豪ブリスベン(CNN) X(旧ツイッター)のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)とオーストラリア政府は、今月初めにシドニーの教会で16歳の少年が司教を刺したとされる瞬間を映した動画をXが公開する権利をめぐり、オンライン上と連邦裁判所で数日間にわたり対立している。
オーストラリア当局は、この動画は襲撃後に教会の外で発生した暴動を助長したものであり、潜在的な犯罪者を過激化させる可能性のあるグローバルなプラットフォームで一般公開されるべきではないとしている。
当局はSNS大手各社にこの動画を削除するよう命じた。
当局によると大半はこれに応じたが、Xは十分な措置を取らなかった。
オーストラリアはXに対し、VPN(仮想プライベートネットワーク)を利用することで現地の禁止措置を回避できる可能性があることから、オーストラリアのユーザーに対し動画を非表示にするだけでなく、完全に削除するよう求めている。
Xはこれを言論の自由に対する攻撃だと反論している。
マスク氏はXに、オーストラリア当局が要求しているように、どの国でもすべての国のコンテンツを検閲することが許されるのであれば、どこかの国がインターネット全体をコントロールするのを阻止するにはどうすればよいのか懸念していると投稿した。
オーストラリアのアルバニージー首相は23日、マスク氏を「自身のことを法律や良識よりも上であると考える傲慢(ごうまん)な億万長者」と非難した。
見る権利
襲撃事件から1週間以上が経過した24日、問題の動画はオーストラリア・ユダヤ人協会(AJA)のXアカウントでまだ閲覧可能だった。デビッド・アドラー会長はCNNに対し、Xからもオーストラリア当局からも削除は求められていないと語った。
アドラー会長によると、AJAはXから電子メールを受け取った。メールには、動画がオーストラリアの法律に違反しているため、オーストラリア当局から同社に削除要請の連絡があったことが書かれていた。
CNNが確認したメールの中でXは「我々は、あなたがこの要請を評価する機会を持ち、適宜、自身の利益を守るために適切な行動を取ることを望む」と述べている。
AJAが動画を削除しないのは、アドラー氏がこの動画を人々に見てもらうことが重要だと考えているからだ。
同氏は、「安全の問題はユダヤ人社会にとって重大な関心事だからだ。政治家たちは過激主義のリスクを十分に真剣に受け止めていない。そして、何が起こったかを正確に示すことの利点の一つは、市民が(こうした問題に)気付くことだ。政治家は世論の圧力なしには動かないことが多い」と述べた。
当局はCNNに対し、投稿者にコンテンツの削除を強制する権限はないが、コミュニティーへの害を最小限に抑えるため「現実的かつ合理的なあらゆること」を行うようプラットフォームに求めていると語った。
マスク氏対オーストラリア
マスク氏が動画の削除を拒否したことで、オーストラリア当局はXに対し、措置を講じなければ1日につき最高78万2500豪ドル(約8000万円)の罰金を科すという法的措置を取った。
Xの弁護士は24日、Xはその立場を変えておらず、オーストラリア当局の「過剰管轄」に対し戦うつもりであることを明らかにした。
マスク氏とオーストラリア政府との戦いは、同氏が言論の自由を制限していると非難する当局に対して繰り広げている数多くの戦いの一つだ。
マスク氏は2022年にXを買収して以来、コンテンツ管理を撤廃し、以前にブロックされたアカウントを復活させ、忠実なフォロワーから強い支持を得ている。
オーストラリア当局は24日、動画の削除要請は教会襲撃事件についての議論を抑えるためのものではないと述べた。「Xに対する削除要請は、この事件に関するコメント、公開された議論、その他の投稿には関係しない。それらが極端な暴力コンテンツに関連しているとしてもだ。削除要請の対象は、今回の暴力的な刃物襲撃事件の動画だけだ」
マスク氏の支持者らはオーストラリアにおける同氏の姿勢を称賛し、マスク氏に批判的な人々を非難している。
裁判所は、5月10日の出廷日までXにこの動画を非表示にするよう求める差し止め命令を下した。