中国EV大手BYD、メキシコで工場建設を検討 米市場参入への足掛かりとなるか

比亜迪(BYD)の車を眺める買い物客=ハンガリー・ブダペスト/Attila Volgyi/Xinhua/Getty Images

2024.02.12 Mon posted at 20:30 JST

香港(CNN) 今年1月、5000台以上の電気自動車(EV)を積んだ中国の巨大輸送船が、欧州の港に向かった。

これらは中国のEVメーカー、比亜迪(BYD)の車だ。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏から出資を受けている同社は2023年10~12月期のEV販売台数で競合の米テスラを抜き世界首位になった。

中国国営新華社通信の報道によれば、BYDは今回、中国南部の深圳からドイツとオランダにEVを輸出する際、自社の巨大輸送船「BYDエクスプローラーNO.1」を初めて投入した。

これはBYDが著しく成長していることを鮮烈にビジュアルで示した一例だ。同社は国内市場を制圧したが、その勢いを維持するためには新たな道を切り開く必要がある。

それにはハンガリーとメキシコの2カ国が重要となってくる。どちらも巨大な自動車市場ではないが、欧州や北米への玄関口として機能し、真の意味で世界的な知名度を得たいというBYDの挑戦を支えることが可能だ。

BYDは両国への進出を進めている。昨年12月、同社にとって欧州初となる乗用車工場をハンガリーに新設すると発表。これについて同国のオルバン政権は、ハンガリー史上最大規模の投資の一つであり、南部のセゲドに数千人の雇用を創出すると述べた。

また同社は、メキシコへの進出も計画している。南東部ユカタン州政府の事情に詳しい情報筋がCNNに語ったところによると、BYDはメキシコに工場を建設することに関心を示しているが、1月の時点で計画は正式に決定しないという。BYDメキシコはコメントの要請に応じていない。

ハンガリーとメキシコへの進出によって、深圳を拠点とするBYDは多額の関税を回避しながら、大西洋の反対側に足掛かりを築くことができると専門家らは指摘する。また、これらの計画はBYDが厳しい地政学的な環境を乗り切るのにも一役買う可能性がある。とりわけ欧州の一部の政治家が、中国製EVが「洪水」のように押し寄せてくる事態に警戒感を強めているためだ。

かつて海外では知名度も低く、2011年にはテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)から嘲笑されていたBYDだが、同社を長年見守ってきた人々は、予想される同社の動向は、単に保護主義の高まりに対応したものではないと言う。

米コンサルティング会社シノ・オート・インサイツの創設者トゥー・リー氏は「私はこれをBYDが引き続きグローバル展開を行い、生産拠点の拡大を続ける動きと見なす」と語った。「彼らが世界制覇という壮大な野望を抱いていることは明らかだ」

二つの新ルート

人口960万人の小さな内陸国であるハンガリーは、特に中国の自動車部品メーカーにとって、欧州の生産拠点としてますます重要な存在となっている。

中国電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)や新興EVメーカーの蔚来汽車(NIO)などの中国企業は、独競合のメルセデス・ベンツ、BMW、アウディと並び、近年ハンガリーでの生産に多額の投資を行っている。BYDはすでに同国で存在感を示しており、17年にはコマーロム市に電気バス工場を開設している。

BYDはセゲドに新工場を開設することで、乗用車の自由貿易へのアクセスも獲得することになる。中国の長年の経済パートナーであるハンガリーのみならず、他の欧州連合(EU)の加盟国26カ国との自由貿易が可能になると、独シュミット・オートモーティブ・リサーチを率いる欧州自動車アナリストのマティアス・シュミット氏は述べている。

シュミット氏はCNNに対し、ハンガリーの人件費やエネルギーコストが、フランスやドイツといった他の自動車生産ハブと比較して低いことを引き合いに出し、「西欧諸国が提供するあらゆる恩恵をわずかなコストで享受できる」と話した。

輸送船「BYDエクスプローラーNO.1」への積み込みを待つ車両

新工場は何年も前から計画されていたようだが、建設時期はとりわけ時宜にかなっていると専門家らは指摘する。なぜならBYDは、欧州で生産することによって、EUが中国からの輸入自動車にかける10%の関税を回避できるからだ。またEUは現在、中国のEVメーカーが同国政府から補助を受けていたかに関する調査を実施しており、その結果次第ではBYDに追加関税が課される可能性もある。

