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ウクライナにとって最悪の1週間、原因は米国と欧州

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米国を訪問したウクライナのゼレンスキー大統領/Yuri Gripas/UPI/Shutterstock

米国を訪問したウクライナのゼレンスキー大統領/Yuri Gripas/UPI/Shutterstock

(CNN) ウクライナは「溺れているのに、手を振っていると勘違いされる」問題を抱えつつある。戦況がどれほどひどいのか明言できずに苦労している。

戦況が劣勢に向かっていると率直に公言すれば、結果として士気の低下や支援の先細りを招きかねないため、得策とは言えない。オバマ大統領(当時)がアフガニスタンに増派した際には、戦争の行方について現実主義が欠如していたこともあり、年を追うごとに世論の支持が低下した。

ウクライナが自分たちの置かれている状況をここまで上手く伝えられないのは、同盟国の視野の狭さが主な原因だ。

米下院議会の一部で見られる理解の欠如は驚くべきものだ。ある下院議員は先週、ウクライナは具体的な金額と明確かつ簡潔な目標を提示するべきだと発言した。米国は20年間で2度も自ら戦争を招き、数兆ドルをも費やしたというのに、議会の物忘れの激しさと理解力の乏しさには唖然(あぜん)とする。

代わりにウクライナ政府は、ここまでの戦果と今後の目標を強調する。昨年ロシアに奪われた領地の約半分を奪還し、黒海のロシア軍に戦略的ダメージを負わせた。詳細は明かせないものの、2024年に向けた計画も練っているとゼレンスキー大統領は発言した。

だが実際、ウクライナ政府にとって、最も有効な見出しは、前線が筆舌に尽くしがたいほど厳しい状況だというものだ。どこを見てもほぼ暗鬱(あんうつ)な知らせばかりだ。ロシア軍は東部の都市アウジーイウカの一部に集結し、わずかな重要性しかないにもかかわらず、ロシア政府は大量の兵士を送り込んで満足しているようだ。反転攻勢の中心だったザポリージャの前線では結局、遅々として戦果を挙げることができず、ロシア軍が盛り返し、ウクライナ側に多くの犠牲が出ている。ウクライナは血気盛んに(あるいは無鉄砲に)ドニプロ川を渡り、わずかながらロシア側の戦線に進入した。だが人的代償は大きく、補給線に問題を抱え、見通しは暗い。

現在首都キーウは毎晩のように巡航ミサイルの攻撃を浴びている。ウクライナ政府当局によれば、大半は防空システムで迎撃しているという。このまま守り切ることができれば、インフラも無傷な状態で春を迎えられるかもしれない。だがバイデン政権によれば、米国の財政支援が枯渇すれば、真っ先に影響が出るのはおそらく防空システムだろう。

ゼレンスキー大統領にとってはさんざんな1週間だった。大統領一行は欧州連合(EU)加盟交渉という象徴的勝利を声高に叫び、ゼレンスキー氏も「飽くことなく自由のために戦う人々が歴史を作った」証しだと述べた。だが、実際にEUに加盟するには戦争を終わらせなければならない。それもウクライナが国家として存続した形でだ。今のところ、どちらも実現する確証はない。

むしろゼレンスキー大統領は、4日間で2度直面した緊急支援の危機にも強気の姿勢を見せなければならない状況だ。EUではハンガリーが550億ドル(約7兆8000億円)の対ウクライナ支援に拒否権を発動すると決定した。これに対してEU当局は、1月上旬には全会一致で賛成票が得られるとの見通しを示す。だが、戦争犯罪の容疑で逮捕状が出ているロシアのプーチン大統領を手放しで歓迎する右派ポピュリスト、ハンガリーのオルバン首相が欧州の不和のきっかけを作った。西側の結束がここまで持ちこたえたこと自体が意外だった。欧州各地で行われる選挙やその先に待ち受ける動揺次第では、戦争の終結方法を巡って外交努力や答えを求める声はますます高まるだろう。

ゼレンスキー大統領のワシントン訪問と胸を打つアピールはどちらも失敗に終わった。年明けに米政府が支援再開にこぎつけられたとしても、すでにウクライナは痛手を負った。欧州の北大西洋条約機構(NATO)同盟国を1940年代以来最悪な地上戦に引きずり込ませないために必要不可欠な支援は、戦場での失速と政治情勢により党派的な駆け引きのコマにされてしまった。

米下院の議論で争点となっているのは、対ウクライナ戦争政策や、ウクライナ政府の実効性、反転攻勢が失敗した理由ではない。それよりもはるかに軽薄だ。米国内の国境政策との交換条件にされ、その上ウクライナには今後の戦況を予測しろと理不尽な要求を突きつけている。米外交政策の失態に、開いた口がふさがらない。その余波はこの先数十年に渡って影響を及ぼすだろう。1枚の紙きれを手にナチスとの交渉は可能だと主張した英国のネビル・チェンバイン首相以来、これほど多くのことが危機に瀕している。

ウクライナにとって厳しい軍事状況は、米議会がウクライナ支援に待ったをかける前から始まっていた。来る冬の戦いに専念している人々の胸には、この先に待ち構える障害、NATOの支援なしでウクライナがロシアと対立する可能性が大きくのしかかっている。

「支援がなければ我々は終わりだ」とは、14日に取材したウクライナの衛生兵の言葉だ。何カ月も兵士を手当てして戦場に送り出し、夏には仲間の1人を失ったという。他の兵士はなんとか平静を保ちながら、他に選択肢はないのだから戦い続けると繰り返す。だが間違いなく、米国やEUからの財政支援がなければ、あるいはどちらか片方が脱落すれば、今後2年でウクライナの大半がロシアの占領下に入るだろう。

そうなれば、好戦的で、たっぷり充電され、復讐(ふくしゅう)に飢えたロシア軍は勢いに乗り、NATOとの国境に迫ってくるだろう。そうなれば即、米国の問題だ。なぜか。共同防衛というNATO協定の外では、端的に現実レベルでみれば、欧州で安全かつ自由を謳歌(おうか)する民主主義国とは、すなわち米国の主要貿易国だからだ。米国の世界的影響力の基盤もここにある。

ゼレンスキー大統領は、政治的に分断して無知な米国で、支援者を目の前にしながらも、状況がそれほど悪くないふりをしなければならない。ウクライナが苦境に立たされていると認めれば、負け犬に資金援助をする理由はないという主張を助長する。ウクライナが優勢だと言えば、なぜ追加支援が必要なのかと問われてしまう。膠着(こうちゃく)状態だと言えば、戦争勃発から2年が経過したわりにはそれほど悪くはないと言われるのは確実だ。

共和党少数派の中には、つねにロシアが勝利するのだから、支援を継続してウクライナ人が殺されるのを先延ばしにする必要ないだろうと言い張る者もいる。ウクライナにノーを突きつけようとする人々に口実は要らない。だがそれは、より重苦しい問いを先延ばしにしているに過ぎない。最終的にロシア政府にノーを突きつけるのはいつなのか。いったいどれほどのウクライナ領、おそらくその先には欧州の隣国を、プーチン氏にみすみす占領させ、破壊させるつもりなのか。耳にタコができるほど聞かされた問いではないか。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。

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