北朝鮮、観光客の受け入れ再開 ロシア人が見た「隠者の王国」は

北朝鮮が新型コロナウイルスの流行後初めて、外国人観光客の受け入れを再開した/Carl Court/Getty Images

2024.03.10 Sun posted at 13:57 JST

(CNN) レナ・ビチコワさんは、北朝鮮の観光ビザ(査証)が発給された時に信じられなかったという。

多くのロシア人が観光地への入国を拒否されている中、ロシアと重要な同盟関係にある北朝鮮は、旅行という貴重な機会をロシア人に提供した。

北朝鮮は2月、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降初めて、外国人観光客の受け入れを再開した。ビチコワさんは、北朝鮮への旅行を許可されたロシア人約100人のうちの一人だ。

北朝鮮の観光は厳しく管理されている。個人での入国は許可されておらず、団体旅行にはガイドが同行する。観光収入は金正恩(キムジョンウン)政権の運営に使われる。

「隠者の王国」と呼ばれる北朝鮮への旅行には重大な危険が伴う。米大学生だったオットー・ワームビアさんは2016年、北朝鮮を旅行中にプロパガンダポスターを盗んだ容疑で拘束された。約1年半後に昏睡(こんすい)状態で米国に帰国したが、まもなく死亡した。

世界で最もまれなスキー旅行

ビチコワさんを含むツアー客は、ウラジオストクから北朝鮮国営の高麗航空に搭乗し、2月9日に平壌に到着した。

ビチコワさんは、今回の旅行について不安を感じていたと認めているが、好奇心が勝ったという。また、ほとんど観光客が訪れる機会のない北朝鮮を訪問するチャンスを逃すわけにはいかなかったと語っている。

同じくツアーに参加した旅行ブロガーのイリヤ・ボスクレセンスキーさんも同様に緊張していた。自身がコンテンツクリエーターであることは明かさず、アルバイトのビンテージ食器販売を職業として挙げた。不安はあったものの、旅行に参加した理由の一つは、現代の北朝鮮が家族から聞いていたソビエト連邦に匹敵するかどうかを知りたかったからだ。

「北朝鮮を見ると、祖父母がここに住む人たちと同じような暮らしをしていたことがうかがえる」とボスクレセンスキーさんはCNNに語った。「過去へのテレポートだ。街中には広告がまったくない。あるのは党のスローガンや旗などだけ」

4日間の旅費は1人あたり約750ドル(約11万円)。ツアーにはロシア語を話すガイドと通訳者が常に同行していた。ツアー客は、万寿台にある故金日成(キムイルソン)主席と故金正日(キムジョンイル)総書記の銅像、子どもたちが音楽やダンスのパフォーマンスを披露する万景台学生少年宮殿を見学したほか、馬息嶺スキー場に3日間滞在した。

ツアーに参加したロシア人らは、特に写真やビデオ撮影に関して、厳格な規則が与えられた。

「軍人や制服を着た人々の写真を撮らないように、また建設現場や建設中の建物の写真を撮らないように求められた」とビチコワさんは説明した。「写真の撮り方や、指導者の肖像画や彫刻に関する扱い方についての規則もあった。指導者の写真が載っている新聞や雑誌を持っている場合、肖像画に折り目がつくため新聞を折り曲げることはできない」

新聞はビチコワさんお気に入りの北朝鮮土産となった。ビチコワさんによれば、買うものはあまりなかったが、店が二つ空港と首都に1軒ずつあり、そこでマグネット、人形、レゴセット、小物のギフトを購入したという。

平壌を訪れたロシア人観光客のグループ

ロシアと北朝鮮の関係

パンデミック以前、北朝鮮を最も多く訪れたのはロシアではなく、中国からの観光客だった。

今回のスキー旅行に参加したロシア人らはパンデミック以降、北朝鮮への入国を許可された初めての観光客となった。これは北朝鮮におけるロシア人気の高まりを示している。

世界的な制裁を受け、同盟国が少なくなる中、ロシアと北朝鮮が互いに関心を高めていることに、米情報当局者らは警戒を強めている。

北朝鮮は、ウクライナを攻撃するためのミサイルをロシアに供給している。

2月にはロシアのプーチン大統領が正恩氏に車を贈呈した。この行為は、核兵器開発を理由に北朝鮮に科せられた国連の制裁決議に違反する可能性がある。

ボスクレセンスキーさんもビチコワさんも、北朝鮮への渡航を決断した理由は、政治的なものではなく、地元の人々と知り合い、関係を築きたかったからだと語っている。

だが帰国後、ビチコワさんは北朝鮮の体制下ではそれが不可能だと感じているという。

「ステージ上にいるおよそ200人の子どもたちは、我々のために特別に1時間のコンサートを準備してくれた。我々はわずか97人だった」

「つまりステージ上には観客よりも多くの人がいた。彼らは我々に対して、北朝鮮がどのような国なのか、ある種のイメージを作り出そうとしているのが感じられた。だが端々から、それが完全な真実ではなく、別に真実があることが見えた」

ロシア人は北朝鮮旅行や金政権についての考えを自由に論じることができたが、同じことをロシアではできない。

ロシアでは、プーチン大統領やロシアの政策、軍を批判することは犯罪行為だ。

旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元将校から軍事ブロガーに転身し、ロシアのウクライナ侵攻を支持していた著名な人物が昨年夏、プーチン大統領を批判するコメントをしたことで逮捕され、「過激主義活動」の罪で起訴された。

先月末も、ロシアと米国の二重国籍を持つ33歳の女性がエカテリンブルクで逮捕され、「ロシアの安全保障に反する活動で外国に資金援助を提供した」罪に問われた。その理由は、ウクライナの慈善団体に51ドルを寄付したためだという。

ボスクレセンスキーさんとビチコワさんの2人は、北朝鮮による人権侵害を認識していたが、北朝鮮の一般市民と交流するために、今回の旅が価値あるものになることを望んでいたとCNNに語った。

2人とも、いつか北朝鮮を再訪することは検討するが、それは政治状況が変わった場合のみだと述べている。

「私のコンテンツの主なメッセージは、どこの国であろうと、どの国籍であろうと、そこに住んでいるのは普通の人々であり、どこにいても愛を持って人々に接するべきだということだ」とボスクレセンスキーは言う。「旅が世界を救うことを願っている」

ロシア人の北朝鮮へのスキー旅行は今月も予定されている。

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