学校に卵、企業に嫌がらせ電話 日本が被る中国からの猛反発 処理水放出巡り

日本から輸入した魚介類の販売を一時停止することを伝える北京の日本料理店の看板/Pedro Pardo/AFP/Getty Images

2023.08.29 Tue posted at 20:37 JST

東京(CNN) 東京電力が24日に福島第一原発の処理水の海洋放出を始めたことを受け、ネットを通じた大量の嫌がらせ、憎悪に満ちた言葉が日本人に浴びせられている。これにより日本と中国の緊張関係は急激に高まり、日本政府が中国の駐日大使を呼び出す事態になっている。

処理水の海洋放出開始後、検閲の厳しい中国のインターネットは怒りの声を爆発させた。

ソーシャルメディアに投稿された複数の動画は、中国人が日本の企業や施設に電話をかけ、「なぜ核で汚染された水を海洋に流すのか?」などと叫ぶ様子を捉えている。

動画下のコメント欄では、大勢のユーザーが対象となる電話番号を共有。互いにかけるよう呼び掛けており、「自分もかけた」などの書き込みが確認できる。

福島市の木幡浩市長は26日、市役所だけでそのような嫌がらせの電話が2日間におよそ200件かかってきたと明らかにした。市内の多くの小中学校、飲食店、宿泊施設などにも同様の電話がかかってきたという。

木幡氏がフェイスブックに投稿したところによると、電話の多くは中国の国番号である86から始まり、中国語で話されていたという。同氏は原発事故の痛手だけでなく、その後の影響も福島を苦しめているとし、日本政府に対して可能な限り早く状況を把握した上で行動を起こしてほしいと求めた。

県内のある海産物市場には25日、中国の国番号で始まる電話番号から数十件の電話がかかってきた。NHKが報じた。

外務省は28日、中国大使を嫌がらせ電話の件で呼び出したと説明。こうした事案について「極めて遺憾であり、憂慮している」と述べた。

同省は中国政府に対し、適切な措置を直ちに講じ、状況がエスカレートするのを防ぐよう強く要請。処理水放出についての不正確な情報が拡散するのを回避するよう求めた。

標的にされているのは日本国内の企業だけではない。中国国内の日本の施設も嫌がらせを受けていると外務省は指摘する。その上で、中国政府は中国国内に暮らす日本国民や日本の外交官の安全を確保しなくてはならないとの見解を示した。

処理水放出が始まった24日には、山東省青島にある日本人学校の敷地内に石が投げ込まれた。NHKが報じた。翌日には、複数の卵が江蘇省蘇州にある日本人学校に投げつけられた。

NHKによると、どちらの事案でも子どもたちに危害はなかった。当該の学校はその後警備を強化しているという。

報道では加害者を特定しておらず、福島を巡る懸念が動機かどうかも言及していない。

それでもこれらの件は、中国に暮らす日本人の間に恐怖と不安を引き起こしている。

処理水放出が始まった24日、中国の日本大使館は同国在住の日本人に向けて、公の場にいる時は日本語を大声で話さないよう警告を発した。さらに自らの言動にも注意を払うよう呼び掛けた。

同大使館では警備を強化し、建物周辺に配備する人員を増やしたとNHKは報じた。

しかしながら、中国の反応はそれほど同情的なものではない。

28日、在日中国大使館は声明を発表し、処理水の放出を改めて非難。日本政府が人類と海洋の環境に対して予測不能な危害をもたらしていると糾弾した。一方で中国側が誤った情報を広めているとの見方は否定し、中国にも日本から嫌がらせの電話が寄せられていると主張した。

日本大使館の声明と同様、中国大使館も日本政府に対し、日本国内に住む中国人の安全確保を求めた。

中国がどのような措置を講じて嫌がらせに対処するかとの問いに対し、中国外務省の報道官は、「中国は常に、国内の外国人の安全及び法的利益を法律に従って守っている」と回答した。

北京の日本大使館の前に立つ警備員

すし外交

福島原発からの処理水放出は中国当局から即座に怒りの反応を引き起こした。24日、同国は日本の水産品の全面禁輸を発表した。

多くのソーシャルメディアのユーザーはさらに一歩踏み込み、より広範な日本製品のボイコットを呼び掛けた。動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版「抖音(ドウイン)」を通じ、ユーザーらは化粧品や食品、飲料に至るまで日本ブランドのリストを拡散し、それらの製品を購入しないよう強く求めた。

