「三体」ドラマ化を夢見た起業家の毒殺、元ビジネスパートナーに死刑判決

中国のSF超大作「三体」を巡る確執で毒殺されたというゲーム会社トップの林奇氏/Visual China Group/VCG via Getty Images

2024.04.04 Thu posted at 18:20 JST

香港(CNN) 中国のSF小説「三体」の大ファンだった若手起業家の林奇(リンチー)氏は、この作品の映画化やテレビドラマ化を果たし、「スター・ウォーズ」のような世界的ブームを巻き起こす構想を描いていた。

2014年、自らが創業したゲーム会社の上場を果たして多額の資産を手にした林氏は、この夢の実現に乗り出した。

それから10年。林氏の夢がかなおうとしている。ネットフリックスでドラマ化された三体は、世界中で何百万もの視聴者を夢中にさせた。しかし、林氏がそれを見ることはなかった。

三体の冒頭でエグゼクティブプロデューサーとして紹介される林氏は、中国当局によれば、39歳の若さで毒殺された。20年、ネットフリックスがドラマ制作を発表した数カ月後だった。

毒殺に関与したとされる許垚(シューヤオ)被告は、林氏側が三体をドラマ化する権利を獲得する際に貢献した弁護士だった。

上司の林氏と不仲になった許被告は、ブロバイオティックと称する錠剤入りのボトルを林氏に贈った。錠剤には、闇サイトで入手した致死性の毒物が仕込まれていた。

殺人罪で起訴された許被告は3月22日、上海の裁判所で死刑を言い渡された。三体がネットフリックスで待望のデビューを果たした翌日だった。

計画的殺人

20年のある冬の晩、林氏は上海で、自身が創業したゲーム会社、遊族網絡の本社から車で帰宅する途中に突然気分が悪くなった。自分で病院へ行き、一時は回復して容体は安定したが、10日後のクリスマスの日に亡くなった。

中国の金融誌が関係者の話として伝えたところによると、林氏の体内からは、水銀や、フグに含まれる猛毒のテトロドトキシンなど、少なくとも5種類の毒物が検出された。

警察は許被告を容疑者と特定して身柄を拘束した。

ネットフリックスでドラマ化された「三体」の一場面

上海裁判所の判決によると、許被告は「会社の経営問題」をめぐって林氏との不和が生じ、毒殺を計画した。さらに、幹部2人のオフィスでも飲料に毒を仕込み、同僚4人が体調を崩した(4人とも命はとりとめた)。

その後の数カ月で中国のメディアは、何月もかけて計画された、背筋が凍るような事件の真相を浮かび上がらせた。

許被告は米国のテレビドラマ「ブレイキング・バッド」(末期がんと診断された化学教師が麻薬製造ビジネスに乗り出すというストーリー)の大ファンだった。

許被告は160の携帯電話番号を入手し、日本に貿易会社を設立して有害化学物質を入手した。林氏の殺害に使った毒物もこの中に含まれていた。

20年9月から12月にかけ、許被告は幹部2人のオフィスにあるコーヒーカプセルやウイスキー、ペットボトルの水などの中身を入れ替え、急性毒物の塩化メチル水銀を注入したとされる。

社内の情報筋を引用して中国メディアが報じたところによれば、林氏の殺害は三体のドラマ化を実現したいという同氏の野望に関係していた。

林氏は17年、ドラマ化の著作権を手に入れるため、著名弁護士だった許被告を引き入れ、許被告は著作権の獲得に成功。許被告は三体のプロジェクトを手掛ける遊族網絡の子会社のトップに就任した。

しかし許被告の実績に不満を持った林氏は間もなく許被告を退け、プロジェクトは別の幹部に引き継がれた。この幹部は後に、許被告が水銀を混入した飲料を飲まされていると、中国メディアは伝える。

許被告の給与は大幅に減額されたという。ネットフリックスが20年9月に三体のドラマ化を発表した際に、エグゼクティブプロデューサーとして林氏とこの幹部の名が紹介される一方で、許被告の名はどこにもなかった。

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