ロシアの情報戦に柴犬で対抗、ウクライナ支援の「NAFO」はユーモアが武器

「NAFO」にはウクライナ支持者だけでなく、ジャーナリスト、学者、アナリスト、兵士も加わる/Petras Malulas/AFP/Getty Images

2023.07.17 Mon posted at 17:30 JST

(CNN) エストニアのカヤ・カラス首相が北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の前日ツイッターに投稿した動画は、一見、何の変哲もなさそうに見える。しかし動画の中でカラス首相は「史上初のNAFO首脳会議」に祝意を伝えていた。

動画の終盤、ウクライナ国旗の青と黄色をまとった漫画のような犬の姿が、カラス首相の背後に現れる。

NAFOはSNS上でロシアと戦うオンラインボランティア組織「北大西洋フェラズ機構」の頭文字。リトアニアの首都ビリニュスでこのほど首脳会議が開かれ、同国外相が開幕を宣言した。

NAFOのボランティア軍団は、言葉巧みにロシアの戦争に対するあざけりや荒らしを展開し、信用を失墜させる。主な戦場はツイッターとテレグラムで、ウクライナの支持者の間で相当数のファンを獲得し、世界の指導者の注目を集めている。


エストニアのカラス首相が話すツイッター動画の背後にはウクライナ国旗の色の服を着た柴犬の画像がひょっこり現れる/Petras Malulas/AFP/Getty Images

こうしたボランティアは「フェラズ」と呼ばれ、ウクライナ軍の装備をまとった柴犬のイラストをアバターやプロフィル写真に使用。さまざまな制服やメガネや兵器で柴犬に個性を持たせる。フェラズの中にはウクライナの兵士もいて、前線で戦いながら戦場の写真を提供し、ロシア軍の無能ぶりをけなしたり、ウクライナ兵の勇敢さをたたえたりしている。

NAFOは2022年5月、カミル・ディシェフスキ氏が資金集めの一環として設立。ウクライナの義勇兵「ジョージア軍団」のために寄付した人に、犬のアバターを提供している。

フェラズたちは、ロシアのプロパガンダやロシア寄りのシンパを見つけると、合成画像やユーモア、皮肉、揶揄(やゆ)のコメント投稿で対抗する。NATOにならい、相互防衛を定めた第5条を発動してフェラズ同士で応援を呼びかけることもある。

何もかも馬鹿馬鹿しいと感じのなら、それは正しい。だが偽情報やプロパガンダに詳しい専門家によれば、偽情報に対抗する情報戦争ではユーモアが強力な武器になる。

NAFOサミットに登壇するリトアニアのランズベルギス外相=8日

NAFO共同創設者のマット・ムアーズ氏は戦略国際問題研究所のパネルディスカッションで、「オンラインで漫画の犬に返答したら、その時点で負けだ」と指摘した。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官がやったのは、まさにそれだった。エストニアのカラス首相のツイートが投稿された直後、ザハロワ報道官はこう書き込んだ。「NAFOはEU(欧州連合)が戦っているらしいもの、すなわち憎悪発言、不寛容、あらゆる形の外国人嫌悪を体現している。これこそ西側の偽善の本質だ。ロシアに嫌がらせをするためなら、我々は自ら嫌なヤツになる、と」

NAFO運動にはウクライナ支持者だけでなく、ジャーナリスト、学者、アナリスト、兵士なども加わっている。2022年8月にはウクライナのオレクシー・レズニコウ国防相がNAFOフェラズに敬意を表し、ツイッターのプロフィル写真を一時的に柴犬のイラストに変更した。英国のベン・ウォレス国防相なども、NAFOの重要性を指摘している。

NAFOフェラズの投稿は時として行き過ぎと批判されることもある。最近では、エジプトでサメの襲撃を受け死亡した若いロシア人観光客をあざける投稿があり、ロシアの侵攻に反対する人々からも非難を浴びた。

だが、NAFOは編集者もいなければ検閲もない。若くて不作法で自意識過剰でイマドキの若者のコミュニケーションの典型だ。ロシアやロシアのプロパガンダは多くの場合、ユーモアにうとい。「NAFOフェラズ」は喜々としてそこに付け込んでいる。

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