巨大カイトで貨物船を曳行、航海中のCO2排出量削減目指す

風力を利用して貨物船を曳行する技術「シーウィング」の試験運転が実施されている/Maxime Horlaville/polaRYSE/Airseas

2023.07.15 Sat posted at 20:30 JST

(CNN) 風の力を利用して海上を曳行(えいこう)するカイトサーフィンはご覧になったことがあるだろう。同じ原理を1000平方メートルのカイトで想像してみてほしい。水面から300メートルの高さを飛行し、人間を引っ張って波間を抜ける代わりに、巨大貨物船を引っ張って大海原を進む巨大なカイトを。

これがフランスのエアシーズ社が開発した技術、「シーウィング」の基本概念だ。同社いわく貨物船の燃費削減に貢献し、その上二酸化炭素の排出量も平均で20%カットできるという。

2016年、フランスの航空機製造大手エアバス社のエンジニア2人がこのアイデアを思いつき、さらなる技術開発のためにエアシーズ社を設立した。数年にわたる研究の末、現在は米仏間を往復する貨物船でカイトの試験運転が行われている。

国際海事機関によると、化石燃料が動力源の大半を占める海運業は、全世界の温室効果ガスの約3%を排出している。だからこそ早急に変化を起こす必要があるのだと、エアシーズ社の創業者兼最高経営責任者(CEO)のバンサン・ベルナテット氏は言う。

グリーンアンモニア(訳注:再生可能エネルギーを用いて、二酸化炭素を排出せずに生成したアンモニア)をはじめとする代替燃料の開発が進められているが、まだまだ高価だ。インフラを整備してグリーンアンモニアが普及するまでには何十年もかかるだろうとベルナテット氏は主張する。「その間に何ができるか?」と同氏は問いかける。「今の段階では間違いなく、風を使うのが一番だ」

風力を動力源とする船が世に登場して久しいが、シーウィングは最先端技術を活用した21世紀版だ。カイトサーフィンと同じような翼型のパラシュートは折り畳み式のマストから発射され、使わない時にはマストに回収・収納される。

カイトの下にある箱の中では、飛行を制御する自動操縦ソフトウェアが稼働している。箱は長さ700メートルのケーブルで船に装着され、船体に動力を供給するとともに、データの送受信を行っている。

ベルナテット氏いわく、「他の風力技術と違う点は、翼が風で引っ張られ、船の抵抗を受けることがない点だ」。代わりに8の字を描いて飛行することで気流の引っ張る力を増幅させ、同氏の言葉を借りれば「クレージーなパワー」を生み出すのだ。

「その上海上300メートルで、通常の50%も強力な風を捕まえることができる」とベルナテット氏は続けた。この掛け合わせが「非常にコンパクトな装置の割には、大きな動力を生み出せる理由だ。舳先(へさき)に取り付けるだけでいい。しかも新品の船だけでなく、どんな船にも後付けできる」

いざ大空へ

250平方メートルのシーウィングは、1年以上もエアバス社(エアシーズ社の少数株主でもある)のチャーター船で試験運転を行い、大西洋を航行している。ベルナテット氏によれば、エアシーズ社のチームはカイトの配置・発射・飛行を続けているという。今年5月には船の曳行に成功したことが発表され、12月には「ダイナミックな」8の字飛行の試験が予定されている。

同社は欧州連合(EU)から2500万ユーロ(約39億円)の資金を調達し、すでにエアバス社や日本の川崎汽船(通称“K”LINE)から発注も受けているという。願わくば25年末までには本格稼働させたい考えだ。

カイトに曳かれている全長154メートルの船舶「ビル・ド・ボルドー」

英プリマス大学で機械工学および海洋工学設計を教えるリチャード・ペンバートン博士も、「全く疑問の余地なく、技術的には稼働できる」と太鼓判を押す。

博士はドイツのスカイセールズ社を例に挙げた。同じくこの会社もカイトを使った船舶推進装置を10年以上前から開発し、試験を行っている(先ごろ、スカイセールズ社の親会社は海上研究部門を海運業コンソーシアムに売却した)。

「風力アシスト型海運の問題は、風向きと船の目的地にかかっている」とペンバートン博士は言う。「船が向かう方向の真正面から風が吹いてきている場合、十分に効果を発揮できる風力装置はまだ世に出ていない」

向かい風の状態ではシーウィングも使用できず、機能させるには少なくともある程度風がなくてはならない。だがベルナテット氏は、「世界の海運業の70~80%で」燃料を20%削減し、太平洋や大西洋の航路、南北航路に計り知れない恩恵をもたらす可能性があると言う。

業界からの支持

ペンバートン博士の考えでは、最大の難関は業界がこの技術を受け入れられるかどうかだ。「二酸化炭素の排出量の大幅な削減になることは、100%間違いない。だが果たして広く受け入れられるだろうか?」

業界で受け入れられるためには費用が重要で、石油価格が大きく左右してくる。「過去を振り返ると、石油価格が高騰すると必ず風力アシスト海運への関心が高まっている」とペンバートン博士は言う。

燃料費の高騰が船舶所有者のシーウィング導入の動機づけになる、という点ではベルナテット氏も同じ意見だ。同氏は実際の導入費用について明らかにしなかったものの、顧客が燃料費削減コストを回収するには通常2~5年かかるだろうと述べた。また船舶がグリーン燃料に切り替える際、削減費用は膨大な額になるだろう。グリーン燃料はエネルギー密度が低いため、化石燃料よりも高価でスペースも取る。

「未来のグリーン燃料を大きく後押しすることにもなるだろう」とベルナテット氏。「我々の技術はグリーン燃料の早期導入の実現を可能にする。コストの一部を抑えることで燃料の競争力が高まるからだ。それだけでなく、航行に必要なグリーン燃料の量も低減できる――現時点ではそこが一番のハードルだが。何しろ燃料用のタンクが大きければ大きいほど、運べる貨物は少なくなるのだから」

ベルナテット氏にとってはそこがチーム最大のミッションだ。「我々は海上輸送のカーボンフットプリント削減に貢献したいと思っている。だからこそこうしてエネルギーを注ぎ込み、次のステージへと向かっている」

「風力が次にくるのは絶対間違いない。海上輸送に大きな変化をもたらし、おそらくは革命を起こすだろう」

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