(CNN) 米コロラド州に拠点を置くスタートアップ、ブーム・スーパーソニックは、2003年にコンコルドが退役して以来休止していた商業超音速飛行の再開を目指している。
しかし、ごくわずかな航空会社しか運航しなかったコンコルドとは異なり、ブームは同社の超音速旅客機「オーバーチュア」で、超音速の空の旅を「大衆化」し、誰もが楽しめるものにしたいと考えている。同社は、このオーバーチュアの商業飛行を29年までに開始する計画だ。
野心的な目標
オーバーチュアは、64~80人の乗客を乗せ、高度6万フィート(約1万8300メートル)をマッハ1.7の速度で飛行可能だという。ボーイング787やエアバスA350といった主要な広胴型機と比較し、速度は2倍、巡航高度も1.5倍だ。その結果、ロンドン・ニューヨーク間をおよそ3時間半で飛行可能で、移動時間を半分に短縮できる。
しかし、オーバーチュアの実機はまだ完成していない。第1号機が工場から出荷されるのは早くて26年になる見込みだが、ブームはすでにユナイテッド航空、アメリカン航空、日本航空の3社から受注している。
ブームは、27年にオーバーチュアの初飛行を行い、29年に認証取得を目指している。認証を取得すれば、すぐに商業運航の開始が可能だ。ブームの創業者兼最高経営責任者(CEO)のブレイク・ショール氏は、これらの目標の達成が容易ではないと認めつつも、これまでの進展具合には満足していると付け加えた。
ブームは今年、ノースカロライナ州グリーンズボロで「スーパーファクトリー」と呼ばれる広さ約25ヘクタールの施設の建設に着手した。24年半ばに完成予定で、同社はそこで航空機の製造・テストを行う。
また7月にはパリ航空ショーで、オーバーチュアの部品を製造する複数のサプライヤーと新たに契約を結んだことを明らかにした。ショール氏によると、これらの企業は、ボーイングやエアバスの大型機の部品も製造しているという。
持続可能な燃料
エンジンは超音速航空機にとって最も重要な部品の一つだ。標準的な旅客機よりも高速で機体を推進する必要があるため、通常とは異なる設計が必要だ。
ブームのエンジンは「シンフォニー」と呼ばれ、フロリダ・タービン・テクノロジーズと共同で設計している。同社のエンジニアたちは、ロッキード・マーティンのステルス戦闘機F22やF35などの超音速エンジンの開発に取り組んできた。
ショール氏によると、シンフォニーは、コンコルドの最大の欠点の一つだった騒音に特に注意を払って設計されているという。
また同エンジンは、持続可能な航空燃料(SAF)にも対応している。
国際航空運送協会(IATA)によると、SAFはバイオマスや廃棄物を原料とするジェット燃料で、この燃料を使用することにより、炭素排出量を最大80%削減可能だという。
またブームは40年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを公約している。
しかし、SAFのインフラ整備は遅れており、超音速旅行が持続可能であるという考えを売り込むのは難しいだろう。超音速機のエンジンは比較的多くの燃料を燃焼させる上、オーバーチュアの収容力が限られているため、乗客1人当たりの炭素排出量が通常の旅客機に比べはるかに大きくなるためだ。
先行きに不安?
オーバーチュアにはいくつかの不安材料がある。
航空関係のコンサルティング会社シリウムのシニアコンサルタント、リチャード・エバンス氏によると、オーバーチュアを運航する航空会社の成功は、同機を従来の長距離航空機と同じように運用できるか、つまり、年間4000~5000時間の飛行時間を確保できるかにかかっているという。
これは座席あたりの莫大な所有コストを償却するためだが、エバンス氏は、コンコルドでも年間の飛行時間は1000時間ほどだったとし、オーバーチュアが年間4000~5000時間の飛行時間を確保するのは非常に難しいとの見解を示した。
またエバンス氏は、29年の商業運航の開始についても懐疑的だ。エバンス氏はボーイング777―9を例にとり、既存の航空機の派生型で、全くの新機種ではない777―9ですら開発に12年かかるとし、残り6年でオーバーチュアの認証を取得するのは困難だろうと指摘した。
そして最後にエバンス氏は、超音速機は、燃料がSAFか従来の燃料かにかかわらず、乗客1人あたりの燃料消費量が従来の航空機よりもはるかに多くなるとし、超音速セクターが航空業界の脱炭素の目標と適合するのは難しいとの見方を示した。