航空機の2段式シート、改良版がお目見え CNN記者が再び体験

2段式の「シェーズロング」シートを設計したアレハンドロ・ヌニェス・ビセンテ氏(左)。中央はCNN Travelのフランチェスカ・ストリート記者/1OFF Media

2023.07.15 Sat posted at 12:15 JST

ドイツ・ハンブルク(CNN) 飛行機で他の乗客の真下の席はいかが?

文字にするとそれほど魅力的に感じないかもしれないが、航空機の座席専門のデザイナー、アレハンドロ・ヌニェス・ビセンテ氏(23)は、この2段式の座席こそ、エコノミークラスの未来の姿だと信じている。

ヌニェス・ビセンテ氏のシェーズロング(長椅子型)機内シートのプロトタイプの写真はネット上に出回っているので、目にしたことがあるかもしれない。昨年、CNN Travelの独占取材をきっかけに、このヌニェス・ビセンテ氏のコンセプトは急速に広まった。

ヌニェス・ビセンテ氏の2段式シートのコンセプトは、2021年に大学のプロジェクトとして始まった。21年に航空業界のトップの賞の一つであるクリスタル・キャビン・アワードにノミネートされたのをきっかけに、同コンセプトは一躍脚光を浴びた。ヌニェス・ビセンテ氏は修士課程を中断し、自分のビジョンを実現するために時間、資金、労力をすべて注ぎ込んだ。

時は流れ、今やヌニェス・ビセンテ氏は数多くのスポンサーを抱え、複数のパートナーシップ契約を結び、さらに航空業界の「大物たち」と定期的に会談している。

快適さとキャビンの収容能力

将来、乗客としてこのシートを利用するかもしれない人々は、閉所恐怖症になるのではないかと顔を曇らせ、批判的な人たちは、この座席のデザインはあくまで航空会社が機内により多くの座席を詰め込めるようにするのが目的だと主張する。しかし、ヌニェス・ビセンテ氏によると、彼らは同氏の意図を誤解しているという。

まず、ヌニェス・ビセンテ氏は従来の飛行機の座席を完全になくそうとしているわけではない。同氏が思い描いている航空機のキャビンの姿は、中央にシェーズロング・シートが配置され、その両側に従来の座席が配置されているというものだ。

下段のシートでは前方のスツールに脚を伸ばすことができる

ヌニェス・ビセンテ氏は、このシェーズロング・シートがすべての人に向いている、あるいは好ましいわけではないことは承知しているが、一方で、一部の乗客には従来の座席よりも快適かもしれないと考えている。

身長が1.88メートルと長身のヌニェス・ビセンテ氏は、窮屈な機内で足元のスペースの狭さに悩まされたり、眠れないといった状況を何度も経験してきた。シェーズロング・シートを設計したのは、航空機の座席をめぐるさまざまな問題を解決するためであり、現在の状況をさらに悪化させるためではない、とヌニェス・ビセンテ氏は主張する。

しかし、航空会社にとってのシェーズロング・シートの魅力は乗客数が増えることだということはヌニェス・ビセンテ氏も認めており、それがこのシートの優先事項や目的ではないとしながらも、デザイン的に乗客数を増やすことも可能だと語る。

今年、ドイツのハンブルクで開催される航空機内装の見本市「AIX」で、多くの航空会社の幹部たちがヌニェス・ビセンテ氏の最新のプロトタイプを体験する。

ヌニェス・ビセンテ氏は、航空業界からのフィードバックをいつも楽しみにしているが、将来このシートを利用するかもしれない一般の旅行者たちの意見も熱望しているという。

今、シェーズロング・シートは仮想空間「メタバース」上で体験可能で、シートが実際にキャビンに配置されるとどのように見えるかが分かる。またユーザーは仮想空間内でシートの周りを歩き回りながら視察できる。

ただ、ヌニェス・ビセンテ氏は、あらゆる人にシェーズロング・シートのプロトタイプをじかに体験し、率直な意見を提供してほしいと考えている。

実際に座ってみた感想

AIX 2023で、CNN Travelはシェーズロング・シートの最新のプロトタイプを最初に体験した。昨年の概念実証よりもわずかに「リアルさ」が増したというのが、筆者の最初の印象だ。このプロトタイプは上段に2列、下段に2列の計4列の座席がある。1995年に使用されていた航空機の座席をアップサイクルしたものだが、実際にリクライニングが可能なため、シェーズロング・シートが実際の機内でどのように機能するかをイメージしやすい。

今回の新しいデザインは、同じ基本的な2段式のコンセプトは維持しつつ、いくつかの細かな修正を加えている。例えば、以前は不安定なはしごのような階段で上段のシートに上がっていたが、より頑丈な階段に変更された。また、下段の荷物は前の座席の下に収納できるようになった。さらに、フライト中の娯楽は、備え付けのスクリーンではなく、乗客が自分のデバイスで楽しむという考え方だ。

またヌニェス・ビセンテ氏は、上段のシートの足回りのスペースを改善したと述べており、筆者もかなり広いと感じる。さらに、同じ高さで自分の真後ろには誰もいないため、座席の背もたれをかなり後ろまで倒すことができるのは大きなメリットだ。


AIX 2022で公開された以前のバージョン/Francesca Street/CNN

このデザインなら乗客数を増やすことも可能だが、ヌニェス・ビセンテ氏は、目指すのはあくまで乗客の快適さだと語る

またヌニェス・ビセンテ氏は、実際の機内の天井の高さがどのくらいか分かるように、上段のシートの上に梁(はり)を追加した。筆者の身長は1.78メートルだが、自分には十分なスペースと感じる。ただ、実際のキャビンで床よりも天井に近い位置にいるというのが一体どのような感じなのかを想像するのは難しい。

下段のシートについては、狭い空間が苦手な私のような人間には非常に窮屈に感じるが、これはあくまで個人の見解の問題だろう。たしかに自分の目の前に1列の座席があるというのは誰にとっても魅力的ではないだろうが、中にはあまり気にならない人もいるだろう。シェーズロング・シートは足を伸ばせるスペースが通常のエコノミークラスの座席よりもはるかに大きいことを考えればなおさらだ。

昨年と同様、フライトの間ずっと寝ていたい旅行者にとっては、このシートは効果的な解決策になりうるというのが筆者の結論だ。

また上・下段のシートにそれぞれ3人ずつ座るのはやや窮屈に感じるが、ひじをのせるスペースをめぐって争いになるのは、従来のエコノミークラスと全く同じだ。

下段のシートは、使用しない時には劇場のシートのように折りたためる。そのため下段のシートはやや使い勝手がよく、車いすの乗客も収容可能だが、上段のシートについては、足が不自由な人は利用できない、とヌニェス・ビセンテ氏は言う。

空の旅の未来

このシェーズロング・シートには複数の航空会社が興味を持っているとヌニェス・ビセンテ氏は言うが、だからといってこのアイデアが実現するとは限らない。

またヌニェス・ビセンテ氏は、一般に航空会社はエコノミークラスへの投資に興味がないことも痛感している。ニュージーランド航空の新しいエコノミークラス「スカイネスト」のような例外もあるが、通常、イノベーション(技術革新)が起きるのはビジネスクラスかファーストクラスだ。

それでも、ヌニェス・ビセンテ氏は、この2段構造のシートはいずれ、どんな航空機のキャビンクラスにも適応可能になると考えている。

「結局、2段式シートを導入することにより、空間を最大限に利用できる。2段式でなければ空気しかないスペースを有効活用できるのだ」(ヌニェス・ビセンテ氏)

航空機の2段式シート、改良版を体験

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