この調査は昨年9月に欧州委員会が発表。同委員会は、中国から輸入されるEVの価格がいかに「人為的に低く抑えられている」のかを解明しようとしている。

EUの関税は調査終了後に引き上げられる見通しだが、BYDは追加関税の支払いを回避できる可能性が高いとシュミット氏は述べている。

上海を拠点とする戦略コンサルティング会社オートモビリティーの創設者兼CEO、ビル・ルッソ氏も同様の見解を示した。

ルッソ氏は、メーカーの生産国ではなく原産国(この場合は中国)を対象とする新たな規則が策定されない限り、BYDのハンガリー工場は関税の支払いを免れるはずだと指摘した。

メキシコでも同様の状況が予想される。BYDは現在、米国で乗用車を販売しておらず、中国製の自動車には27.5%の高額な輸入関税が課せられている。

BYDがバスや乗用車を販売するメキシコに生産拠点を整えれば、状況はすぐに変わる可能性がある。

20年に「北米自由貿易協定(NAFTA)」に代わる貿易協定として発効された「米・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」によると、関税を回避するには各乗用車の75%を北米で生産する必要がある。

よってUSMCAの加盟国であるメキシコは、中国の自動車メーカーにとってより魅力的な国となっているのだ。

リー氏は、メキシコは「北米への生産・輸出の入口」として機能し得るとして、「米国政府は、メキシコが裏口を作ることは好まないだろう」と語っている。

メキシコは人件費や輸送費が安いというメリットのほか、テスラが新工場を建設しているため、BYDは同国を強固な拠点と見なしている。マスク氏はかつて嘲笑していたBYDの競争力を認めており、今ではテスラがBYDの顧客の1社として、同社製バッテリーの供給を受けている。

BYDとって、これは単なる最終製品戦略ではないとリー氏は言う。「このほか、『我々は中南米市場でバッテリーを販売する計画だ。当社最大の顧客の1社が、そこにギガファクトリーを建設中なので、我々が彼らのすぐ隣にいるのは理にかなっている』という狙いもある」と同氏は述べた。

昨年9月、BYDの李柯・執行副社長は、メキシコのニュースメディア「エル・ソル・デ・メキシコ」に対し、市場の反応次第だが、同社はメキシコに工場を建設することを視野に入れていると語った。

「需要が高いと判断すれば、ここで車両を生産することを検討する」(李氏)

タクシー運営会社ベモが運用する比亜迪(BYD)の電気自動車=2023年11月、メキシコ市

グローバル展開

王伝福氏が創業したBYDは、まず中国国内でバッテリーメーカーとしての評判を確立してから、海外に進出した。

初の海外進出は1998年で、オランダのロッテルダムに初の海外子会社を設立。そこに欧州本社を設置して、バッテリーの輸入を開始した。

これはBYDの創業からわずか3年後のことだったが、同社が欧州で自動車販売を開始したのはその約14年後のことだ。同社は2012年に電気バス、フォークリフト、タクシーを発売した。

中国の一部の同業他社とは異なり、BYDは「当初は海外販売を優先していなかった」とルッソ氏は指摘する。

その代わり、中国での販売競争で勝利することに注力し、国内で長年業界トップに君臨していたテスラに一泡吹かせることに成功した。

昨年、BYDは中国で最も売れた自動車メーカーとなった。価格は最も安いモデルで1万1000ドル(約160万円)から。

ルッソ氏はCNNに対し、「BYDは現在、方針転換を行っている。成長するためには海外販売を優先しなければならない段階に達しているからだろう」と語った。

この変化は数字にも反映されている。BYDの拠点は、20年の50カ国以上から現在は70カ国以上に拡大。同社は、電気バスを生産するカリフォルニアやブラジルなどの既存の海外生産拠点に加え、インドネシアやタイ、ウズベキスタンでの新工場の建設計画を急速に進めている。

22年上半期には、中国市場(中国本土、マカオ、香港、台湾)の顧客が40%を占めていた。

最新の中間年次報告書によると、1年後にはその割合が33%に縮小した。

BYDは自動車輸出で急成長を記録し、昨年の輸出台数は334%増の24万3000台弱だった。

こうした急成長により、中国は23年に日本を抜いて、世界最大の自動車輸出国になる可能性が高い。

だが、海外市場での成長が続くBYDは、より現地に根ざしたアプローチを取る必要があるとアナリストらは指摘する。

消費者の財布のひもを緩めるだけでなく、政治家の心もつかむには、主要市場の近くに工場を建設することが重要となる。

それによって、地元で雇用を創出する意欲があることを示すことになり、同社への好感度向上につながる。「結果として、その地域の政府からより有利に扱ってもらえる可能性がある。地政学は重要な検討要素だ」(ルッソ氏)

本稿はCNNのミシェル・トー記者による分析記事です。

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