しかし中国国外からはこうした爆発的な非難について、どちらかと言えば政治的要因によって引き起こされたものであり、科学的な情報に基づいてはいないとの声も出ている。中国政府のダブルスタンダード(二重基準)を糾弾する向きもある。中国を含む多くの国々は、自国の原発から処理水を放出しており、その濃度が福島原発の処理水を上回るケースもあるからだ。

しかしこうした事実を中国国内のネット議論で目にすることはない。処理水放出の科学的な背景を説明しようとする数少ない声は検閲の対象となり、ソーシャルメディアから締め出されている。

東京大学東洋文化研究所で国際政治を研究する松田康博教授は、科学的に見れば処理水による汚染はそこまで深刻なものではないと指摘。中国をはじめとする他国が放出する処理水は日本の事例より格段に濃度が高いと示唆した。

その上で処理水放出は中国にとって戦略的に重要な問題ではなく、現行の騒ぎはむしろ中国政府による政治的影響力獲得の試みである可能性があるとの認識を示した。ただ同氏によれば、ソーシャルメディア上の攻撃と国民感情は当局の統制を超えて膨れ上がり、すでに日本に対する全力を挙げたバッシングになってしまっているという。

こうした中、処理水放出を支持する人々の一部は地元の海産物を食べることで団結を示している。

韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領と韓悳洙(ハンドクス)首相は28日、昼食に海鮮料理を食べた。大統領府が明らかにした。府内の食堂では、刺身と焼き魚も提供されたという。

大統領府が公開した写真には、政府職員やメディア関係者が海鮮料理を食べる様子が写っている。しかし尹氏と韓氏についてそうした画像は見られない。

東京都の小池百合子知事は処理水放出開始翌日の25日、昼食に福島産の生魚を食べた。都庁職員の1人が明らかにした。2011年に発生した東日本大震災からの復興を後押しする意図があったという。

都庁は職員用の食堂で先週、福島産の海産物を提供した。大阪府の吉村洋文知事は、全国の都道府県庁の食堂で福島県産の魚介類を食材として使っていくことを提案している。

米国のラーム・エマニュエル駐日大使は今週福島市を訪問し、地元でとれた魚を食べて処理水放出への支持を表明するとみられている。米大使館の職員がCNNに明らかにした。

対立の絶えない関係

日本と中国の間で緊張が高まる背景には、歴史的に対立が絶えない両国の関係がある。それは第2次世界大戦以前に端を発し、海洋での様々な領有権争いも絡んでいる。

中国による日本製品のボイコットはかなり頻繁に起きている。積年の怒りが頭をもたげる、もしくは領有権争いが激化するたびにそうした措置が取られると、専門家らは指摘する。

12年には、日中が領有権を主張する尖閣諸島を日本が国有化したことを受け、中国各地の都市で日本に反発する暴力的なデモが発生した。日本製品のボイコットのみならず、中国国内にある日本企業の関連工場に対しても激しい攻撃が仕掛けられた。

東大東洋文化研究所の松田氏は、現在の状況は12年と共通するところがあると指摘。当時と同様、怒りや不満を抱えている中国国民は高い失業率や生活費の高騰に直面しており、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の経済停滞からも影響を被っているという。

福島の問題は、単純にこうした不満のはけ口に対する引き金になっている可能性があるとも松田氏は分析する。とはいえ現状の論争が12年に見られた類の攻撃や街頭デモに発展する公算は小さいというのが同氏の見解でもある。

それでも、日中関係がまたしても緊張下に置かれているのが実情のようだ。中国側は公明党の山口那津男代表に対し、今週予定されていた訪中を延期するよう求めた。

ロイター通信によれば、山口代表は今回の訪中で習近平(シーチンピン)国家主席と会談し、岸田文雄首相からの親書を手渡したいと考えていたものの、中国当局は公明党に対し、「当面の日中関係の状況に鑑み、適切なタイミングではない」との判断を伝えたという。

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