ベナン・コトヌー(CNN) ベナンの港湾都市コトヌーにある車の販売・オークションなどが行われる駐車場フィファパークで、ロキーブ・ヤヤ氏は車の値引き交渉中だ。
この広大な駐車場には数百台の車がずらりと並んでおり、ピカピカで新しそうな車もあれば、へこみがあったり、ほこりをかぶったりしている車もある。
ヤヤ氏が目を付けている車は2008年に米国で生産されたフォード・エスケープだ。価格は約4000ドルと、比較的手頃な価格だ。フィファパークでは、米国車は他の大半のブランドに比べて安い。ヤヤ氏は所有するオートバイから車への乗り換えを希望している。ヤヤ氏にとって重要なのは価格のみで、その車の歴史に興味はないという。
このフォード車は一体どのような経緯でコトヌー最大の駐車場の一つであるこのフィファパークにたどり着いたのか。その背景には、かつて欧米諸国で乗られていた多くの燃費の悪い車たちが、西アフリカで第2の人生を送り始めているという現実がある。
14年前に生産されたこのフォード車は、昨年の自動車オークションで売却された後、米国からベナンに輸送された。
このフォード車のように、今、日本、韓国、欧州諸国、米国といった豊かな国々から毎年、数百万台の中古車が西アフリカに輸送されており、その多くが最終的にベナンに行き着く。今やベナンはアフリカ最大の中古車輸入国の一つだ。
ベニンの港湾を行き交う船。米国を含む欧米諸国から到着した車はここにたどり着く/Prosper Dagnitche/AFP/Getty Images
欧米諸国が電気自動車(EV)にシフトしているのに伴い、西アフリカの港に向かう中古車の流れは、今後さらに増えると見られている。豊かな国々は、地球温暖化の原因となる汚染を減らすために、積極的な目標を設定し、消費者を電気自動車に移行させようとしているが、だからといってガソリン車が姿を消すわけではない。
多くのガソリン車は、人口と中古車に対する需要が増加している遠く離れたベナンのような発展途上国に輸送される。
その結果、気候・環境問題は、気候危機に最も脆弱(ぜいじゃく)な国々に転嫁され、それらの国々が独自に行っている地球温暖化につながる汚染を減らす取り組みを台無しにしてしまう、と専門家らは指摘する。
爆発的需要
中古の軽量車(乗用車など)の世界市場は2015年から19年にかけて約20%成長し、19年には480万台以上が輸出された。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった20年に輸出がわずかに減少したが、輸出台数はかなり急速に増加している、と国連環境計画(UNEP)のロブ・デ・ヨング氏は言う。
UNEPのデータによると、米国は世界の中古車の約18%を輸出している。米国の中古車は、中東や中米など、全世界に輸出されているが、その多くはナイジェリア、ベナン、ガーナに輸送される。
中には事故車や水没車、単に古すぎる車などもあり、それらはパーツ用に競売にかけられる。また、米国の自動車ディーラーが手放そうとしている無傷の中古車もある。
ケニアやナイジェリアなどの主要なアフリカ諸国では、乗用車やトラックの9割以上が外国製の中古車だ。デ・ヨング氏の拠点であるケニアでは、車の保有台数が8年ごとに倍増しており、以前は全く車が走っていなかった通りが、今は車でいっぱいだという。
アフリカでは、これらの中古車に対する需要が極めて大きい。
「アフリカの人口は非常に若く、彼らは日々裕福になっている」と語るのは、車専門のオンラインマーケットプレイス、オートチェク・アフリカの最高経営責任者(CEO)、エトップ・イプケ氏だ。
「アフリカの若者は、物を買う余裕ができると、最初に欲しがるのは移動手段だ」とイプケ氏は言う。
しかし、アフリカでは米国のようにクレジットを利用できる購入希望者はほとんどいないため、新車には手が届かない人が多い。
イプケ氏は「それこそが、我々が販売する車の品質を上げられない根本的な理由だ」とし、さらに「人々が中古車に乗りたがっているわけではなく、単に価格の問題だ」と付け加えた。
欧米で電気自動車が普及すれば、アフリカ諸国への中古車の供給が増えるため、今後、中古車に対する需要はさらに急増する可能性がある、と専門家らは指摘する。
しかしUNEPのデ・ヨング氏は、より大気を汚染し、安全性も低い傾向にある経年劣化したガソリン車がアフリカに入ってくることに懸念を示す。
アフリカで車に対する需要が高まっている結果、アフリカに輸出される古い事故車の数が20年前よりも増えていることを示す証拠もある。
デ・ヨング氏は「現在、さまざまな種類の中古車が北の先進国から南の発展途上国に輸出されている」と述べ、さらに「台数が増えている一方、車の質は低下している」と付け加えた。
「環境に有害か、安全性を欠く」
UNEPによると、米国、欧州、日本からアフリカ、アジアに輸出される数百万台の車は、「環境を汚染するか、安全性を欠くか」のどちらかだという。
「それらの車は故障があったり、部品が欠損したりしていることが多く、有毒ガスを排出し、大気汚染を悪化させ、気候変動対策の取り組みを妨げている」とUNEPは指摘する。
これまで西アフリカに入ってくる輸入車の汚染削減と安全性の向上を目的とした規制は緩い傾向にあったが、最近これらの規制を強化する試みがなされている。
2020年に、ベナンを含む西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)に加盟する15カ国が、西アフリカにおける自動車排ガス規制を設けることで合意した。その中には、中古車の年式制限(10年)や、車が排出可能な炭素量の制限などが含まれている。
しかし、これらの規制がどれだけ厳格に実施されているかは定かではない。
またデ・ヨング氏をはじめとするUNEPの職員らは、米国や欧州連合(EU)の当局者と、古すぎる車やジャンク車の発展途上国への輸送を取り締まる新しい規制の導入について話し合ってきた。しかし、これらの話し合いはまだ初期の段階で、まだ何らかのコミットメントを示すまでには至っていない。
しかし、デ・ヨング氏は、気候変動や地球規模での二酸化炭素の排出は中古車をめぐる議論を一変させたと語る。
より古く、より多くの汚染物質を排出する中古車の出荷増は、それらの車が実際に走っている発展途上国だけでなく、先進国にとっても問題だ、とデ・ヨング氏は付け加えた。
さらにデ・ヨング氏は「気候変動が進んでいる今日、どこで汚染物質が排出されているかは大して重要ではない」とし、さらに「それがワシントンDCだろうと(ナイジェリアの)ラゴスだろうと関係ない」と付け加えた。
オートチェク・アフリカのイプケ氏は、欧米でお払い箱になった古いガソリン車を必ずしもアフリカが引き受ける必要はないと考えている。イプケ氏は、アフリカ大陸でも電気自動車への移行が進むことを望んでいるが、そのためには充電インフラの大幅な改善が必要だ。
一方、ヤヤ氏はアフリカで電気自動車が普及するのははるか先の話と考えている。ヤヤ氏がフィファパークで中古のフォード車に目を付けたのは、他に選択肢がなかったからだ。
「自分の予算で購入可能な車しか買えない」(ヤヤ氏)