太陽よりも輝く「石」 化石燃料時代の終わりを告げるか

太陽よりも明るく輝く「石」が化石燃料時代の終わりを告げる?

2024.01.02 Tue posted at 17:30 JST

カリフォルニア州フレズノ(CNN) 人類の黎明(れいめい)期のあるとき、平均よりも賢いホモ・サピエンスが暖を取るために石を火から遠ざけて熱電池を発明した。

それから100万年以上が経過し、人類が気候危機を回避するために化石燃料を超える進化を遂げようと奮闘するなか、その簡素な考え方が現代によみがえりつつある。文字通り、また、比喩的にも、岩石への蓄熱はかつてないほど熱くなっている。

「箱の中(の石)は現在、1600度だ」とアンドリュー・ポネックさんは小さな建物ほどの大きさの熱電池の横に立って語った。鉄の融点よりも温度が高いという。

ポネックさんの白熱した石の箱が非常に重要なのは、それらが大量の石炭やガスを燃やして加熱されたのではなく、ポネックさんの試作品を囲む何千もの太陽光発電ソーラーパネルが太陽光を受けることで加熱されたという点だ。


アントラの太陽光発電場を歩くCNNの気候記者/Julian Quinones/CNN

もし成功すれば、ポネックさんとその新興企業アントラ・エナジーは、数兆ドル規模の新たなエネルギー貯蔵分野の一翼を担うことになるかもしれない。そこでは、太陽や風を利用するだけで世界最大級の工場を稼働させるのに十分な温度に石の箱を加熱する。

ポネックさんのクリーンエネルギーに対する情熱は、好奇心旺盛な公立校の学生として自宅のガレージで太陽光発電をいじっていたころに始まった。ポネックさんは、大規模な太陽光発電所を建設するため、スタンフォード大学を中退した。

ポネックさんは学位を取るために復学したとき、太陽や風力は自動車や家庭のバッテリーを充電するのに適しているものの、ベビーフードから鋼鉄まであらゆるものを製造するのに必要な工業用熱源の燃料を一掃することのほうが急務であることに気が付いた。また、工場のエネルギー需要はたいてい年中無休であるため、重工業は自然エネルギーの価格下落の恩恵をまだ受けていない。

「カリフォルニア州ではほとんどの日中、卸売市場の電力価格はゼロで、ときにはマイナスになることもある。これは現在設置されている太陽光発電が非常に多いためだ。風力のある他の州でも同様のことが起きている。問題は太陽が雲に隠れたり、風が吹かなくなったりしたときに工場の操業を止められないことだ。それがまさに、我々が焦点を当てた問題だ」(ポネックさん)

  
      
未来のエネルギー貯蔵装置?、「熱バッテリー」の試作品

「バッテリー」という言葉は、自動車や電子機器に使われている化学的なものを思い起こさせることが多い。蓄熱技術を用いた岩石には現在、1800年代に誕生した「カウパーストーブ」として知られる発明のおかげで、リチウムイオン電池の10倍のエネルギーが蓄えられている。精錬所でよく見られるれんがを積み上げた巨大な塔が溶鉱炉の排熱を吸収して3000度近くまで加熱。その後、約20分間にわたって100メガワットを超える熱エネルギーを供給する。

このプロセスは1日24回、30年間にわたって繰り返すことができるという。アントラは最も効率的な組み合わせを見つけるために、断熱した箱の内部で、さまざまな種類の岩石やシリンダー内の溶融塩の組み合わせを実験している。

ポネック氏は「さまざまな理由からグラファイトに興味を持った」と語った。ポネック氏によれば、鉛筆に含まれる安価で豊富な炭素は非常に多くの熱を保持することができ、太陽よりも熱く輝くという。

アントラの炭素ブロックを手にするポネックさん

アントラは、企業家のビル・ゲイツ氏を含む投資家から8000万ドルの創業資金を集めた。しかし、主な競争相手は、やはりカリフォルニア州のベイエリアに本社を置く新興企業のロンドだ。ロンドはたくさんの耐火れんがを使っており、重量では炭素よりも安いが、エネルギー密度はそれほど高くない。ロンドは、アントラよりも多くの資金を集めており、最初のバッテリーは、カリフォルニア州のエタノール工場で商用の電力を生産している。

ロンドのジョン・オドネルCEOはCNNの取材に対し、「発熱体からの見えない光、赤外線でれんがを直接加熱できる画期的な方法を開発した」と説明。第三者による報告によって、その素材が100年間持つことがわかったという。

プリンストン大学のジェシー・ジェンキンズ教授(工学)は「両社とも熱と電力の貯蔵を行っている。柔軟な役割を果たす水素のように、私が最も楽観視しているのは、このような長期的な貯蔵技術だ」と述べた。

ロンドのコンサルタントも務めるジェンキンズ氏によれば、石の利用は、電力を蓄えることができても熱を蓄えることができない化学電池よりも明らかに有利だという。

アントラとロンドのCEOは、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)に参加した。ポネックさんもオドネルさんも自分たちのアイデアへの関心や、クリーンエネルギーにおけるさまざまな画期的な飛躍的進歩に心躍らせて帰国した。

「もし、5年前や10年前に尋ねられていたら、こう答えただろう。『脱炭素化に必要なものが全てそろっているかどうかはわからない』と。しかし、今日、我々には必要な道具がある。あとは、それを展開するだけだ。移行は避けられない。かならず起きる。非公開の場で化石燃料業界の人々と話をしても多くの人が同じことを言うだろう」(ポネックさん)

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