なぜ米国で旅客列車が増えないのか

シカゴの鉄道駅でミルウォーキー行きのアムトラックの車両の横に佇む車掌/Scott Olson/Getty Images

2024.01.01 Mon posted at 17:00 JST

ロサンゼルス(CNN) もし、あなたが鉄道の旅について、欧州やアジアを舞台にした映画の「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」や「ブレット・トレイン」で描かれるような、速くて、手軽で、どこにでもあり、魅力的でさえあるものだと考えているならば、米国がかつては世界最大の旅客列車大国だったと知れば、きっと驚くことだろう。全長25万4000マイル(約40万8000キロ)におよぶ大陸横断鉄道が全盛を誇った1世紀ほど前、米国は列車によって移動していた。

現在、米国の旅客鉄道網はかつての面影をとどめておらず、鉄道網の大部分は使われていないか、貨物列車のものとなっている。米国は20世紀の間に、注力する先と投資を旅客鉄道から自動車や飛行機による移動へと切り替えた。

しかし、それも変わり始めているのかもしれない。米国では最近、二酸化炭素(CO2)の排出量削減を進めるなかで、鉄道旅行を復活させようとする動きが活発になっている。

米国唯一の民間鉄道会社「ブライトライン」は2023年9月、フロリダ州のオーランドとマイアミを結ぶ路線を開通した。乗車時間は約3時間で、自動車で移動するよりも約1時間、移動時間を短縮できる。カリフォルニア州は、ロサンゼルスとサンフランシスコを結ぶ路線に多額の投資を行っている。


フロリダ州で運行する民間鉄道会社「ブライトライン」の駅のホームを歩く旅行者/Carline Jean/South Florida Sun Sentinel/Tribune News Service/Getty Images

「鉄道ルネサンス」の時が来たのかもしれない。航空機の利用を避ける「飛び恥」(フライトシェイム)と呼ばれる動きがCO2の排出を減らそうとしている人々の間で世界的に広がっている。運輸部門は米国の全部門の中で最も多くの温室効果ガスを排出しており、運輸省は鉄道が排出量の削減に重要な役割を果たす可能性があると指摘している。

鉄道を利用した旅行が米国で完全に時代遅れになっているわけではない。現在、全米鉄道旅客公社(アムトラック)が都市間を結ぶ鉄道旅行を主に提供している。鉄道網は2万1400マイル余りにのぼり、46州で運行されている。

専門家によれば、米国が、フランスや日本、中国といった国々に追いつき、高速鉄道や広範な鉄道旅行を実現するには、まだ長い道のりが待ち受けている。

1869年5月10日、ユタ州プロモントリーポイントで最初の大陸横断鉄道が接続した

鉄道の盛衰

19世紀、鉄道は人々の移動手段に革命をもたらし、米国は先導役を果たした。JPモルガンやジェイ・グールド、コーネリアス・バンダービルトなど、米国有数の富のいくつかは鉄道の上に築かれた。1860年代までに、米国の民間企業は政府からの資金と土地の支援を受けて、米国初となる大陸横断鉄道を建設していた。大陸横断鉄道は69年、東部の既存の鉄道網をサンフランシスコまでつなげた。専門家によれば、大陸横断鉄道は当時、世界最長の鉄道網であり、米国の人口を西へと広げるのに役立った。

鉄道会社は政府の補助金と引き換えに、旅客サービスを提供することが義務付けられた。専門家によれば、鉄道旅行は当たり前のものとなり、1900年代までには、米国人のほぼ全員が鉄道の駅に近いところに住んでいたという。

現在、かつて乗客が利用していた路線の多くは貨物列車専用となっており、多くの米国人にとって列車の旅は検討の対象にすらなっていない。何が起きたのだろうか。


貨物列車の長い列が、カリフォルニア州の高速道路の下を走行する/Bing Guan/Bloomberg/Getty Images

答えは一つではないものの、「アーバン研究所」で公正な住宅販売や土地利用、交通などを扱うヨナ・フリーマーク氏はCNNの取材に対し、旅客列車の人気が減った主な理由の一つは、人々が、より新しく派手な交通手段に関心を移したことだと指摘した。すなわち、自動車だ。

フリーマーク氏によれば、米政府は20年代から、各州に対して、高速道路への投資を促し始めた。アイゼンハワー大統領の時代になると、この取り組みは加速した。法律の歴史について情報提供している米上院のウェブサイトによれば、アイゼンハワー氏が米国の高速道路網に関心を持ったのは19年に陸軍初となる国を横断する車両部隊に参加したことにさかのぼる。アイゼンハワー氏はこれにより、米国の道路の質の低さについて身をもって知ることとなった。アイゼンハワー氏は54年、一般教書演説で、州間高速道路網を提案し、それを国防計画として正当化した。高速道路網は軍隊の移動や核兵器による攻撃を受けた際の避難に利用できるからだ。


自動車で渋滞するニューヨーク州レビットタウン近郊の道路=1951年9月28日/Harvey Weber/Newsday RM/Getty Images

政府が高速道路での移動を推奨したのは米国だけではなかったものの、フリーマーク氏は米国と他国の違いについて、米国では、民間の鉄道会社がだんだんと無用の存在になっていったと述べた。

「我々は、鉄道が自動車と競争するのが難しい環境を生み出した」(フリーマーク氏)

別の専門家も、鉄道会社は鉄道網の近代化に多額の投資を行ったものの、その時期を誤ったとの見方を示す。

70年代の初めまでに、旅客鉄道サービスは、利用者の減少やインフラの老朽化、自動車や飛行機との競争が激しくなるなかで、民間企業にとって収益の足を引っ張る存在となっていた。

ニクソン大統領は70年、「鉄道旅客サービス法」に署名して、民間の鉄道会社が旅客サービスを提供するという要件を撤廃。米政府はその後、アムトラックを創設した。

アムトラックは他国の同様の政府機関よりもはるかに小規模ではあるが、年間2000万人以上の乗客にサービスを提供している。

米国の多くの都市で旅客列車を利用できなくなっており、71年以降、中西部を中心に一部の路線が廃止された。

メリーランド州ボルチモアを走行するアムトラックの車両

旅客列車は復活できるのか

鉄道の旅が失った地盤を取り戻す可能性は小さい。鉄道が米国を支配していた時代から、国はより大きく、より拡大した。

現実的な目標は、大都市圏を経済的に結びつける鉄道網の構築だろう。そう語るのは、非営利のシンクタンク「イーノ交通センター」の最高経営責任者(CEO)、ロバート・プエンテス氏だ。

プエンテス氏は高速鉄道の接続が成功する可能性のある事例として、ロサンゼルス―サンフランシスコ間を挙げた。プエンテス氏は「この二つの大都市圏は経済的に非常に強い結びつきがあり、人々は常にそこを行き来している。飛行機に対抗する鉄道の距離でもほぼ適切だ」と語った。

鉄道革命への挑戦の一つは、何世代にもわたって慣れ親しんできた自動車にではなく、列車に乗ることを米国人に納得させることだろう。

「米国ではとにかく、人々が列車に乗ることに慣れていない」(フリーマーク氏)

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