家族から給料もらう「専業子ども」、中国の若年層で増加 雇用市場の厳しさ反映

求職者が集まった中国・山東省棗荘市の就職説明会の様子/VCG/Getty Images

2023.07.28 Fri posted at 16:00 JST

香港(CNN) 写真家として成功しなくてはならないというプレッシャーに疲れ果て、リツキー・リーさんはもっと良い条件のオファーを受け入れた。それは仕事を辞め、中国で増大しつつある実家住みの子どもたちの一人になることだ。彼らには家族から給料が支払われる。

21歳のリーさんは現在、家族のために食料品の買い出しをして日々を過ごす。家は中国中央部の洛陽にある。認知症を患う祖母の面倒を見るのもリーさんの仕事だ。両親はリーさんに毎月6000人民元(約11万7000円)の給料を支払う。地元では堅実な中間層が受け取る賃金に相当するとみられている金額だ。

「家にいる理由は、学校へ通ったり仕事をしたりするプレッシャーに耐えられないから」と、高卒のリーさんは話す。「同僚と猛烈な競争はしたくない。だから完全に『寝そべる』ことを選んだ」。「寝そべる」というのはよく使われる言い回しで、過酷な時間や伝統的な家族の価値観を避け、より単調な人生を求めることを優先する行動を指す。

「今以上に高収入の仕事や高水準の生活は、必ずしも必要ではない」と、リーさんは言い添えた。

こう考えるのはリーさんだけではない。中国では現在「専業息子、専業娘」の存在が社会現象化している。この語は昨年後半、人気のSNSサイト「豆弁」に初めて登場した。

ソーシャルメディア上でそう呼ばれる数万人の若者の大半は、実家に引きこもる理由を単純に仕事に就けないからだと説明する。

中国都市部での16~24歳の失業率は先月、21.3%に達した。これは過去最高の水準だ。

中国・河北省での就職説明会で仕事を探す大卒者

問題は若年層の失業にとどまらない。鈍い国内消費や不動産市場の苦境など、コロナ禍からの景気回復が思うように進まない中にあって、中国指導部は大きな悩みの種をいくつも抱える。

しかも事態は、公式データが示唆するよりもっと深刻かもしれない。

北京大学のチャン・ダンダン准教授は先週、金融メディア「財新」への寄稿で、仮に実家で「寝そべる」もしくは親に依存する1600万人の若者を積極的に求職していない層として加えるなら、本当の若年層の失業率は3月時点で最大46.5%になっていた可能性があると指摘した。

「豆弁」では現在、「専業子どもの仕事に関するコミュニケーションセンター」と呼ばれるグループに約4000人が参加。日々の「仕事」に関連した話題を議論している。

別の若者向けプラットフォームでも、「専業息子、専業娘」というハッシュタグには4万件を超える投稿が寄せられている。

これらのユーザーの大部分は20代が占める。1980年代に生まれた現在の30代にも家族から財政的な援助を受けながら生活する層はいるが、彼らが通常実家でほとんど何もしないのに対し、20代の「プロフェッショナルな」子どもたちは親と時間を過ごし、財政的な援助と引き替えに家事をこなす。

前出のリーさんは「見方を変えれば、私たちは仕事を持っている若者たちと何の違いもない」と指摘する。家族は激しい出世競争から身を引いたリーさんの判断を支持しているという。

こうした傾向の背景として、新型コロナ禍での厳格な規制措置の下で自らの人生の目標などについて根本的に再考する若者が増えたことを挙げる社会学者もいる。

中国・江西省の万寿宮歴史文化地区で夜間に開催された就職説明会

とはいえ「専業子ども」でいることを、肯定的に受け入れる若者ばかりではない。東部江西省で「専業娘」となっているナンシー・チェンさんは大学を卒業後、民間の学習塾で教えていたが、2021年に職を失った。当局が営利目的の教育サービスを禁止したためだ。

現在24歳のチェンさんは実家で家事をしながら、政府の仕事に応募。大学院の試験も受けるなど、忙しい日々を送る。

「猛烈な競争」のため、今のところチェンさんはまだ何の仕事も得られていない。最近では地元自治体での3人の募集に対し、3万人が応募したという。

「それでも(専業娘を)長くは続けられない」「試験に受かるか、仕事を見つけるかしないと。そうでなければ不安になってしまう」(チェンさん)

専門家からは「専業子ども」という社会現象自体が長く続くことはないとの見方も出ている。しかしオックスフォード大学の中国センターとロンドン大学東洋アフリカ研究学院で研究員を務めるジョージ・マグナス氏は、 長期間労働市場を離れてスキルを身につけず、よりよい就業機会を探すこともない若者は、その後雇用に適さなくなる恐れがあると懸念を示す。

同氏によるとこうした条件を抱えた場合、短期的に仕事を変える状態が労働市場で定着するという。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。