膨大なCO2排出源、コンクリートを環境に優しくする取り組み

バーニー・シャンクス氏(左)とサム・ドレイパー氏はカーボンニュートラルなコンクリートの開発を進めている=英インペリアル・カレッジ・ロンドン/Helene Sandberg

2023.07.01 Sat posted at 19:00 JST

(CNN) この世界はコンクリートでできている。耐久性があり、安価で、ビルにも橋にもトンネルにもよく使われている建設資材だ。だが至る所にあるがゆえに、環境に与える影響もばかにならない。

コンクリートは砂や砂利などの骨材を水と混ぜて製造し、セメントで接合される。コンクリートのカーボンフットプリント(製造から廃棄までの過程で出る二酸化炭素の量)で、最も大きいがこのセメントだ。

とくによく使われているのがポルトランドセメントで、石灰を窯で焼成して製造する。英シンクタンクの王立国際問題研究所(チャタムハウス)によると、2021年のセメント製造量は40億トンを超え、製造過程で排出された二酸化炭素は全世界の排出量の8%を占めた。建設業の脱炭素化が叫ばれる中、世界各地で環境に優しいコンクリートの製造方法の研究が行われている。

「コンクリートは素材として素晴らしく、頼もしい存在なので、あらゆる場所で取り除くのは困難だろう」と言うのは、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの博士課程で学ぶサム・ドレイパー氏だ。「可能であれば木造建築への移行もありうるが、コンクリートは多くのインフラで必要とされている。そしてコンクリートの製造には、ある種のセメントが必要だ」

ドレイパー氏は同僚研究員のバーニー・シャンクス氏と共同で、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)なコンクリートを可能にするセメント製造法を考案した。

2人が考案した方法は、カンラン石という豊富に存在する鉱物を、マグネシウムとシリカに分解するところから始まる。生成されたシリカは、コンクリートで使われるポルトランドセメントの35~45%を直接置き換えることが可能だ。マグネシウムのほうは二酸化炭素と結合して炭酸マグネシウムに変化した後、建設資材として焼成粘土レンガや石膏(せっこう)ボードの代替品などに使われる。

ドレイパー氏いわく、製造過程で発生した二酸化炭素は、大気中に排出する代わりにセメント工場の煙突から回収できるため、この方法で製造されたコンクリートはカーボンニュートラルになる。また炭酸マグネシウムは安定した炭素貯留先になる。

「炭素隔離の観点から言えば、建設業の利点のひとつは巨大でかさがあることだ。おかげで大量の二酸化炭素を貯留できる」とドレイパー氏は言う。

「建物は長持ちするものが多いので、長期的にしっかり炭素を隔離できる。排出された二酸化炭素を燃料などに再利用するのも良く、循環利用になるが、燃料を燃やしたとたんにCO2が排出される。建造環境なら二酸化炭素を長期間封じ込めることができる」(ドレイパー氏)

20年から実験を進めてきたドレイパー氏とシャンクス氏は、21年にセラテック社を立ち上げた。近くインペリアル・カレッジからの正式な独立分離を控えており、週に数トンのセメントを製造できる大型実験施設の建設に向けて民間資金を募ることが可能になる。

セラテック社の製造工程は賞などを獲得している

「まったく同じものでないと」

セラテック社のセメントは性能の面で、「業界の最高基準」となるポルトランドセメントと変わらないとドレイパー氏は言い、建設業界で受け入れられるにはその点が重要だと付け加えた。「この点が低炭素技術の大きな原動力になると思う」と同氏。「見た目も触感も同じでなくてはならない。まったく同じものでないと、実社会では使ってもらえない。非常にうれしいことに、我々はその点でかなり成功したと言えると思う」

同社は昨年、「人間と地球に貢献する建築を奨励する」国際的な賞、オベル賞を受賞した。受賞者についてオベル賞は、「建設業界が膨大なカーボンフットプリントを残していることを考えれば、セラテック社の製造工程は世界全体の二酸化排出量を大幅に削減し、将来の低炭素建設を支える可能性を秘めている」と評した。

ドレイパー氏は同社のセメントについて、現在は研究段階のため非常に高価だと認めつつも、規模が拡大すればコスト面でポルトランドセメントと張り合えるだろう指摘する。セラテック社は25年前半までに実際の建物でセメントの検証を行う計画で、27年までに大規模な実地試用に着手し、複数の事業にセメントを供給したい考えだという。

他にもいくつかのスタートアップ企業が、コンクリートに二酸化炭素を直接貯留する方法を模索している。カーボンキュア社では回収した二酸化炭素を混合中のコンクリートに注入し、セメントと化学反応させてより強度の高いコンクリートを製造している。二酸化炭素の隔離だけでなく、強度を高めることで、より少ないセメントでコンクリートを製造できるそうだ。同じくカナダのカービクリート社は、工業プラントで回収した二酸化炭素を鉄鋼製造で廃棄された鉄くずと結合させることで、セメントを100%代替できるという。

マングローブ保護区で塩水を調べるケマル・セリク氏=アブダビ

塩水からセメントを作る

アラブ首長国連邦(UAE)では、コンクリートのカーボンフットプリントを削減しつつ、別の環境問題の対策にもなるような方法が研究されている。

UAEでは海水を脱塩化することで飲料水の大半を賄っているが、副産物として塩水――鹹水(かんすい)とも呼ばれる――が生成される。ポンプで海に戻しているため海の塩分濃度が上がり、海洋生物にとっては有害になりかねない。

土木と都市工学を専門とするニューヨーク大学アブダビ校のケマル・セリク助教は、高濃度マグネシウムをはじめとする有益な鉱物が鹹水に含まれていることを発見した。

「具体的には、脱塩工場から廃棄された鹹水を使って、ごく簡単な化学反応を起こしている」。セリク氏のチームは鹹水を固体と液体に分離した後、マグネシウム成分からセメントを製造する方法を開発した。

「マグネシウム由来のセメントは新しいものではない。だが炭酸マグネシウムの調達源といえば、鉱山業が一般的だ」とセリク氏は説明する。従来のマグネシウム由来のセメントは加熱作業が必要なため、二酸化炭素が発生する。だが鹹水からセメントを製造すればコストパフォーマンスもよく、環境にも優しいとセリク氏は続けた。

研究はまだ概念実証段階で、1日に4000~5000リットルの鹹水で扱っているという。だがセリク氏は製造規模を拡大して、建設業での実用を可能にしたいと考えている。

「一番の難関は業界そのものだ」とセリク氏は説明する。「建設業はとくに歴史が古い業界で、既存の資材をあまり変えたがらないところがある。そういう意味で、業界や世間に認知を広めていかなくては」

だがセリク氏は難関に挑む決心を固めている。「研究者である我々は社会に奉仕しなければならない。だからこそ、気候変動対策でほんの少しでも世界に役に立つような研究に、ここまで没頭しているのだ」

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。