地球環境、人類にとっての「安全な活動空間」から外れていく恐れ 科学者29人が警鐘

かつて水の底だった米ネバダ州のミード湖の一部。現在はひび割れた地面が露呈する/John Locher/AP

2023.09.14 Thu posted at 15:44 JST

(CNN) 人間の活動により世界が危険地帯へと押しやられていることが、地球の健全性に関する複数の主要な指標から明らかになった。今後地球上の環境に激変をもたらす恐れがあると、8カ国の科学者29人が警鐘を鳴らしている。

科学者らは相互に関連した9つの「地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)」を分析した。気候変動、生物多様性、淡水利用、土地利用、化学物質による汚染、エアロゾル(空気中に長時間浮遊する微粒子)の負荷などからなるそれぞれの項目には、世界が安定した居住可能な空間であり続けるのに必要な限界値が設けられている。

分析の結果、人間の活動によりこれらのプラネタリー・バウンダリーのうち6つではもはや安全な水準が保たれておらず、人類にとっての「安全な活動空間」から逸脱しつつある状況が明らかになった。当該の報告は科学誌サイエンス・アドバンシーズに13日付で掲載されている。

9つのプラネタリー・バウンダリー は、2009年に書かれた論文の中で初めて設定された。温室効果ガスの排出から森林伐採まで、人間が地球にもたらす変化について一連の「限界」を定義するのが目的だった。理論上、これらの限界を超えると、地球環境が不安定化するリスクは劇的に高まることになる。

今回の報告の共著者を務めたコペンハーゲン大学のキャサリン・リチャードソン教授(海洋生物学)は、今夏の前例のない異常気象について、産業革命前から世界の平均気温が1.2度上昇した現状との関連を示唆。「1度の上昇幅ならこのような事態にはならなかっただろう」と指摘した。その上で「人類がいまだかつて経験したことのない状況を、我々は今経験している」と付け加えた。

ギリシャ・アテネ郊外で発生した山火事から馬を避難させる男性

まだ安全な領域にある3つの項目でも、海洋の酸性化と空気中のエアロゾル量の2つは好ましくない方向へ進んでいる。

一方で良いニュースもある。リチャードソン氏によれば、オゾン層に関する項目は1990年代の時点で超えてはならない限界値を超えていたが、国際協力によりオゾン層を激減させる化学物質を段階的に廃止した結果、現在は層の回復に向けた道筋が完全に開けている。

それぞれの項目で限界値を超える状況になっても、それで世界が破滅的な転換点を迎えるわけではない。限界値超えが「崖から転げ落ちる」ことを意味するものではないと、リチャードソン氏も語っている。ただそれが警戒すべき兆候であるのは明らかだ。

リチャードソン氏によると、出費がかさめば銀行の預金残高が目減りするように、人類が地球の限界値を超える活動をすればその分地球本来の資源も失われていく。

「貯金がなくなりつつある中でもパーティーで盛り上がることは出来るが、そんな行動はいつまでも続けられない。我々は既にそのような状況に至っている」(リチャードソン氏)

木々が伐採された南米ペルーの密林地帯

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)のサイモン・ルイス教授(世界変動科学)は、今回の報告について「既に警戒すべき構図に対し、際立って悲観的な更新」を施したとの認識を示した。同教授はこの研究に関与していない。

しかし、プラネタリー・バウンダリーを設定する研究モデルには批判的な意見もある。

英オックスフォード大学のレイモンド・ピエロンバート教授(物理学)はCNNの取材に答え、限界に対する明確な基準を設定できる炭素汚染のような項目であれば同モデルは有効だとしつつ、土地利用の変化といった他の項目では、どこに限界を設定するかや限界を「超えた」と判断する基準について議論するのは本筋から外れるかもしれないとの見方を示した。

その上で、モデルは「世界を単純化する大胆な試みだが、恐らく単純化のしすぎで実際の役には立たないだろう。我々が抱える多くの環境問題を現実的に処理するに当たっては、有用とは言えないのではないか」と述べた。

データやモニタリングに課題があることは、リチャードソン氏も認識している。「データの収集と照合をより包括的に行う必要がある。それによって人類が生態系に及ぼす影響を監視できる」(同氏)

プラネタリー・バウンダリーのモデルの更新は今回で3回目。前回は2015年に発表された。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。