世界最長はアマゾン川? 国際科学者チームが長さを再測定へ

アマゾン川の長さを調べるための調査が2024年に予定されている/Pubbli Aer Foto/De Agostini/Getty Images

2023.12.10 Sun posted at 12:10 JST

(CNN) 世界最長の川はどの川か。科学は2023年の今もその答えを模索し続けている。

ブリタニカ百科事典やギネス・ワールド・レコーズ(GWR)などの権威ある情報筋は、アフリカのナイル川を「世界最長の河川」に認定している。しかし今、世界各国の探検家や研究者らで構成されるチームが、その認定に異議を唱えるべく、アマゾン川への遠征を計画している。

7000キロに及ぶ遠征

この5カ月間に及ぶ遠征の目的は、2024年4月に出発し、アマゾン川全域を旅しながら、最新の河川地図作成衛星技術を使って、アマゾン川が世界最長の川であることを科学的に証明することにある。

アマゾン川は、一続きの1本の川ではなく、むしろ南米北部の大部分に広がる「河川システム」の一部であり、そのネットワークは、木の枝のように複数の水源や支流で構成されている。

アマゾン川の長さをめぐる論争は、主にアマゾン川の起点はどこかという問題に起因している。従来、ブリタニカなどはペルー南部のアプリマク川の源流を起点としてアマゾン川の長さを測定してきた。しかし、神経科学者から河川探検家に転身した米国人のジェームズ・コントス氏(51)は、アプリマク川よりも遠くの水源を発見したと主張している。それがペルー北部のマンタロ川だ。

コントス氏は、ペルーへの旅に向け、地図やハイドログラフなどの情報を収集している時に、アプリマク川よりもマンタロ川の方が長く見えたという。

その後、現地をカヤックで旅しながら、地形図、衛星画像、GPS測定などを用いてさらなる検証を行い、その研究結果を14年に発表した。

「この新しい水源の発見により、従来水源と考えられていた場所から測定した場合と比べて、アマゾン川の長さが77キロ伸びた」とコントス氏は言う。

ブラジル出身の探検家兼映画プロデューサーで、今回の遠征のリーダーを務めるユリ・サナダ氏(55)は、このコントス氏の発見により、遠征チームが現地に行く口実ができたと語る。

遠征の表向きの目的はアマゾン川の地図作成だが、それ以外にもアマゾン熱帯雨林地帯の豊かな生物多様性を詳細に記録し、世界の注目をそこに集め、世界のコミュニティーが連携してその環境を保護する必要性を訴えるというより大きな目標があるという。

来春に予定されているこの遠征のルートは、アマゾン川の新たな起点とされるペルーのアンデス山脈の奥深くにあるマンタロの水源を出発し、アマゾン川を航行しながらペルー、コロンビア、ブラジルを通過する。

マンタロ川の急流はコントス氏が操るいかだで下り、マンタロ川がエネ川に合流したら太陽エネルギーとペダルで動く特注のボート3隻に乗り換えてアマゾン川の残りの部分を下り、最終的にブラジル沿岸の大西洋に到達する。

サナダ氏によると、25年初頭に従来アマゾン川の源流とされていたペルーのアプリマク川を出発点とする第2弾の遠征が行われる予定で、それによりアマゾン川の2回目の長さ測定が可能になるという。

現在サナダ氏は、欧米から集まったこのプロジェクトの協力者約50人のチームを監督している。また今回の遠征は、名だたる企業・団体がスポンサーとなっており、例としては、学際的な専門家協会エクスプローラーズ・クラブからの支援や、関連映画製作に向けたIMAXとの契約、さらに米ハーバード大学向けの新しいアマゾン川の地図制作の受託などが挙げられる。

一部の専門家はペルー北部のマンタロ川をアマゾン川の起点と考えている

またサナダ氏によると、この遠征にはブラジル、ペルー、コロンビア、米国などの提携大学からの国際的な科学研究者らも参加するという。彼らはアマゾン川流域の伝統的なコミュニティーに持続可能な技術を提供するために、遠征のさまざまな段階で参加する。

サナダ氏は「これらのプロジェクトにより、コミュニティーの人々は、水の処理法、天然の材料を使ってより良い家を建てる技術、再生可能資源から電気エネルギーを生み出す方法、廃棄物処理法、電動モビリティー輸送などを学べる」とし、「現地の人々の生活は一変するだろう」と付け加えた。

今回の遠征で使用する太陽エネルギーとペダルで動くハイブリッドボートも、現在、現地のコミュニティーで使用されているガソリンで動くモーターボートに代わる、低価格かつ効率的で、汚染を減らす効果もある代替手段を実演する目的で採用した。

地元ブラジルの大学と共同開発したこのボートは、地元のバイオレジンと天然繊維で作られており、モーターも3Dプリンターで作られている。このボートのモーターは、遠征の終了後に現地に寄贈される予定だ。

武装した護衛に防弾キャビン

しかし、この遠征には危険も伴う。

サナダ氏は「この種の遠征では、さまざまなトラブルが発生する」とし、例としてボートが崩壊する可能性や自然のリスク(ジャングルにはジャガー、アナコンダ、毒ガエルなどの危険生物が生息する)を挙げるが、最も危険なのは現地人との接触だという。

旅の途中で麻薬密売人と遭遇する可能性もあるため、遠征チームは、違法採掘や麻薬取引で知られる地域を通過する際は地元当局の協力を得て、武装した護衛を付ける。またボートのキャビンは防弾・防矢の繊維で覆われている。

しかしサナダ氏は、この遠征でアマゾン川の長さに関する明確な答えを得られなかったり、アマゾン川が実際に世界最長の川だと証明できなかったりする可能性もあると認める。

米サンディエゴ大学の環境・海洋科学准教授で、河川システムや河川の測定が専門のスザンヌ・ウォルサー博士は、河川の測定には課題が多いとし、その原因として、河川は複雑で常に動いていること、そして認定された河川の水源や終点についてさまざまな解釈が存在することの2点を挙げる。

ウォルサー博士は、河川は「時間の経過とともにさまざまな形で変化」しうるとし、例として河川の流れ、水量、季節パターンの変化を挙げる。

「測定の対象が常に動いていると、全く同じ方法で測定しても結果は変わってくる」(ウォルサー氏)

またウォルサー氏は、「世界で最も長い川」など、世界一の地理的特徴は、国の威信を高め、観光収益も増える可能性があることから、「世界一」を主張する一定の人為的動機が存在することも指摘した。

知識の探求

サナダ氏は、今回の遠征がどのような結果に終わろうと、次回はナイル川を探索し、同じ技術・手法で川の長さを測定したいと話す。

ナイル川は北東アフリカを流れ、エジプトを経由して地中海に注ぐ。ナイル川も水源に関して議論があり、複数のアフリカ諸国が自国に源流があると主張している。

サナダ氏は、これらのプロジェクトを通して「アマゾンの重要性とそれを保存しなければならない理由」を示すことにより、地域の誇りを高め、国際観光を活性化し、さらにアマゾンにおける保護活動の促進にも寄与すると考えている。

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