容赦ないロシアの「肉弾攻撃」、数で劣るウクライナ軍をすり減らす

前線のウクライナ兵は熱望する西側の武器ではなく、ソ連製の兵器でロシア軍に対峙する/Joseph Ataman/CNN

2024.01.24 Wed posted at 17:30 JST

ウクライナ・アウジーイウカ近郊(CNN) 激戦地となった、前線にまたがる小さな町アウジーイウカ。今もなおウクライナ側がかろうじて掌握しているものの、3方からロシアの兵士と大砲に包囲されている。

ロシア軍からの砲撃で、町は跡形もない状態だ。

コンクリートの残骸は、ここが町一番の高層建築物が並ぶエリアだったことを示し、瓦礫(がれき)の山から当時の面影がそこはかとなく漂ってくるかのようだ。教会の屋根にあった十字架は爆撃で2つに折れ、非難がましくロシアの前線を指している。

廃虚の中でロシアとウクライナの部隊が衝突し、ドローン(無人機)や場合によっては戦車の餌食になっている。双方の死者はかなりの数にのぼるが、攻勢をかけるロシアは包囲されたウクライナに対して次々兵士を送り込み、とりわけ多くの死者を出している。

CNNとの取材に応じたコールサイン「ベス」というウクライナの狙撃兵は、そうしたロシアの攻撃を「肉弾戦」と表現した。ちなみに「ベス」とはウクライナ語で悪魔を意味する。その兵士が回想する戦闘状況はまさに地獄絵だ。戦死した兵士が「凍ったままただ横たわっている」。オメガ特殊軍に属するその兵士は、ウクライナ東部ドネツク地方の前線から数マイル手前の住宅でこう語った。

「戦死した兵士を誰も撤収しない。放置したままだ」とその兵士は語った。「とくにこれという任務も与えられず、ただ放り込まれて死んだかのようだ」

この町でウクライナ軍のドローン偵察部隊の指揮を執る「テレン」という司令官は、「我々が1日に40~70人の兵士を殺したとしても、向こうは翌日には補充兵を送り込み、攻撃を続けている」と語った。

18カ月におよぶアウジーイウカ周辺の戦闘で、第110独立機械化旅団のパイロットは少なくとも1500人のロシア兵を殺害したという。だがいまだにロシア兵が送り込まれてくる。

ウクライナ側の戦死者数は表に出ないよう厳重にガードされているが、戦闘は混乱をきたしていると思しきロシア側と、装備や兵士は限られているものの鋼の意志で挑むウクライナとの消耗戦と化している。

昨年12月に前触れもなくアウジーイウカを訪問したウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領は、この町での戦闘を「猛攻撃」と称し、あらゆる意味で「戦争全体の流れを決める」戦いになるだろうと付け加えた。

見たところウクライナの指導層は2023年のバフムート防衛、およびその後の陥落に対する批判を意識し、戦略的意義の薄い地域を保持するべきか、兵士の命を守るべきかという明確な緊張状態を認識している。

「ほんのわずかでも我が国にとっては貴重な領土だ」とウクライナ軍のバレリー・ザルジニー総司令官は語ったが、アウジーイウカでは「少しでも派手な戦闘を思わせる行為は一切必要ない」

ロシア軍に向けて迫撃砲を発射するウクライナ軍国境警備隊オメガ特殊軍所属の兵士

戦闘のための兵器

だが、兵士の命は武器や兵器にかかっている。

凍てつく1月の朝、気温は零下22度前後。CNN取材班が見つめる中、オメガ特殊軍の別の部隊がアウジーイウカ周辺の射撃位置へ駆けて行った。

米国製のトラックの荷台にボルトで固定されたソビエト時代のロケット弾発射機が素早くセッティングされ、兵士の1人が一斉射撃のスイッチを入れた。

カチッという音、そして苛(いら)立ちの声。凍てついたロケット弾は発射する気配がなかった。

ウクライナは切望する西側製ではなく、手持ちの装備に頼らざるを得ない。ロシアへの反撃のチャンスを逃すたびに兵士の命が奪われかねないことはみな承知している。

数日後、近郊の町マリンカ周辺のぬかるんだ平原を兵站(へいたん)車両が疾走し、待望の砲弾を射撃位置に運んできた。

だが、米国から供与されたM777榴弾(りゅうだん)砲はこの日ずっと大人しかった。節約のため1日に発射するのは約20発、「よくても」30発だと砲兵は語った。昨年夏に失敗に終わったウクライナの反転攻勢では、砲兵部隊は援護として少なくとも2倍の海外製砲弾(その多くは米国製)をロシアに浴びせていたそうだ。

バフムート郊外の町アウジーイウカから北に90分ほど離れた砲撃位置をCNNが訪ねると、米国から供与された自走榴弾砲「パラディン」の砲弾庫が空の状態で置かれていた。発射できる砲弾は一つもなかった。

その後トラックで4発の砲弾が運ばれてきたが、ロシア軍に痛手を負わせられる代物ではない――単なる発煙砲弾だった。

「スキバ」と名乗る砲兵は、「パラディンで使えるものなら何でもいい」とCNNに語った。「無いよりましだ」

ロシアとウクライナの砲弾供給量について、第93独立機械化旅団の砲兵班の指揮官は「10対1」だとCNNに語った。

「向こうはソ時代の旧式を使っている」とコルサー指揮官は答えた。「それでも殺傷能力はある」

だが米国のウクライナ支援――とくに必要とされる砲弾も含め――はこれ以上当てにできなさそうだ。将来の支援予算は米国議会の論争に巻き込まれたまま。ウクライナ支援に反対するトランプ氏が再選する可能性も浮上し、さらに雲行きが怪しくなっている。

