(CNN) 英国王ヘンリー8世が晩年、祈祷(きとう)書に複数の書き込みを残していたことが、新たな研究から明らかになった。自身の健康状態や過去の行いに対する苦悩がうかがえる。
ヘンリー8世の治世は1509年から47年の死まで続いた。一連の書き込みは、ヘンリー8世の6番目かつ最後の王妃となったキャサリン・パーによって翻訳された「詩編または祈り」のうちの1部に残されている。カナダ・カールトン大学英文科のミシェリン・ホワイト准教授が偶然発見した。
ホワイト氏は6月27日、CNNの取材に対し、余白への書き込みは祈祷書の調査中に「全く思いがけず」見つかったと説明。ヘンリー8世に関する過去の研究から筆跡を認識できたと語った。
「とにかく驚いた」「この本に書き込みがあると知らなかった」(ホワイト氏)
書き込みの発見は全くの偶然だったと、研究者のミシェリン・ホワイト准教授は語る/The Trustees of The Wormsley Fund
ヘンリー8世は2種類の書き込みを残している。一つは「マニキュール(指さしマーク)」と呼ばれ、突き出した人さし指を描いたもの。もう一つは「トレフォイル(三つ葉模様)」と呼ばれるもので、三つの点と曲線が描かれている。
ホワイト氏は余白の書き込みをヘンリー8世が別の本に残した筆跡と比較し、大きさや形、指さしマークに描かれた特徴的な袖口などから、祈祷書の書き込みもヘンリー8世によって書かれたものだと結論付けた。
当該の祈祷書はパーがヘンリー8世に贈ったもので、現在は英イングランド・ストークンチャーチのウォームズリー図書館に所蔵されている。1544年に印刷され、「悔い改めや知恵、敵の破壊を求める祈りや、王自身や軍隊のための祈りが含まれている」(ホワイト氏)という。
ホワイト氏は「祈祷書を読んでいたヘンリー8世に何か気がかりなことがあったのは明らか」と語る。ホワイト氏は4つの詩編の余白に計14の書き込みを発見した。
ヘンリー8世は2人目の妻、アン・ブーリンと結婚するために英国教会をカトリック教会から分離させたことで知られる。
祈祷書の一節には、神の罰によって語り手が「衰弱」したとの言及がある。当時のヘンリー8世自身、健康状態が悪化していた。
「ヘンリー8世は神の罰で体調が悪化しているのではないかと心配していた」とホワイト氏は解説する。
当時のヘンリー8世はフランスとの戦争も抱えていた。祈祷書の他の写しは選ばれた宮廷人に配布されており、受け取った相手に対仏戦争への支持を求める役割を果たしていたとみられるという。
ヘンリー8世の手元にあった祈祷書は書き込みも含め、選ばれた宮廷人によって読まれたとみられ、個人の気持ちを映すのみならず、政治的な役割も果たしていたようだ。
右側の余白に指さしマークが書き込まれている/The Trustees of The Wormsley Fund
「ヘンリー8世は自分が模範的な存在であることを示そうとしていたのだと思う」とホワイト氏は指摘し、神に正しい道への導きを求めるくだりの横に書き込みがある点に言及した。
「彼は明らかに心配していた」とホワイト氏。「自らの治世が終わりに差し掛かり、多くの心配事を抱えていたのは間違いない」という。
研究結果は専門誌ルネサンス・クォータリーに掲載された。