最新の気候変動対策、サハラ砂漠で藻を育てて埋める

ブリリアントプラネット社は藻の養殖を通じて二酸化炭素を除去することを目指している/Brilliant Planet

2023.08.21 Mon posted at 18:00 JST

(CNN) 地球上でもおよそ人が住めないような場所のひとつ、サハラ砂漠の真ん中で、自然の力を利用した気候変動対策が芽吹き始めている。それも急ピッチで。

ロンドンに拠点を置くベンチャー企業、ブリリアントプラネット社は、モロッコ南部の人里離れた海岸沿いの町アクフェニルの郊外に6100ヘクタールの土地を借り上げた。北は大西洋、南はサハラ砂漠という土地で、藻の養殖を行うためだ。

藻は光合成により大気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し、酸素を放出する。最初の陸上植物が地球上に存在する前からずっと行われてきた営みだ。ブリリアントプラネット社のアダム・テイラー最高経営責任者(CEO)によると、同社は、実験室のビーカーから始まり、最終的には現地の海水を利用した1万2000平方メートルのプールで、劇的なスピードで藻を育てる方法を開発した。テイラー氏によれば、プロセスそのものは藻の自然な発育を模倣しており、試験管1個分の藻がわずか30日で、巨大プール16個分(オリンピック級のスイミングプールなら77個分)まで増える。

水から引き揚げた藻は、ポンプで高さ10階相当のタワーに吸い上げられた後、砂漠の大気に散布される。およそ30秒で地表に落下する間に、有機物質が大気の熱で乾燥され、塩分濃度が極めて高い薄片状の藻が残る。ブリリアントプラネット社は、これを集めて浅瀬に埋めれば、何千年もわたって二酸化炭素を隔離できると主張する。

「自然を利用した対策は、非常に素晴らしい二酸化炭素の除去方法だ」とテイラー氏はCNNに語り、砂漠は十分に活用されていない場所だと主張した。

「砂漠の借地料はそんなに高くない。(それに)政府はどんな経済活動でも大歓迎だ」と同氏は続けた。その上、「農地や森林と競合することもない。誰の邪魔もせず、迷惑にもならない」

二酸化炭素の除去

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の推計によると、地球の気温上昇を1.5度以内にとどめるには、2100年までに数千億トンもの二酸化炭素を除去しなくてはならない。

その最善策をめぐって、熱い議論が交わされている。さまざまな二酸化炭素の回収案が出されているが、最も注目を集めているのが大気から直接回収するやり方だ。米エネルギー省が数十億ドルもの資金を投じているこの技術は、フィルターを搭載した機械で大気中から二酸化炭素を取り除いた後、地下に貯蔵する、またはコンクリートなどの資材に利用するというものだ。だがいまだ小規模で、費用がかかる上に膨大なエネルギーを必要とし、有効性が実証されていないといった批判的な意見もある。

藻を繁殖させるための試験用の池の様子

他にも植林、バイオ炭、バイオエネルギーなど、地球上の植物群が二酸化炭素を吸収する自然の力を利用した回収・貯蔵策が模索されている。だがインフラ整備の必要性や、二酸化炭素を隔離するまでに時間がかかるなど、それぞれにメリットとデメリットがある。

テイラー氏によれば、ブリリアントプラネット社の方法を使えば、年間1ヘクタール当たりで見た場合、一般的な欧州の森林が吸収する量の30倍の二酸化炭素を永久的に除去できるという。

市民運動「ユース・フォー・クライメット・モロッコ」の創設者で、環境工学者のファトナ・イクラム・エルファン氏はメールインタビューで、藻を使った解決策を「斬新で将来性のある戦略」「差し迫る世界的問題の対策として、自然のプロセスを利用した画期的な方法の見本」と表現した。

モロッコの地理的特性はまさに最適だと同氏は言う。「二酸化炭素の回収・貯蔵計画に転換が可能な広大な砂漠地帯が、国内にはいくつもある」

とはいえ、エルファン氏は警鐘も鳴らす。「微小藻類の大量生産によって現地の生態系が破壊され、水資源が減少し、生息地が変化する可能性もある」と同氏は言う。「持続的な土地管理対策、効果率な水の消費、環境再生、法令順守、地元住民の参加、継続的な監視が必要だ」

生育の準備

アクフェニルにあるブリリアントプラネット社の実証試験場は現在3ヘクタール。来年には施設を30ヘクタールに拡張し、将来的には200ヘクタール、さらには1000ヘクタールの養殖場を建設する計画だ。

テイラー氏によれば、1000ヘクタールが商用化のベースライン。テイラー氏は、実現すれば、地元の熟練労働者を中心に250人の雇用を創出できるだろうと述べた。

ブリリアントプラネット社は実証試験の運営と拡張の資金を集めるために、「カーボンクレジット」を販売している。7月にはIT企業世界大手のブロック社と、27年までに1500トン分の二酸化炭素を除去するという初の大口契約を結んだ。

カーボンオフセット制度は人気が高まっているが、透明性や法規制の欠如が批判の対象となっている。また効果のほども疑わしい。

モロッコに設けた施設は時間をかけて拡張される予定だ

フリーランスで気候変動の顧問を務めるロベルト・ホグラン氏によると、カーボンクレジットの大半は二酸化炭素の除去というよりも、森林伐採をしないなどの「回避」という形で購入されているという。

ホグラン氏は二酸化炭素除去の世界市場を監視するプラットフォーム「cdr.fyi」の共同創設者でもある。ブロック社も含め、上場企業は400万トン以上の二酸化炭素排出権を購入しているが、そのうち現在までに除去されたのはわずか2%にとどまる。だが、ホグラン氏は、心配の種は必ずしもそこではないと言う。

「今日カーボンクレジットを購入する一番の理由は、今すぐできるだけ大量の二酸化炭素を除去することではない。技術革新を促進し、まだ若い業界を支援して、将来のニーズに応えられるよう成長させることだ」とホグラン氏は説明する。「ベンチャー企業からカーボンクレジットを事前に購入することで、史上初の施設が建設され、実証試験を行うことも可能になる」

テイラー氏も、目に見える形で相当量の藻の薄片が用意できれば、ブリリアントプラネット社のモデルにも関心が集まるだろうと期待している。

同社は現在までに、2600万ドル(約37億円)の出資を受けている。年内には第2回の募集をかける予定だ。

目標は、10年以内に年間100万トンの二酸化炭素除去を可能にすること。これは自動車21万7000台分の年間排出量に匹敵する。テイラー氏は、そのためには、複数の場所で1万ヘクタール分の用地と10億ドル前後の投資が必要だと述べた。

テイラー氏は、いずれの数字にもひるんでいない。「我々は利用できそうな50万平方キロの平らな海岸砂漠にすでに目をつけている」とテイラー氏は言い、次のターゲットはナミビアだと付け加えた。

そうだとしても、一つの企業ですべてを担うことはできないし、単独で進めることもできない。「大気中の二酸化炭素を取り除く奇抜で素晴らしいアイデアは、我々の他にもおそらく40~50はあるだろう」とテイラー氏は言い、二酸化炭素の回収にも「マンハッタン計画のような姿勢」が必要だと訴えた。

藻が解決策になるかどうかはまだわからない。だが、人々の間でアイデアは膨らんでいる。

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