米国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は今月、「これまで米国が提供してきた支援は現在ストップしている。ロシアの攻撃は激しさを増すばかりだ」と率直に語った。

西側の装備が戦場に配置されても、アウジーイウカでウクライナが祝砲を鳴らすにはまだ早い。

昨年失敗に終わったウクライナによる反転攻勢で先陣を切ったのが、米国からウクライナに供与された戦闘車両「ブラッドレー」だった。歩兵援護用に設計された車両はロシアの攻撃の嵐を退け、信頼性を揺るぎないものにした。

「バービー」と名乗るウクライナ指揮官は、ブラッドレーがない状態では「こうして取材に答えることもままならなくなるだろう」とCNNに語った。

「あの車両はタフだ。何も怖くない」

CNNは第47独立機械化旅団の別のブラッドレー部隊から映像を入手。そこには米国で訓練を受けた兵士が、ロシア軍の中でも強力な部類に入る国産戦車T90を相手にする様子が映っている。砲撃で戦車は破壊され、制御不能になった砲塔が回転しているところへ、自爆ドローンが側面から突っ込んだ。

だが前線に供給される米国製ブラッドレーの数はごくわずかだ。

米国は200台前後のブラッドレー供与を約束したが、数十台が戦闘で破壊や損傷の憂き目にあった。そのうち数台は修理された後、また前線に送り込まれる。

ウクライナ兵もブラッドレーの威力を称賛するものの、現地の厳しい冬を乗り切れない点や、供与された旧型車の一部の状態については批判を口にしている。

敵と比べてウクライナの武器が足りないという問題は、前線でよく見られる光景だ。近隣でドローン偵察部隊を指揮する前出の「テレン」も、ロシアに勝つにはウクライナの装備や武器が足りないと単刀直入に語った。

テレンによれば、ウクライナは優秀なパイロットをそろえ、限られた資源で創意工夫を余儀なくされている。

「戦争初期、敵は我々よりも10倍以上のドローンで優位に立っていた。今では我々もドローン戦では十分戦えるようになったと思う。24時間体制で領空を監視している」(テレン)

司令所からロシア部隊を捜索するドローン部隊を取材していると、複数のドローンがロシア部隊の隠れ家のひとつを包囲した。

1台のドローンに装着された高性能カメラが、慌てて上空の自爆ドローンに狙いを定める2人のロシア兵の姿をとらえた。銃口とたばこから上がった煙が冷え冷えとした大気に広がる。ウクライナ軍のドローンがロシア兵の背後にある細い塹壕(ざんごう)に突進し、爆発した。

2人の兵士がどうなったのか、CNN取材班には分からない。だが取材に応じたドローンの操縦士いわく、周辺一帯で稼働中の台数を考えると生存の可能性は低いだろう。

任務の合間に地下壕でくつろぐ、155ミリ榴弾砲の射手ら

水があふれるコップ

それでもロシアの攻撃は続く。特殊軍の狙撃兵「ベス」いわく、アウジーイウカをキープできるかどうかは数次第だという。

「1リットルのボトルに1.5リットルの水を入れるのは不可能だ」とベスは語った。

数字の上でまさるロシアと対等に戦うために、ウクライナ上層部は軍将校からの圧力で、兵士増強として50万人の追加動員を検討している。

前線から遠く離れたウクライナ各都市での生活は、戦闘の影響とほぼ無縁に思える。少なくとも表面的にはそうだ。高速道路沿いには志願兵を募るポスターや検問所が点在し、軍服姿の兵士の姿がそこかしこに見受けられるものの、戦時統制の顕著な兆候や日常生活への変化はほとんど見られない。スーパーに行けば商品が豊富にそろい、カフェは客でいっぱいだ。

だが、徴兵はデリケートな話題だ。

ウクライナ大統領は追加動員を行使する権限を与えられている。現在は27歳以上が徴集対象となっているが、大統領はあえて議会の承認を得る形を取った。現在、法案は議会でじっくりと――難航しながら――協議にかけられている。

ゼレンスキー大統領は徴集兵の給与の支払い方法についても疑問視し、兵士1人分を納税者6人で賄わなくてはならないと発言した。

大統領が二の足を踏んでいることは、敵国がキーウ攻撃の意志をあからさまにしているにもかかわらず、ウクライナの世論にも政治的ニュアンスの違いが見られることを物語っている。

「ウクライナ国家の存在はウクライナ人にとって致命的だ」。ロシア安全保障会議の副議長を務め、タカ派政治家の筆頭でもあるドミトリ・メドベージェフ氏は、今月17日テレグラムにこう投稿した。

その上で「なぜかというと、歴史的にロシア領土だった地域に独立国家が存在すれば、戦闘行為の継続を招く理由が絶えず存在することになるからだ」と続けた。

一方前線では、CNNが取材した部隊の士気は依然として高かった。

疲弊してはいるものの、兵士が愚痴を吐くことはめったになかった。追加動員により、願ってもない前線での任務交替が増えるだろうと期待していた。

だがアウジーイウカでの戦闘が激しさを増す中、それも遠い先の話だ。

「セイヤー」と名乗るオメガ特殊軍の将校は、「前線を維持するために、自分たちは可能なことも不可能なこともすべてやっている」とCNNに語った。

「この後どうなるのかは分からない。だがアウジーイウカは持ちこたえている。我々は母国の土を踏んでいる。失うものは何もない」

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