1匹でホホジロザメを仕留めるシャチ、生態学的な変化の兆候か 南ア

昨年6月、南ア沖で撮影されたシャチが単独でホホジロザメを狩る様子を捉えた画像/Christiaan Stopforth/Drone Fanatics SA

2024.03.02 Sat posted at 16:55 JST

(CNN) 1組のシャチが連携してホホジロザメの息の根を止める。南アフリカの沿岸では、少なくとも2017年からこうした光景が繰り広げられている。シャチたちは栄養が豊富なサメの肝臓だけを奪い、残りは捨てる。

科学者たちはかねて、シャチによる狩りの手法の解明を試みてきた。シャチに追われる形で、ケープタウン周辺の沿岸の一部からはサメの姿が消えた。

科学者らは昨年、スターボードの名で知られる雄のシャチが体長2.5メートルの若いホホジロザメを2分足らずで仕留める様子を船上から観察した。伊シエナ大学のサメ研究センターに在籍する海洋生物学者、プリモ・ミカレッリ博士は声明で、「これらの捕食者たちには畏敬(いけい)の念を抱くものの、沿岸部の海洋生態系のバランスに対する懸念は一段と深まっている」と語った。

高度な知能と社会性を有するシャチが大型の動物を単独で狩る行動自体は、前例のないものではない。しかし世界最大の捕食者の部類に入るホホジロザメが絡んだ例はこれまで確認されていなかった。研究者らが1日刊行の海洋科学誌で報告した。

スターボードの狩りの手法は、これまで広く観察されてきた複数のシャチが協力して獲物を囲んで襲う形とは異なる。研究によれば、以前はホホジロザメを襲う場合も2~6匹が関与し、最長で2時間かけて仕留める様子が観察されていた。

今回の研究論文の筆頭著者を務めた南ア・ローズ大学の研究者、アリソン・タウナー氏は、単独での狩りについて、シャチの補食行動に対する画期的な洞察と指摘。サメを狩るシャチの存在が、より広範な生態系力学へと結びつく可能性があるとの見解を示した。

南ア・ハーテンボス近くの海岸に打ち上げられたホホジロザメの死骸

論文が詳述する事象は昨年6月18日、ケープタウンから東へ約400キロに位置するモーセル・ベイの近くに浮かぶシール島の沖合800メートルで発生した。その時、研究者や観光客が2隻の船舶に乗り、シャチを観察していた。

到着から1時間もしないうちに、1匹のサメが海面に浮上。人々はスターボードがサメの左の胸びれを捕らえているのを目にした。スターボードはサメに何度か突っ込み、最終的にはその内臓を引っ張り出した。そこまで2分とかからなかったと、論文は記録する。

その後、船舶の1隻から「血にまみれた桃色の肝臓を口にくわえた」スターボードの写真が撮影された。スターボードの仲間で雄のポートも100メートルほど離れたところで目撃されたが、こちらは狩りには関わらなかった。

2匹は論文執筆者らの間ではよく知られたシャチで、ナミビアまでに至る南ア東部の海岸線一帯を泳いでいるとみられる。15年にホホジロザメを標的にし始めたと考えられているが、タウナー氏によれば、22年になって初めて実際に複数のシャチがホホジロザメを狩る様子が空撮された。

シャチが1匹でホホジロザメを殺せたのは、相手が若い個体で比較的体が小さかったからかもしれないと論文は指摘する。成体のホホジロザメの体長は最大で6.5メートル。体重は2.5トンに達する。

攻撃の迅速さには、捕食者としてのスターボードの技量と効率性が表れているとみられる。論文が示唆するところによれば、そうした要素は狩りに時間をかけることのストレスへの対応かもしれない。狩りをする近くの海岸線は、人間が多く生活する地域ともなっている。

南ア・ステレンボッシュ大学の研究員で、海洋研究機関「シー・サーチ」の創設にも携わったサイモン・エルウェン博士はシャチについて、新たな狩りの技術を自ら、あるいは他の個体からすぐに学ぶことができると説明。南アにおけるシャチの行動を観察し、理解することは、この動物の知見を深める上で重要な役割を果たすと語った。

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