USスチール、日本企業に身売りで合意 かつては世界最大の企業

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USスチールのグラニットシティー工場/U.S. Steel

USスチールのグラニットシティー工場/U.S. Steel

ニューヨーク(CNN) 米鉄鋼大手USスチールは日本の鉄鋼最大手、日本製鉄による買収に合意した。買収額は141億ドル(約2兆円)。

122年の歴史を誇り、かつて世界最大の企業だった同社の凋落(ちょうらく)の最も大きな一歩となった。大規模なコングロマリット(複合企業)として最初に登場した会社の一つであり、米国の産業力の象徴でもあった。

だが、近年では米国内でも鉄鋼最大手の地位をニューコアに譲っていた。

USスチールのデービッド・ブリット最高経営責任者(CEO)は18日に投資家に対し、「我々はこの組み合わせが全員にとって真に最良だと自信を持っている」「今日の発表は米国にも利益をもたらす。世界での我々の存在感を高めつつ、競争的な国内の鉄鋼業を確保する」と述べた。

合意条項によると、USスチールの名称は維持され、本社も東部ペンシルベニア州ピッツバーグにとどまる。ただ、買収への反発が起きる可能性はくすぶっている。

全米鉄鋼労組(USW)は今夏、別の米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスからの買収案のみ支持すると発表。この案は現金と株式による買収の提案で、1株当たりの評価額は32.53ドルと日本製鉄の全額現金による買収案より40%低かった。USスチールの取締役会はこの提案を拒み、別の案の検討に進んだ。

USWは18日、日本製鉄による買収案に反発を示した。

USWのマッコール会長は「発表された取引に我々が失望しているという表現では言い足りない。それがUSスチールをあまりに長い間導いてきた、同じようにどん欲で、目先のことしか考えない態度を示しているからだ」「我々はこの象徴的な米国企業が国内で所有され操業され続けるようにUSスチールと協力するプロセスで、開かれた姿勢を維持してきた。だが、同社は献身的な労働者の懸念を脇に置いて、外国所有の企業に売却することを選んだ」と述べた。

USWは「規制当局に対し、この買収を慎重に精査して、本提案が米国の国家安全保障上の利益にかない、労働者に資するものかを見極めることを強く要請する」と述べ、この取引を阻止したいとの姿勢を明確にした。

ラストベルト(さびついた工業地帯)の州から選出された共和党や民主党の上院議員の一部からも、外国企業による買収に反対の声が上がっている。

USスチールは声明で、日本製鉄はこれまで労働現場の安全面で強みがあり、組合と協力してきた実績があると言及。すべての組合の契約はそのまま残り、関係を維持すると日本製鉄が約束していると述べた。

USスチールは1901年、銀行家のJ・P・モルガンとチャールズ・シュワブがアンドリュー・カーネギーの所有した鉄鋼会社を買収し、ライバルのフェデラル・スチールと合併させたことで誕生した。新会社は時価総額で当時の米国家予算の2倍、世界初の10億ドル超の企業となった。カーネギーはこの取引で世界一の富豪となった。

20世紀前半は、同社の鉄鋼生産が米国を世界の経済超大国に押し上げるのに一役買った。鉄鋼は超高層ビルや橋、ダムだけでなく、自動車や家電など米国の消費者が渇望する様々な製品に使われた。

USスチールの支配力は圧倒的で、その競争力の強さが反トラスト法を生み出すきっかけともなった。同社や石油大手スタンダード・オイルの戦略、金融上の力を抑える目的で法案が議会を通過した。USスチールという社名はサイズの大きさや産業力の代名詞として、映画や野球といったポップカルチャーの会話にまで浸透した。

衰退の数十年

USスチールは近年、生産量でも時価総額でも他の米鉄鋼大手に大きく水をあけらた。

また、米国の鉄鋼業自体が抜け殻のような状態で、世界の鉄鋼トップ10に米国企業が一社も入っていない。

長年鉄鋼業を分析するチャールズ・ブラッドフォード氏は、買収提案の始まった今年8月、「同社のピークは1916年だった」「それ以降は下り坂で、生産のピークは70年代だった。何十年も何もしてこなかった」と指摘した。

ピッツバーグの地元紙はUSスチール創立100周年を伝える2001年の記事で、同社の従業員数は1943年の34万人がピークで、第2次世界大戦の連合国の戦いで重要な役割を担ったと記述。生産のピークは53年の3580万トンで、当時欧州や日本の鉄鋼メーカーは回復の途上にあったとも記した。

そして昨年、USスチールが米国事業から出荷した鉄鋼は1120万トン、従業員は1万5000人弱となっている。

ピークを過ぎてからは、国内外を問わず新興の競合企業に後れを取り始めた。まずは、戦後ゼロからの再建に迫られ、はるかに少ない労働力とエネルギーで済む新技術を採用した日本やドイツの競合に追い抜かれた。

古い技術を利用

「USスチールにあるのは1940年代の技術だ」(ブラッドフォード氏)

USスチールなどの鉄鋼メーカーは重い腰を上げて外国のライバルに追従し、工場や設備の更新を進めた。それでも、鉄鉱石などを高炉で溶かして鉄鋼を生産する従来の技術を主に使っていた。

こうした高炉を使う鉄鋼メーカーはすぐに、より効率的な電炉で自動車やその他製品の鉄くずを新しい鉄鋼製品に変える「ミニミル」と呼ばれるライバルに後れを取ることになった。

鉄鋼業自体も、生産工程で出る二酸化炭素の排出量の抑制を各国の規制当局から迫られる状況にある。鉄鋼生産には大量のエネルギーが必要で、二酸化炭素の排出量も大きい。

ミニミル技術のパイオニアの一社であるニューコアの時価総額は、今回の買収額140億ドルよりはるかに大きい425億ドル。同社は生産量でも米国最大の年間2060万トン(推定)で、世界で16位に入る。

一方、世界鉄鋼協会によれば、USスチールは欧州事業を含めても1449万トン、世界27位にとどまる。USスチールが最初の電炉を始めたのは2020年だった。

同社は1991年、90年間守ってきたダウ工業株30種平均の対象から外れ、代わりにウォルト・ディズニーやJPモルガンが指標入りした。これは米国の経済が製造業から情報や金融業にシフトしたことを示すものだった。

日本製鉄の全額現金による買収はUSスチール株の15日終値より4割上乗せする提案となった。USスチール株は18日午前に27%上昇した一方、日本製鉄株は同日、1%下落した。

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