテクノロジーにより新たに倫理的および法的な課題が生じたり、従業員が疎外されるリスクが生じたりするかもしれないが、実際のところ、職場での会話は決してプライベートなものではない。

米調査会社フォレスター・リサーチの主席アナリスト、デビッド・ジョンソン氏は「従業員のコミュニケーションを監視することは今に始まったことではないが、AIの進歩に伴い、分析の高度化は進んでいる」と述べた。

「このような方法での監視が、さまざまな状況下で従業員の行動や士気にどのような影響を与えるのか、また、職場で許容できる使用範囲に関するポリシーや境界についての業界の理解も進んでいる」(ジョンソン氏)

AIを活用して従業員エンゲージメント調査のフィルタリングを行う米クアルトリクスが行った最近の調査では、管理職はAIソフトウェアに楽観的な姿勢を示しているが、従業員は不安に感じていることが判明。従業員の46%は職場でAIが使用されることが「恐怖」と回答している。

ジョンソン氏は、従業員の監視にAIを活用する未来は「避けられない」としながらも、「信頼は一瞬にして失われ、取り戻すには時間がかかるものだ。よって早い段階でこのテクノロジーを適用して失敗した場合、従業員の信頼を取り戻すには長い時間がかかる」と指摘した。

AIはどう活用されるのか

スラック、ズーム、マイクロソフトのチームズ、メタのワークプレイスなどの一般的な業務関連ソフトウェアにAIを導入している企業の一つが、創業7年の新興企業アウェアだ。

アウェアはスターバックスやシェブロン、ウォルマートなどの企業と協業。同社の製品はいじめや嫌がらせから、サイバー攻撃、インサイダー取引に至るまで、あらゆるものを検出することを目的としているという。

データは、テクノロジーがハイライトするように要求された事例を検出するまでは匿名のままだ。 問題があった場合は、人事、IT、法務部門に報告され、さらなる調査が行われる。

シェブロンの広報担当者はCNNに対し、従業員が近況報告やコメントを投稿できる社内プラットフォーム、ワークプレイス上のパブリックコメントややり取りの監視にアウェアを活用していると述べた。

一方、スターバックスの広報担当者は、社内のソーシャルプラットフォームのトレンドやフィードバックを監視し、従業員の体験を向上させるためにアウェアのテクノロジーを使用していると説明した。

ウォルマートはCNNに対し、オンライン社内コミュニティーを脅威やその他の不適切な行為から守るため、また従業員のトレンドを追跡するためにアウェアを使用していると語った。

デルタ航空は、社内のソーシャルプラットフォームの節度を保つほか、トレンドや感情の日常的な監視、法的目的での記録保存のためにアウェアを利用していると述べた。

こうしたAIサービスを提供するのはアウェアのみではない。米サイバーセキュリティー企業のプルーフポイントは、同様のテクノロジーを駆使し、フィッシング詐欺の受信や、従業員が個人電子メールアカウントに機密データをダウンロードして送信しているかどうかなど、サイバーリスクの監視を行っている。

多くのフォーチュン100企業で使用されているプルーフポイントは最近、生成AIの「チャットGPT」のようなAIツールの使用が会社のポリシーに反する場合、社内システム上での使用を制限する新しい機能を導入した。これにより、従業員が会社の機密データをAIモデルに入力することを未然に防ぐことができる。AIは収集した機密データを、後に別のユーザーに回答する可能性があるのだ。

それでも、職場にAIを導入することで、従業員は監視されていると感じる懸念が生じるという。

米調査会社ABIリサーチのシニアアナリスト、リース・ヘイデン氏は、一部の従業員が「ビッグブラザー(監視社会)効果」を感じてしまうのは当然だと述べた。

「AIの導入は、マイクロソフトのチームズのような社内メッセージサービスを介して同僚にメッセージを送ったり、率直に話したりする意欲に影響を与える可能性がある」(ヘイデン氏)

古いやり方に新たな手法

ソーシャルメディアプラットフォームも、以前から似たような手法を使用してきた。たとえば、メタはコンテンツ監視チームと関連テクノロジーを用いて、プラットフォーム上の不正行為や行動を管理している。(同社は最近、特に児童の性的虐待に関連した不適切なコンテンツへの対策が不十分だったとの申し立てを受け、激しく批判されている)

同時に、電子メールの黎明(れいめい)期から従業員の行動は業務システム上で監視されてきた。従業員が安全な社内ネットワーク上にいない場合でも、企業はブラウザーを通じて行動を監視できる。 (ただしアウェアの場合、機能するのは社内通信サービスでのみで、ブラウザーでは動作しない)

ヘイデン氏は「従業員のパターンを理解しようとすることは新しい概念ではない」と述べたうえで、企業はログオンした時間や会議への出席状況などを追跡していると指摘した。

だが、このプロセスで変化しつつあるのは、より高度なAIツールを従業員のワークフローに直接適用していることだ。AIソフトウェアの使用によって、企業は何千ものデータポイントやキーワードを即座に分析し、トレンドや従業員がリアルタイムで話し合っている内容を洞察できるようになる。

ヘイデン氏は、企業が従業員の会話を追跡する理由について、従業員の週末の予定や夢中で視聴している最新のネットフリックス作品が気になるからではなく、「従業員に関するより詳細なリアルタイムの洞察が得られるからだ」と述べている。

また同氏は、会話の追跡を行うことで、企業はソフトウェアが従業員について学習した内容に基づき、社内メッセージ、ポリシー、戦略をより適切に形成できると言い添えた。

信頼の要素

職場におけるAIの台頭は、正確性や関連性に関する問題に加え、法的および倫理的な課題が生じる可能性があるが、フォレスター・リサーチのジョンソン氏は、今後の最大の課題は、短期的にも長期的にも従業員の信頼を得ることだと考えている。

つまり、人は監視されていると感じたくないのだ。

ジョンソン氏は、企業はAIテクノロジーの導入については注意する必要があると述べている。従業員の生産性を判断するためにテクノロジーを利用した場合や、従業員が不満に感じ、その後に懲戒処分や解雇となった場合、従業員が再び企業を信頼するようになるまでには何年もかかる可能性がある。

このテクノロジーを使用するにあたっては、「慎重に検討することが非常に重要だ」とジョンソン氏は指摘している。

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