黒海での反撃で活躍するウクライナ無人艇、開発の現場を取材 CNN EXCLUSIVE

ウクライナ軍の無人艇の開発現場にCNNの取材班が入った/CNN

2023.07.31 Mon posted at 17:45 JST

ウクライナ(CNN) 仮設の極秘軍事基地に、何の変哲もないワゴン車とピックアップトラックがトレーラーをひいてやってきた。荷台の上には、防水シートに覆われた二つのグレーの物体が積まれている。

激しい土砂降りの中では、物体はまるでボストンホエラー社製のボートのようだ。ウクライナがひた隠しにする秘密兵器にはとても見えない。

CNNは、ある湖のほとりにたたずむ軍事基地の独占取材を許可された。そこではウクライナが誇る海上(あるいは水上)ドローン(無人艇)の試験が行われていた。

防水シートをめくると、流線型をした鈍銀の船体が現れた。全長5メートル強の細身の艇は、幅広のカヌーに似ている。

これまでメディアには一切公開されなかった水上ドローンのおかげで、ウクライナ軍は次第に黒海やクリミア半島でロシア軍に対する攻撃や監視を行えるようになっている。実際の艦隊を持たないウクライナは、数の上でロシアに劣り、自国沿岸部で劣勢に立たされている。だがロシアに対抗する上で、水上ドローンが欠かせないツールであることが証明されつつある。

ウクライナ政府系募金組織「United24」は世界中の企業や個人から資金を調達し、集めた募金を防衛からサッカーの試合まで様々な取り組みや開発に分配してきた。

関係者はみな安全対策に神経をとがらせ、撮影や身元特定に関する厳格なガイドラインを守るよう要求した。今回CNNが取材した人物はフルネームだけでなく、ウクライナ軍での階級さえも公表を拒んだ。

きしみ音を鳴らす木造の桟橋で、迷彩服を着た水上ドローンのパイロットは「シャーク」と名乗った。シャークの前には細長い黒のアタッシュケース。中はマルチスクリーンの特製コントロールパネルになっている。手の込んだゲームコントローラーといった様相で、複数のレバーやジョイスティック、モニター1台がずらりと並ぶ。「起爆」などのラベルが貼られたボタン類には、うっかり押してしまわないようカバーがついている。

匿名希望のドローン開発者は、水上ドローンの開発に着手したのは戦争が始まってからだと明らかにした。開発は「非常に重要だった。我が国には海洋国家ロシアに対抗できるほどの十分な兵力がなかったからだ。それまで対抗能力がなかったため、ウクライナ製のものを開発する必要があった」と述べた。

ウクライナ軍は無人艇を使い黒海でロシアの艦船を攻撃している

黒海での戦闘

ウクライナは現在、成功の度合いはまちまちだが、そうした能力を発揮し始めている。

CNNが取材した最新ドローンは最大重量1000キログラムで、最大300キログラムの爆発物を搭載できる。移動距離は800キロメートル、最高速度は時速80キロメートルだ。

最近ではクリミア半島や黒海でロシアの所有物がたびたび水上ドローンの攻撃を受けていることが報じられ、インターネットにもドラマチックな動画が投稿されている。ウクライナ保安当局は全部ではないものの、一部について実行を認めている。

ウクライナ国防の情報筋も、最近行われた攻撃のうち少なくとも2件について関与をCNNに認めた。ひとつは7月のケルチ橋(クリミア橋)、もう一つは昨年10月のクリミア半島セバストポリ港だ。

嘲笑の的だったケルチ橋は9カ月間で2度攻撃に遭ったが、2回目の攻撃についてはウクライナ保安当局が海軍との合同攻撃だったと7月14日に主張した。

ロシア政府が約40億ドル(約5670億円)を投じ、プーチン大統領がじきじきに開通式を行った巨大な幹線道路は、違法に併合されたクリミア半島や南部戦線の占領地域に駐屯するロシア軍への供給網を断つ上で重要なターゲットだ。

夜明け前に行われた攻撃で橋の一部が通行不能となり、橋は9月まで閉鎖されることになった。

研究の成果が水面に波を立てるのを見守りながら、ドローン開発者はこう語った。「このドローンは100%ウクライナ製だ。設計も、進水も、試験もここで行っている。船体も電子機器もソフトウェアもすべて自前だ。製造の50%以上がここ(ウクライナ)で行われている」

ロシアはいまだにウクライナの最新能力に対応できていないとウクライナ側は主張する。

「ロシアがここまで小型のドローンを突き止めるのは相当困難だ。なかなか見つけられない」と開発者は言う。「ドローンのスピードは、現在黒海地方を航行するどんな船をもしのぐ」

スピードの速さと探知しにくさは、暗闇の中でドローンが黒海をわたり、橋に近づいて攻撃をしかけられた説明になると言えるかもしれない。

無人艇は全長約5メートルで、最高速度は時速80キロに達する

旗艦をねらえ

ウクライナはこの最新装備でロシアの黒海艦隊も標的にしている。沿岸を威嚇するように航行するロシア艦隊は、激しいミサイルの嵐に何度もさらされている。

最近の攻撃でロシアの重要インフラのひとつがドローン攻撃で損傷したが、攻撃はそれ以前からたびたび行われ、ロシア軍に存在を知らしめていた。

昨年10月には、セバストポリ港に停泊していたロシア軍黒海艦隊の旗艦「アドミラル・マカロフ」を水上ドローンが攻撃した。ウクライナ国防の情報筋はCNNに対し、攻撃を実行したのはウクライナ保安局(SBU)だと述べた。

旗艦が負った損害について確かな証拠は一切なく、アドミラル・マカロフは後日とくに大きな損傷もなく再び姿を見せた。だがドローンが船の攻撃範囲内に入り込めたという事実で、ウクライナ軍の成功率の高さがあらためて浮き彫りになった。

2022年4月にウクライナ軍によりミサイル巡洋艦「モスクワ」が沈没した後、代わって配備されたのがアドミラル・マカロフだっただけに、今回の大胆不敵な攻撃はウクライナ軍の士気を高め、世間へのプロパガンダにもなった。

先の兵士「シャーク」は、コントロールパネルからゆったり水上ドローンを操作しながらこう言った。「このドローンは船や艦隊を破壊する目的で作られている。かなり成功を収め、ロシア軍を恐れおののかせている」

アドミラル・マカロフの被害のほどは明らかでないものの、ウクライナ政府の意図は明白だった。

ロシア海軍の標的を攻撃したことで、ロシアは黒海沿岸から遠ざかることを余儀なくされ、ウクライナ内陸奥地へのミサイル攻撃がより困難になっていると開発者は主張する。「300、400、600キロメートルという長距離では、実行不可能な作戦や困難な作戦が出てくる」

それによってオデーサのような都市が「より安全に」なると開発者は言う。だがケルチ橋の攻撃後、オデーサは連日にわたってロシのア黒海艦隊から発射されるドローンや巡航ミサイルの激しい空爆を受けている。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産のうち25カ所が攻撃を受けた。ロシアは水上ドローンを隠している地域をねらっていると主張している。

ドローンの攻撃能力と成功事例により、開発者の物言いもいくぶん威勢が良くなった。

「(ロシアが)この手の装備に効果的に対処できるようになるには、あと5年、10年、いやそれ以上かかるだろう」と開発者は言った。「むこうは20世紀の設備、こっちは21世紀だ。あちらとこちらでは100年の開きがある」

無人艇開発の現場は ウクライナ

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